表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/44

12-2:Dis Light Part2



《光の輝く海岸》


 その白銀の輝きに小夜子は思わず瞼を手で覆った。

 そして、その瞬間から既に戦いは始まっていた。

 この勝負は、将棋みたいなものだ。

 敵を全滅させれば勝ちなのではない。

 王将さえ取ることが出来ればどんな逆境であったとしても勝ちなのだ。

 こちらの王将は、最後のティア・ブレスを持つ明里であり、敵の王将は闇の

ティア・ブレスの再誕になりよりの執念を見せるマロード。

 確かにマロードを殺した所ですべてが万事丸く収まるわけではない。

 だが、しかし、この星の消滅という最悪のシナリオだけは防ぐことが出来る

のだ。


「マロード」


 ティア・ライトいつもの淡々とした声で―しかしその裏に込められたのは鬼

気とした怒りで―この星の消滅を何よりも望んでいる銀髪の女性へと迫る。

 しかし、マロードから余裕の笑みは消えない。

 マロードは、右手をそっと持ち上げると、触れた物すべてを破壊する黒い渦

を生み出した。

 咄嗟に左に体を傾け、黒い渦から身をかわそうとしたが、ティア・ライトが

体を傾けた先に見えたのは、雷のティア・プレスを自分の胸元に掲げた白衣の

女性だった。


「ティアァ・ドォロップスゥ コントォラッケェトォ」


 妙に間延びした、しかし、確実に明里を敗北へと追い込む誓約の言葉の元、

白衣の女性の体が、刹那、黄金の光に包まれた。


「雄々しき一撃ぃ ティアァ・サンダァー」


 何度見ても信じられない光景だった。

 果たしてあの白衣の女性はどんな魔法を使って雷のティア・ブレスを使いこ

なしているのか、明里には想像も出来ない。

 白衣の女性―ドレイル―が変身したティア・サンダーが砂浜を蹴り、ティア

・ライトとの距離を一瞬で詰め寄る。

 ドレイルがまるで、夏休みの公園で虫を捕まえた小学生のような無邪気なま

での微笑みを浮かべて、ティア・ライトの顔面を殴りつけた。

 ティア・ブレスの力で変身しているとは言え、ドレイルは所詮は戦闘訓練を

まともに受けていない科学者。

 その動きを幾多の戦場をくぐり抜けてきた明里が見切れなかったわけではな

い。

 だが、右腕を使えない輝き一閃は、右手から攻撃されれば防ぐ術がないの

だ。


「邪魔だ」


 顔面を力の限り殴られたぐらいで明里は立ち止まりはしない。

 お返しとばかりに、ティア・サンダーの脇腹に左の拳を叩き込む。

 ドレイルの体が綺麗にくの字に折れ曲がり、苦悶の表情を浮かべながら、口

から何かを逆流させる。

 立ち止まるわけにはいかない。

 時が経てばそれだけ輝き一閃は不利になっていくのだ。

 ドレイルの脇腹から素早く左手を抜き去ると、激痛で身動きの取れない黄金

の戦士を、塵でも払うかのように、右足で―彼女の居る方へ―蹴り飛ばした。


「あらあら、やっぱマリオネットじゃないと駄目ね。私の命令無視して、その

上、勝手に負けるなんて。所詮、学者は研究室にこもって、その脳が溶け落ち

るまで私のために働けばいいのに。

 でも、コクア、あなたもドレイルごときで手こずるなんて腕が落ちすぎです

わね。たかだか、腕が一本動かなくなっただけだというのに、情けないわね。

 この程度の奴が、かつてわたくしを守る第一騎士団のリーダーだったなん

て、あんな無能な星はやっぱり、消して正解だったわね」

「っっ」


 ティア・ライトの口から血が流れ落ちているのは、ティア・サンダーに殴ら

れた故だけだろうか。

 輝き一閃は何かに耐えるように拳をきつく握りしめて、歯をきつくかみしめ

る。

 狂った破壊者への憤りと、かつての同じ星に住んだ友への嘆きと、傷だらけ

で無力な自分への叱咤で、真っ赤に染まった瞳が、紅の光に包まれた世界で優

雅に立つ銀髪の女性を睨み付ける。


「いい目をしているわね、コクア。その瞳よ。もっと怒り、もっと心を燃え上

がらせ、瞳を輝かせなさい。そう、燃えれば燃えるほど、輝けば輝くほど、絶

望はより深い闇に包まれるのよ」


 マロードが、彼女はかつて姫だったと誰もが納得するほどの優雅な動きで、

ティア・ライトを手招く。


「来なさい、ティア・ライト。あなたは、輝き一閃。その心を絶望に染めるに

はやはり、あなたが魂の奥底から憎んでいるわたくしが、直に戦い、その心に

絶望を植え付けてあげるのが一番でしょうからね」


 そう言うと、マロードは生み出していた闇の渦をティア・ライトへ向け放っ

た。


___________________________________

《雷を取り戻すために》


 光と闇がぶつかり合っている。

 雷のティア・ブレスを失った鳴恵が、二人の間に割って入って、ティア・ラ

イトを援護することは出来ない。

 だが、鳴恵は諦めていなかった。

 自分の憧れである母がそうであるように、彼女は力のない自分に出来ること

を探していた。


「邪魔だ」


 ティア・ライトが、かつて自分が身に纏っていた黄金の衣の戦士を右足で蹴

り飛ばした。

 ティア・サンダーは砂埃を何度も上げながら、砂浜を転がり、やがて止まっ

た。明里の一撃はドレイルにとってよほど強烈だったのだろう。

 雄々しき一撃は砂浜の上に倒れ込んだままピクリとも動かない。


「あっ」


 光が与えてくれた、希望へと繋がる一筋の道が、そこにあった。

 鳴恵の左腕が力を求めて微かにうずく。もう一度、この手にティア・ブレス

を。

 気が付いた時には、既に前に踏み出していた。

 自分が今も『雄々しき一撃』であるのかなんて、鳴恵には分からない。

 だけど、何もしないで諦めたりはしない。


 母が、紅が、憧れが、そうであったように、信じて、信じて、信じて、戦い

抜くのだ。


 だが、鳴恵は一度立ち止まるしかなかった。

 そこに雷のティア・ブレスがある。そして、その前に立ちはだかるのは、マ

リオネットと化したブルーアイの少女だった。


「ハル、まさかお前まで反逆者になるなんてな」


 砂浜を踏みしめて、鳴恵は腰を落とし臨戦態勢を取る。

 ティア・ブレスを無くした少女がティア・ブレスの戦士相手にまともに戦え

るはずがない。

 ブルーアイの彼女ははまだ変身していないが、敵がその気になれば、この

命、すぐに散ることになるだろう。しかし、もう逃げない。

 いや、逃げる必要はない。

 何故なら、今鳴恵の前に立つ、反逆者は、美咲ではなく晴菜なのだから。


「もう、あなたには関係のないこと」


 ブルーアイの少女は、マリオネットになる前と何ら変わらない動作で、左手

の人差し指と中指を銃に見立てて鳴恵に照準を合わせる。


「ああ、オレはもう、雷のティア・ブレスという力を無くした。だがな、オレ

にはまだお前との『絆』が残っているんだよ」


 左手は鳴恵を捉えたまま、晴菜は右手をそっとティア・ブレスに添え、感情

のこもらない声で答える。


「そんなものは、もう残っていない」

「そうでもないさ、ハル」


 晴菜の右手が水のティア・ブレスに埋め込まれた宝玉を撫でる。

 青の宝玉から気高き音色が鳴り響く。

 後、二言。

 たった二言、晴菜が語るだけで鳴恵はあっさりと死ぬことになるだろう。

 一つは、ティア・アクアへと変身するための誓約の言葉。

 もう一つは、敵を射抜き殺すための必殺の言葉。

 すぐそこに死が待っているというのに、晴菜が放つ水の矢が自分の脳天を貫

くビジョンがこうも鮮明に想像できるというのに、鳴恵は全く恐怖を感じるこ

とが出来なかった。


 だって、今までだって晴菜は何度も、鳴恵の眉間に二本の指を突きつけてき

たのだから。


 鳴恵と晴菜が築いてきた絆の中では、もう、こんな事は慣れっこだ。


「ハル……」


 だが、慣れてしまっていたが故に、鳴恵は今、この状況が物足りないと思っ

ている。


「大切な物ってさ、無くして初めて分かるっていうけどさ……」


 たった一つの言葉がないだけど、何故これほどまでにも悲しくなるのだろ

う。


「本当に大切な物って、大切って思うまでもないから大切なわけで……」


 もう一度、あの言葉を聞きたい。もう一度、彼女と同じ場所に立ちたい。


「無くさないとさ、気がつけないものなんだな」


 美咲を殺す力は欲しくない。

 だが、晴菜と共に戦う力は欲しい。

 それは矛盾だ。


「そして、本当に幸せなのは……」


 だから、鳴恵は選ばなくてはならない。

 いや、違う。

 彼女はもう決めている。


「大切な物を、大切だって気づいていない、愚者の時間なのかもしれないな」


 後はただ、『憧れ』に向かって、がむしゃらなまでに突っ走るだけだ。

 

 ティア・ブレスの力が無いから、一蹴りで晴菜の元までたどり着くなんて出

来ない。

 足を取られそうになる砂浜を、しっかりと踏み込み、己の力で鳴恵は前へ進

んでいく。


「ティア・ドロップス コントラケット」


 ずっと聞こえていた気高き音色が消え、晴菜の誓約の言葉が鳴り、世界が一

瞬だけ青の光に包まれた。

 まだだ。

 まだ前に進める。

 その視界が青く染まろうとも鳴恵は前に進むのを止めない。

 『雄々しき一撃』は雷が地面へと落ちるようにただただ真っ直ぐなまでに前

へ進んでいく。

 その先に、憧れの先がいるのだから。


「気高き一滴 ティア・アクア」


 青の戦士の指先に、水が集中していく。

 きっと今、彼女の頭の中では、鳴恵を射抜くイメージがはっきりとした形で

浮かんでいるのだろう。

 鳴恵がティア・サンダーに変身して、ライジング・ゴウ・インフェルノを放

つときもそうだった。

 頭の中に浮かぶイメージ。その想いがより確固な物であれば、技はより強く

なる。

 多少なりとも、ティア・ブレスの戦士として戦った経験。

 それが、今の鳴恵に残された唯一の武器だった。


「ウォーター・レイ・アーチェリー!!」


 そして、鳴恵の視界が水で染まった。

 それでも、鳴恵は前に進むのを止めない。

 水の矢が迫り来る。恐怖は感じない。

 晴菜が鳴恵の信じている通りの戦士なら、この矢は絶対に鳴恵には当たらな

いのだから。

 前に進む鳴恵、その頬を僅かにかすめて、水の矢が通り過ぎた。

 鮮血を垂れ流す頬に不敵な笑みを浮かべる鳴恵。

 対するティア・アクアは敵の策略に乗せられた事に気づき僅かに顔を歪め

る。

 ティア・アクアがウォーター・レイ・アーチェリーを放ったまさにその瞬

間、確かに鳴恵の体が横へ動いたのだ。

 水の力が解き放たれた直後の出来事に考えている時間はなかった。

 あの動きはウォーター・レイ・アーチェリーをかわすためではなかったの

だ。

 晴菜に選択の余地を与えない、刹那の瞬間を狙ったフェイクだったのだ。

 赤の他人では到底不可能なフェイクだ。

 晴菜と共に戦い、彼女の癖や矢を放つタイミングを知る仲間で無ければこん

な芸当できはしない。


「ハル!」


 鳴恵が叫ぶ。もう一度、ウォーター・レイ・アーチェリーを放つ余裕はな

い。

 だが、ティア・ブレスの力を持ってすれば、ただの水の矢であっても人一人

殺すことなど容易い。

 落ち着いて、ゆっくりと鳴恵の脳天に狙いを定めればそれだけで良いはず

だ。

 なのにティア・アクアは出来なかった。

 手が、震えているのだ。

 左腕が小刻みに振動を繰り返し、狙いが定まらない。

 怖いのか、あるいは別の感情に寄与するのかは分からない。

 だが、三番目のマリオネットは糸が絡まってしまったかのごとく動けなくな

ってしまった。


「この馬鹿野郎。オレはまだ戦う。だから、お前もさっさっと目を覚ましやが

れ!!」


 衝撃が頬を伝う。

 かつて、この拳が晴菜を救ってくれた。


 毒に犯され動けなかった晴菜を守り抜いてくれた拳が、今、晴菜を殴りつけ

た。

 考えてみれば、今まで何度も鳴恵を殴ってきたが、鳴恵から殴られたのはこ

れが始めた。

 この星に来て、彼女と過ごしてきた日々が走馬燈のごとく脳をかけていく。

 もうあの場には戻れない。

 そう思っていた。彼女の手からティア・ブレスが失われたと知ったとき、す

べてが壊れてしまったと思い込んでいた。

 もしかしたら、あれは錯覚だったのかもしれない。

 マリオネットは今の一撃で僅かに絆を取り戻しつつあった。


 が、しかし、人形遣いはそんなこと許さなかった。


 晴菜の心に、張りつめた旋律が鳴り響くと、走馬燈のごとく思い出していた

記憶が再び、闇の中へ沈んでいく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ