CLEAN MISSION No.1
不定期って事を書き忘れていました、八ヶ岳ベアです。
のんびり書いていくので宜しくお願いします。
ワイドアース
中央地方セントリアースにて。
「ようこそ、『グラスアイ』へ!」
衛兵の大きな声と共に装飾の凝った門が開かれる。
2頭の馬が引く馬車が門の先に進むと眼前に透明な城が現れた。
「こ、これがトルメキア家のグラスアイ!」
「なんて美しい城なのかしら!」
馬車の窓から覗く紳士淑女達は興奮気味だ。
それもその筈、この城はほぼ全てがガラスで構成されている透明な城なのだ。
馬車は城の前で止まり総勢12人の立派な服装の貴族達が出てきた。
「近くで見ると本当に凄いわね……」
「馬鹿にならない金がかかっているんだろうな」
貴族達がざわざわと談話していると
城の扉が開かれた。
「皆様ようこそ、我が『グラスアイ』へ」
現れたのは性格の良さそうな顔をした恰幅のよい中年男性だ。
煌びやかなアクセサリーと白いタキシードを着用し、まさに金持ちと言える格好である。
「これはこれは、グラシン様!」
「ご機嫌麗しゅう、グラシン様」
貴族達が一斉に挨拶をし始めた
グラシンと言われた男は満足そうに腹をさすると
「皆様、今日は遠路はるばる私の城へわざわざ来ていただき嬉しく思います。さあ、中へお入り下さい」
そう言い先導を務め、貴族達はグラシンに続いて城に入っていく。
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「……12人か、想定より二人多いな」
その一連の流れを観測し、ボソリと呟く影があった。
観測用に覗いているのはスコープ。
小さいながらもピントが瞬時に合う技術力の結晶だ。
「いくら何でもガラス製ってのは無防備過ぎるんじゃないかね、まぁ悪趣味はともかく奴も『優劣者』らしいしな」
ブツブツ言いながら影が
無骨でメカニックな腕時計を確認すると午後の5時を示していた。
影は立ち上がりその場を去る。
「最後の晩餐、せいぜい楽しむことだな」
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PM 17:30
「それでは皆様、乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
グラシンの合図と共に
貴族達はグラスを掲げ乾杯した。
ある者は豪勢な料理に舌づつみをし、
またある者は音楽に合わせ踊り、またある者はアルコールをグイグイ飲み干す。
グラシンはそれらの姿をステージの上から見下ろし微笑んでいた。
「いやぁ素晴らしい城ですな!」
グラシンが声の方を向くと、貴族の1人が階段を上りグラシンに近づいてきた
「ええ、そうでしょうそうでしょう。
全面透き通る城なんてお目にかかれるのはここだけですよ。」
それを聞いた貴族は笑いながら言う
「流石は大手魔造ガラスメーカーの大社長、考える事が大きい!…ですが全面透き通っているとなると周りから丸見えですな」
貴族からの疑問に笑みを絶やさずグラシンは答える。
「大丈夫、建築魔術で色彩を変えれば見える事もありません。
耐久性を疑われると思うが心配無用。
強化ガラスと建築魔道士の補強魔術によって形が変わることの無いようになっているのです 」
更にグラシンは庭先を指さした
「ご覧の通り、腕の立つ衛兵が巡回しております。城に合わせて鋼鉄の鎧やハーベルトなどを使わせております」
「これは参った!魔術も工業技術も進化している我らの世界を見くびっておりました、衛兵達もさながら伝説の中世の勇敢なる戦士達のようですな、ハッハッハッ!」
貴族との会話が終わるとグラシンはステージ上から全員に向き直り
「さて、では今回のメインディッシュを用意いたしましょう」
グラシンがそう言うと貴族達は待ってましたとばかりに一斉にグラシンの方を向いた。
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「......現在18:30 作戦開始19:30 パーティ開催時間が17:30」
予定していた時間を復唱し確認。
「対象物からここまで300m、周りは森、射程までの障害物強化ガラス魔術付きのみ。護衛25人それぞれ射線に入らず。」
現在地と周辺、対象物の確認。
「対物系魔装ライフル良し、魔破弾、対物弾良し。」
自らの確認準備。
「風、3、方角訂正良し。」
風力、風向きの確認。
「all clear.」
そして構え……
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「さあ、幕を開け!」
グラシンの声を受け
従者達はグラシンの真後ろの巨大な幕を開いた
「「おおおおっ!」」
貴族はどよめいた。
グラシンの後ろに巨大なワイングラスがそびえ立っていたのだ。
「写真で見たものより凄い……!」
「なんて美しさと大きさ!」
この巨大かつ煌びやかなワイングラスは
グラシンの製造させた世界一のガラス品であり、数々の取材が殺到した。
美しい形状はもちろん透き通ったガラスに更に装飾を施してある。
まさに「世界一美しく巨大なワイングラス」だった。
「そう!これこそが私の宝の『グラシン・ぐ……』
【ズガァァッ!!】
突如貴族達の背後のガラス壁に衝撃が走る。
「キャーーッ!」
「な、なんだ!?」
【 ズガガガガガ……】
【バリィンッ!】
更に衝撃が加わり強化ガラスが破られた!
「ガラスが割れた!?」
「破片が降ってくるぞ、逃げろーっ!」
突如、パーティ会場は華やかさを一気に失った。
破られた大きさは直径約2m程の大穴。
強化ガラスを破られた驚きにグラシンはその場を動けなかったが
「……ハッ!お、お前達!ぼーっとしとらんで犯人を探してこい!」
我に返ったグラシンが音を聞きつけやって来た衛兵達に叫ぶ。
割れたガラスが散乱するパーティ会場には逃げ惑う貴族達、外へ向かう衛兵達が激しいダンスを踊るかのように混乱状態だ。
「だ、誰がこんな事を……」
頭を抱えたグラシンに更に不幸が襲いかかる。
【ダダダダダダッ】
「ぐあっ!?」「うぐっ!」「ぬわー!」
外から衛兵の叫び声と銃声。
透けたガラスの向こう側を見やると次々と倒れていく衛兵達があった。
「て、敵襲です!相手は銃を使っているようで……っ!」
息を切らしながら報告をしに来た衛兵の頭が激しく揺れ、そのままガラスの床に倒れた。
(な、耐久魔法のかかった鋼鉄の兜が無意味だと……)
グラシンは次々と重装備の衛兵達が倒れていくのに恐怖した。
「に、逃げろ!逃げるんだ!」
裏の出口から逃げ出そうと駆け出したその時だった。
「止まれ」
無残な姿となった会場パーティに声が響いた。
グラシンを始め、混乱し逃げ惑う者、外に出るのは危険と判断した者、全てがその声に静止した。
【ガシャッ】
城に開けられた大穴から誰かが入ってくる音がする。
【ジャッ、ジャッ、ジャッ……】
ガラスの破片が踏まれてさらに砕ける音が近づく。
(不味い、不味い、不味いまずいまずいまずいまずいまずいまずい――)
グラシンは逃げるタイミングを完全に失った。
ガラス片が砕ける音が止み、代わりに男の声が会場に響いた。
「グラシン・トルメキアはどこに居る」
男が言ったこの名。
このフルネームを持つ者は1人だけ。
そして当の本人は首を掴まれたかのように震えていた。
(完全に私が狙いか…!)
『・・・・・・・・・。』
返答はない。
「もう1度言ってやる。グラシン・トルメキアはどこに居る」
『・・・・・・・・・。』
やはり返答はなかった。
男は深いため息をつくと
「……最後のチャンスだ。グラシン・トルメキアは名乗り出ろ。出ない気なら……」
【バァン!】
男は突如懐から拳銃を取り出し、天井に向かい放つ。
「全員、地獄へ招待だ」
周りから悲鳴と泣き声が聞こえだす。
グラシンは状況整理に追われていた。
名乗り出たらまず良い事が無いのは確定。
名乗り出なかったら自分を含めここにいる者達全員に平等な死が待っている。
「わ、私だ」
なら一縷の希望にかけるしかない。
どちらにせよ生き残りたい貴族達に晒されるのがオチだ。
生きたい、絶対に生き残りたい、それが生物の性である。
「き、貴様は何者だ、私になんの恨みがあるんだ!」
グラシンが意を決して男を見ると
オールバックに一部分前髪を下ろした銀髪、こちらを見下ろす碧眼、そしてベスト型アーマーの上からもわかる隆々とした筋肉。
銀髪碧眼の特徴からは北部「ノアース」出身だと言うのが受け取れる。
そしてベスト型アーマーに描かれたマークには見覚えがあった。
「き、貴様『掃除屋』か!?」
『掃除屋』その名称は今の状況に相応しくなかったが男は返答する。
「確かに俺は掃除屋だが、それがどうかしたか?」
「っ、クックックッ……ハッハッハッ!!」
男の返答と問いには笑い声が答えを返した。
「何が可笑しい?」
腹を抑えながらグラシンは返答した
「可笑しいも何もお前のような掃除屋に襲われる原因など無い!掃除屋は優劣者相手に仕事をするのだろう?」
グラシンは知っていた
『掃除屋』とは『優劣者』に対してのみ行われる裏の家業である事。
そして政府はそれを認める一方、一般人に手を出すことを禁じている事を。
「私が金持ちで貴族達が来ているから金銭目的で来たのだろう?落ちぶれたものだな、掃除屋!」
こう言ってしまえば相手は自分に手を出せず黙る。
なにせ優劣者だという証拠がここには無い。
自分にとても有利な状態だ。
賠償金の計算を頭で考えはじめたグラシンだったが
「あー、シラ切る気か」
グラシンの描いていた展開の言葉とは全く違う言葉が返ってきた。
「知ってるよ、グラシン・トルメキア。
お前が『優劣者』だって事は」
だがグラシンにはまだプランがあった。
「どこに証拠がある?仮に能力があったとしても悪用するような行動は1度もした事が無いぞ」
自分の行動は怪しまれないよう細心の注意を払っていた。
グラシンは更に喋り続ける。
「どんな能力さえ分かっていないのに、罪の無い一般人を殺し器物損壊まで犯して、政府にこれが知れたらどんな罪になるかなぁ?」
「・・・・・・。」
男が沈黙する。
(勝った!)
グラシンが勝利を確信したその時だった
「お前って『物を隠す』能力だよな」
「なっ…!?」
男が放った言葉。
その一言でグラシンの表情が一気に崩れた。
「ガラス製品の不備も、材料の不正も、横領で手にいれた自分の隠し財産も。」
グラシンは冷たい汗が吹き出るのを体感した。
男は一呼吸置き、表情を険しくして止めの一言。
「……『カーラドル』の密輸と所持。全部能力で隠してるんだろ?」
カーラドル。
魔法技術が発達した一方、悪人達が麻薬の一種として作り出した狂人魔法の赤き結晶。
「貴様どこでその情報を手にいれた!?」
その名が出てくるや否やグラシンは叫んでいた。
「企業秘密だ、そして今の言葉で引き返せなくなったな。」
(しまった……!)
自分で自分の罪を認めてしまった。
しかもそれだけに留まらない。
「カーラドルの場所も割れてる、という事で今から割ってやるよ。」
言うなり男は背中の魔装ライフルで巨大ワイングラスを撃ち抜いた
【バリィィィン!】
甲高い音共にガラスが割れると
透き通っていた内部から赤い結晶が零れ落ちてきた。
「情報は本当だったな『情報や物をガラス内に隠す能力』それがお前の能力だろ?」
今自らがどういう状態か気がついたグラシンは素早く逃げ出す、が。
【バァン!】
銃声と共にグラシンの足が崩れる
「あ、あ、足が……」
だが足を見てみると激痛はあるものの穴一つ空いていない。
「安心しろ、特殊な魔装弾だ。
なにより体に強化ガラスを付けてるんだから屁でもないだろ」
「!?」
「お前の『能力の代償として容姿が崩壊していく』って代償。そいつを薄いガラスを全身に付けて隠してるんだろ?」
「な…ガラスだとなぜ分かった!?」
「だから秘密だって」
銀髪の男はグラシンの顔を片手で掴むと
空いたもう一つの手で小型銃を額に突きつけた
「さて、化けの皮剥いでもらおうか」
引き金を絞る。
【パリンッ……】
銃声はほぼ無かった、代わりに響いた音は
肉片が飛び散る音ではなくガラスが割れる音だ。
そして割れ落ちたガラスはグラシンの顔から落ちたもの。
先程の気の良さげな顔は消え、醜い顔が現れた。
「なるほど、想像以上の悪人面だな」
「くっ、なぜ私を殺さない?」
グラシンの問いに男は呆れて答えた
「さっきので殺す気は無いって分かっただろ?
お前の相手は政府っていうお偉い方達がじっくりしてくれるそうだ、金持ちのコテ程度じゃ簡単には出させて貰えないだろうがね」
グラシンはそれを聞くとうなり声をあげ
倒れていた衛兵のハルバードを持ち
男に飛びかかろうとしたその時だった。
【グラッ】
【ガシャーン!】
頭上からシャンデリアが落ち、グラシンの脳天に直撃した。
「な……」
「さっき天井、撃ってたろ? それじゃgood・・・いやbad-byeだ。」
その言葉を最後にグラシンの意識は途絶えた。
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セントリアース中心街
【ディフレント・ストリート】
人間が最も多いワイドアースだが、人以外の種族も住んでいる。
他種族が主に生活する街道に、掃除屋『CLEAN MAKER』はあった。
「……こうしてカーラドル密輸犯人は掃除屋クラストさんの手によってお掃除されて、ゴミ収集車乗って、選別されて、燃やされてオシマイって所だな」
二階課長室の机に両脚を置く男は
西部劇のカウボーイを思わせる格好で葉巻をふかす。
「ボス、情報収集完了致しました。
グラシン・トルメキア、カーラドルの確保。全員非殺傷、貴族12名は無事。オールクリアです。」
淡々とした声の主はボスと言われたカウボーイの隣にいる
スーツを身に着けた長身の女性のものだ。今回の仕事の確認を報告している。
「流石は俺の秘書メフィ!美人で美尻なだけでなく仕事姿も美しいぜ」
「褒めても触らせません」
「いつもの調子なのは良い事だが俺を褒めるのは無しか、ホルスターさんよ?」
不機嫌そうに文句を言うのは今回の仕事を1人で終えたクラストだ。
「おお、悪い悪い。あまりにメフィがいい尻してるもんでな」
ケラケラ笑いながらボスと言われたカウボーイ
ホルスターが答える。
「んで、今回の報酬は…条件オールクリアでボーナス倍だ。良くやった。褒めてやるから俺にメフィの乳を揉ませろ」
「……俺に得のあるのはボーナスと金だけかよ」
碧眼を細めて不満を漏らすとホルスターは意地悪な顔をした。
「お、遂にお前も女に手を出す気になったか、触るか?」
「触らねぇよ!」
「拒否します」
「だから触んねぇよ!」
葉巻の火を消しながらホルスターが立ち上がる
「さて、とりあえず入金手続きはメフィがやってくれるからいつもの通りだ。」
「ん、仕事か?」
ホルスターは上着を羽織ると
「今夜もお相手誘ってブギウギすんのよ」
手をプラプラ振ってそのまま出かけていった。
「……エロ親父の秘書で大変だな、メフィ」
「慣れました」
クラストは報告書を簡単に済ませ会社を出た。
会社前に止めてあった愛用の小型車を運転し帰路につく。
車道を道なりに進んでいくと車内のラジオニュースが始まった。
『昨日大手魔造ガラスメーカー グラスアイの社長、グラシン・トルメキア氏が逮捕されました。ワイドアース政府によりますと、以前から調査を勧めており、今回の逮捕への突入に至ったと…………』
「掃除屋の名は無しか……相変わらず隠すのが上手いな、政府。」
(グラシンよりよっぽど隠し上手だな)
クラストはそんな事をぼやきながら愛車を飛ばして行った。
ワイドアース要項
舞台 ワイドアース
人間を筆頭に様々な種族、部族が生活しています。
ワイドアースの文化
数百年前までは魔法が発達していましたが、世界大戦争によって魔法使いが多数死亡し、魔法が廃れました。
人々は機械技術に手を出し、やがて工業を発達させました。
近年魔法も徐々に復活し、魔法を主とするより
機械を主とし、魔法を補助に使うようになりました。
ワイドアースの分布
中部地方 セントリアース
北部地方 ノアース
西部地方 ウェアース
東部地方 イートアース
南部地方 サーストアース
カーラドルについて
かつて魔法技術が発達した一方、
悪人達が麻薬の一種として作り出した狂人魔法の結晶。
そして元となった魔法は、数百年前の戦争時に使われた狂人化魔法、
『バーサック』
バーサックの力は恐ろしく、麻薬以上の快楽と共に痛覚神経を麻痺させ「動けなくなるまで戦い続ける戦士」を作りあげた。
その作用の快楽部分を注ぎごんだ魔法の赤い結晶、それがカーラドル。
狂人効果がないわけでないのでバーサーカー化も充分ありえるため
政府はこれを違法として取り締まっている。