明らかになる真実
ユウ君。
あの時、私の最も大切なあの時間で共に過ごした、大切な人。
でも私はあるきっかけからユウ君から離れないといけなくなって。
結局。心を壊してしまうまで会えずじまいだった。
そのユウ君がハーツイーターに襲われた私を助けてくれた。
「ユウ君…」
「久しぶりだね、カノン。7年くらいぶりだったっけ?」
「う、うん」
ユウ君は変わらず、記憶の中にあるユウ君の屈託のない笑顔で私を見つめてくる。
こんなに久しぶりに出会ったのに、昨日まで一緒にいたような、そんな感覚についつい陥ってしまう。
「びっくりしたよ、まさかこんなところにいるなんて。それに服もボロボロじゃないか。
何があったの?」
私はこれまでに何があったのかを説明する。
「…そんなことがあったんだ。
そうか。ミユが…」
ユウ君もミユのことはしっかり覚えていたみたいだ。
…ってあれ?
「ちょっ、ちょっとユウ君!なんで私の名前が…?」
先ほどまでの恐怖心からか、少し本能が活発化しているのかもしれない。
隠しきれないほどの大きな驚きの出来事が私の前で起こった。
私の名前を、知っているのだ。
よくよく思えば、あの時のユウ君より成長している。
同じくらいだった背は随分と差が付いてしまったし、顔立ちも以前より凛々しくなったというか…。
「ああ。まぁ込み入った事情がね。
カノンはこの世界についてはまだ…?」
「え?まぁ、その、どんな世界なのかなって仮説は立てたけど詳しいことは何も…」
「そっか。それじゃ、説明しながら近くの街へ向かおう」
そう言ってユウ君は、ボロボロになった上に水に濡れてしまった私の体を包むように、自分の上着を羽織らせてくれた。
◆
「…僕はこの世界に来る時、この世界について教えてくれた声があったんだ。
もともと、その声に導かれてここに来たんだけど…」
つまり現実の場所から来たということなんだろう。そもそもそんなことがあるのか、と思ったけど、現にここにユウ君も、私もいるのだからそう思わざるを得ない。
「この世界はカノンの心の中を映し出した世界なんだよ。心象世界って言うのかな。
とにかく、そんな場所なんだ」
やはりそうだったんだ。
未だに心のどこかではこんなことありえない。夢だって思っている自分もいるけど。
「ミユもいたんだよね?」
「あ、うん。無事だといいけど…」
「ミユも君の心や記憶から形成されたこの世界の住民なんだ。
カノンのことを知らなかったのもあくまでこの世界の住民であるからなんだろうね」
…私の仮説って大体合ってるんじゃないかなって思い始めてきた。
まぁ、ある程度発想を繋げていけば予想できるレベルではあると思ったけれど。
「ハーツイーターについては聞いたんだよね?
なら、僕について、かな」
それはすごく気になっていた。
ここが私の心の世界なら、なぜユウ君がここに?
「…と、そろそろ街に着くから。
続きは宿屋で話すつもりだけどいいかな?」
「うん、私は構わないよ」
ナミダノマチと書いてある看板がなぜか目に入った。
「涙の、街?」
「ナミダノマチ、って言うんだって」
ユウ君はそう言った後、小声で何かを言っていた気がしたけど、私はそれを聞くことができなかった。
「宿屋に向かおう。輝晶はしっかりある」
宿屋の部屋にて。
私とユウ君は話の続きをすることにした。
「…それでユウ君、どうして君はここに?」
「…僕は君の心を救いに来たんだ」
耳を疑うような言葉に、一瞬何を言っていたのか理解ができなかった。
「どういう、こと?」
「君の心は壊れてしまった。僕はそれをたまたまだけど知って、君の病院までやってきた」
あの聞き覚えのある声はやっぱりユウ君だったんだ。
駆けつけて、くれたんだ。
「でも君は僕の声には届かなかった。
正直なところ、悲しかった。
昔の大事な友達がこんなことになってしまったんだから」
そう言ってくれて、私はとても嬉しい気持ちになった。ユウ君も大事だと思ってくれていたんだって。
「…仕方なく、帰ろうと思った時。
声が聞こえたんだ。大事な人を、助けたいかって。
最初は疲れからの幻聴なのかとすら思ったよ。
でも違った。
その声が聞こえる光を辿ると、この世界に来ていた。そして声に導かれるまま、世界についていろいろなことを覚えた。
しばらく旅をして、それで今に至るんだ」
その声っていうのが何なのか、私にはわからなかったけどそれが私とユウ君を引き合わせてくれたんだ。
「ん、でも私の心を救うって…どういうこと?」
「うん、この世界は君の心とリンクしている。
壊れてバラバラになってしまったカノンの心だけど、この世界にいる様々なカノンの感情をここにいるカノンと同化させることで、救えるみたいなんだ」
「それって、私が現実で目を覚まして、動けるようになるってこと?」
そんなことが、できるのだろうか。
本当なら私はユウ君に感謝してもしきれないだろう。
ぜひお願いしたかった。お願いしたかったけど、今ここにいない、『理性の私』の言葉が頭の中に引っかかった。
理性の私はよく本能の私に問いかけていた。
仮にこのまま最期の時まで待つのではなく、動けるように、今までのように生きることができるようになったところで、その先に幸せは本当にあるのか。
心を、壊してしまうような出来事があったこんな世界で、幸せに生きることができるのだろうか、と。
私は、ユウ君に会えた。現実でも会いたい。
もうずっと会ってないミユにも、会いたい。
本能の私の意思と、理性の私の言葉に、私の心は揺らいでいた。
そうして悩んでいると、先に口を開いたのはユウ君の方だった。
「…と言っても、まだよく飲み込めないよね。
でも、本当のことなんだ。
信じてほしい」
「ユウ君の言葉に嘘はないって思ってるよ。
ただ、まだ整理が必要かな。ごめんね、ユウ君。せっかくユウ君がここまでしてくれてるのに私が優柔不断で…」
「いや、いいんだ。落ち着いて、しっかり考えてから答えを出してほしい」
そう言ってユウ君は、飲み物を取ってくると言って部屋を出て行った。
…私は、どうするのが一番いいのかな。
……幸せを掴むためには、どうしたら?
この、不思議な世界で本来受け入れるはずだった運命を拒み続け、生き続けるのが幸せなのだろうか。
それとも、本来の運命を受け入れてしまい、楽になるのが幸せ、なのだろうか。
「そんなもの、後者に決まっているだろう?」
いつも聞く、だけど違和感のある、そんな声が聞こえる。
「ここに来てたんだね、理性の、私」
いつも聞いてはいる。でも自分が思ってるより、自分の声って少し違うものだ。
でも、何となくすぐに理性の私ってことに気づくことができた。
…だいぶこの不思議な場所に馴染んできている証拠だな、と思った。
「それで、どうして後者の方が幸せなの?」
「当たり前だよ、ユウ君に助けてもらったところで、幸せが待っているわけがない」
「でもユウ君は、きっと私を」
「幸せにしてくれるはずだ、と?
詭弁、だね。たとえユウ君が私を救ってくれたところで、その後にわかるであろう、心を壊したきっかけを知ることになったらどうする?
今でこそ、記憶がない以上そのようなことを言えるが、記憶が蘇った上で同じセリフが言えるの?」
…それこそ詭弁だとも、本能の私は思った。
でも、一理がないわけではない。
心を壊したきっかけを知った上で、ユウ君に助けてもらったほうが良いなんて。
私には言える自信がなかった。
「……とは言え、運命を受け入れようとも思わない、か。
なら、そうせざるを得なくするしかないね」
そう言って、理性の私は本能の私のこの身体を乗っ取ろうとしてきた。
理性の私の強い意志の前に、本能の私は抑圧されていく。
…本気なんだ。
抗ってはいるが、私の心を理性は徐々に支配していき。
ユウ君がここに戻ってくるまでにはほぼ全てを掌握するに至っていた。
理性の私は、一体ユウ君に何をするつもりなんだろうか…。
「…カノン?」
「ユウ君。ちょっと考えてたんだけど…」
またまた設定を少しまとめる必要があると感じました。
私自身の力不足からなかなか話の設定を上手くまとめることができないので、こういった部分で補足、というのは今後もよくあると思います。
まず、この世界のことについてはカノンが立てた仮説と同じでした。
それ以外について、カノンの心についてですが、物語の主人公である本能のカノンは未だに幾つかの感情がないわけではありません。
その大部分こそ薄れてはいるものの、ある程度の感情表現ならすることができます。
そして、その大部分をこの心象世界で見つけて、カノンと一体化させる。
それがカノンの心を救う方法となります。
最も、それには本能のカノン自身の意思も伴うことになるので、ユウは落ち着いて答えを出してほしいと言ったわけです。
そして、一体化するということは理性のカノンとも一体化することができます。
理性のカノンはそれを知っているようでしたが…。
声の正体など、未だに謎も多いですが、今後とも読んでいただけると嬉しいです。
よろしくお願いいたします。




