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12-1:Dis Light Part1


《神野家 リビング》


「何だよ、これ」


 プリントアウトした画像を見て、鳴恵は思わず呟いてしまった。

 あれから二時間が経ち、こうして今の南極の状況が送られてきたわけだが、

そこに写っていたのは絶望的な状況だった。

 上空からの撮影のために、そこで戦っている戦士達の表情は知ることが出来

ない。

 しかし、戦士達が纏っている衣の色により、そこに誰が居るのか知ることが

出来る。


 南極に集っているのは、五色の戦士達。


 銀、青、桜、緑、そして金色の戦士が氷の世界で戦っている。


 銀色のティア・ライトが、緑色のティア・ウィンドと桜色のティア・フラワ

ーと戦っているのは理解できる。

 しかし、理解できないのは二点。

 金色の戦士、ティア・サンダーが南極にいること。

 そして、青の戦士、ティア・アクアが今まさにティア・ライトを攻撃しよう

としているのだ。

 晴菜と明里は共に反逆者を捉えるためにこの地球にやって来た仲間だ。

 それなのに、何故?

 この写真から鳴恵が分かる現実はただ一つ、事態は鳴恵をおいてさらに絶望

へと突き進んでいることだ。


「鳴恵ちゃん、次の画像が来たわ」


 鳴恵はプリンターの前に行き、次の写真を手に取る。

 この写真は、1枚目の写真と時をおかずに取られた写真であるようだ。

 五色のティア・ブレスの戦士達は全く動いていない。

 ただ、1枚目との相違点は一点においてのみ。

 ティア・アクアから放たれた水の矢が、ティア・ライトに迫っているのだ。


「どうして、ハルが……」


 この二枚目の写真から、ティア・アクアこと晴菜が反逆者側についたことは

確実となった。

 例え『憧れ』であろうとも、反逆者であれば殺そうとしていた晴菜が、どう

して反逆者に堕ちてしまったのか、鳴恵はその理由を見つけられない。


『でも、わたくしはまだ、彼女のことを信じたい、彼女と一緒に戦いたい、彼

女を追い越したいと心の奥で思っています』


 二人で不安を打ち明けた夜、晴菜はそう言っていた。


(まさか、ハル。お前は、使命よりも『憧れ』、カザミスを選んだのか……

…。いや、違うよな)


「絶望が心を覆うとき、その人は忠実なマリオネットになる」


 三枚目の写真の画像処理をしながら、小夜子は言った。


「え? ママ、それは何?」

「反逆者となった美咲さんが、言っていた言葉よ。私を殺し、鳴恵ちゃんが絶

望で満たされれば、鳴恵ちゃんは美咲さんと同じ反逆者になれるとね」

「マリオネット……絶望………オレが美咲みたいに反逆者に…………ってこと

は美咲もそれで反逆者に…なった? なら、そういうことか、ママ!」

「ええ、鳴恵ちゃんを反逆者にすることは出来なかった。でも、変わり、同じ

方法で晴菜ちゃんを、『絶望』で反逆者へと変えてしまった。そう言うことな

のでしょうね。鳴恵ちゃん、三枚目出るわよ」


 小夜子が言い終えるよりも前に、プリンターが唸りをあげ新たなる現実を鳴

恵に伝える。

 三枚目の写真は先の二枚とは少々違っていた。

 同じ南極を写してはいるのだろうが、その写真に写っているのはティア・ブ

レスの戦士達ではなく、がらくたのように無造作に転がった二つの体だった。


「これは、もしかしてシャーグル?」


 鳴恵が初めて出会った反逆者の姿を思い出す。

 無造作に転がった一方が彼の姿ととてもよく似ていたのだ。


「残念ながら、私はシャーグルに会っていないから、何も言えないわ。でも南

極に一般人がいるなんて絶対にないし、仮に調査員が居たとしても、そんな普

通に日本にいそうな薄着のはずはないわ」

「なら、やっぱりこいつらは反逆者なのか? この写真だとまるで死んでいる

ように見えるけど」

「おそらく、それは正しいわ、鳴恵ちゃん。問題は、殺したのが誰かってこと

ね」

「明里がやったんじゃないのか?」

「だといいのだけど、敵の手に四つのティア・ブレスが墜ちた今、事態は明里

さんが危惧していた未来へと進んでいるのかもしれないわね」

「危惧していた未来? ママ、何それ?」

「あら、鳴恵ちゃん、明里さんから聞いていないの? 五つのティア・ブレス

が揃ったとき何が起こるのか?」


 そう言えば、初めてあった日に明里が何か言っていた気がする。

 そう思い、鳴恵は記憶のひもを解こうとしたが、結局答えを見つけ出すこと

もできず、又、答えを聞くことも忘れてしまった。


「明里さん!!」


 何故なら、右腕を大きく切り裂かれ、全身を血で染めた白銀の戦士が命さな

がら、ベランダへと倒れ込んできたからだ。


___________________________________

《全てが凍えてしまう南極》


「ねえぇ、ねえぇ、『光』を逃がしても、良かったのぉ? それにぃ、カザミ

スがぁ、『光』を瞬殺っ出来たのにぃ、あんな風にぃ、じわ~りじわ~りと痛

めつけてぇ、マロード、何考えてるのぉ?」


 ロッグの死体を、興味深げに小指で突きながら白衣の女性は尋ねた。

 その左腕に光るのは、黄金のブレスレット。

 彼女が、反逆者に入った目的が達成された証だった。

 ティア・ブレスは装着者の心を読み、その者が己の装着者にふさわしき者で

あるかを決める。

 ドレイルが生み出したのは、ティア・ブレスと手首の間に埋め込んだ一枚の

プレートであり、そこで生み出される擬似的な電気信号によって、彼女は雷の

ティア・ブレスに『雄々しき一撃』にふさわしいと錯覚させているのだ。


「ええ、彼女は『輝き一閃』。生半可な逆境ではけして諦めないわ。だから、

こうして時間をかけてじっくりと教えてあげるのよ。絶望という名の最後を

ね」


 ドレイルの後ろには、スーツをラフに着こなしたマロードが立っていた。

 彼女は、目の前のロッグの死体などまるで道ばたの雑草と同じであるかのよ

うに見向きもしていない。


「そーしたらぁ、『光』もぉ、マリオネットに、なるねぇ。でも、『光』は

ぁ、すごく手強いと思うなぁ」

「いいえ。それはこの私が誰よりも一番良く理解しているわ。だからね、彼女

がどうしてもマリオネットにならなかった時はね、死という絶望を持って、彼

女の心を闇で覆い尽くすまでよ」


 そう言うと、マロードは無造作に右手を振り上げた。

 そこから生み出されたのは全てを平等に切り刻む闇の渦。

 まるでブラックホールのごとき、ソレはこの南極の地で美しき純白の雪をい

つまでも漆黒の口で喰らい続けた。


___________________________________

《神野家 暖かみに包まれた場所》


 暖かい空気に包まれて明里はうっすらと意識を取り戻しつつあった。

 だが、完全に意識を取り戻した訳ではない。

 寝ぼけたような、思考の芯が定まらないまどろみの中、なぜ自分がここにい

るのか思い出す。


「っく」


 マロードの顔が脳裏をよぎり、明里は顔をしかめた。

 四対一という圧倒的な戦力差の前に、命からがら逃げることしかできなかっ

た自分が情けない。

 しかし、明里はこの命にかけても、左腕にある光のティア・ブレスを守り続

けなければならないのだ。

 もう、二度と闇を生み出さないためにも。

 そのためにも、どのような形であれ、自分が反逆者の手に落ちるわけにだけ

はいかないのだ。


「だけど、どうして?」

「何がだ、明里?」


 上から声が降ってきた。

 彼女はずっとそこにいた、きっと明里をこの慣れ親しんだベットに力強く運

んでくれたのも、不器用ながらも右腕の手当をしてくれたのも彼女だろう。

 彼女なら、きっとそうしてくれると明里は心の奧で信じていたのか。

 だから、朦朧とした意識の中で、ここへと戻ってきたのだろうか。

 この温かい家へと。


「私は、宇宙船に戻るつもりだった。なのに、目が覚めたら、鳴恵の家にい

る。不思議だ」

「確かに、この家は私たちの家ですけど、明里さん、あなたと晴菜さんが鳴恵

ちゃんと暮らした家でもあるのですよ」


 彼女の母親が優しく明里を迎えいれてくれる。

 そして、母娘はそろえて、明里に言ってくれた。

 この傷、この痛み、この疲れ、すべてが消し飛んでしまう、魔法の言葉を。


「おかえりなさい」


 知らぬ間に明里の頬にも優しい笑みが刻まれて、輝き一閃は言う。


「ああ、ただいま」


 絶望で彩られた世界でも、まだ希望の種はここに残っていると確信して。


___________________________________

《神野家 小夜子の自室》


「だから、晴菜は反逆者になってしまったのか……」

「多分な。っと言っても、これはママの推測の受け売りなんだけど」


 傷を負った明里はダブルベットに横たわったまま、鳴恵と小夜子はベットの

上に腰掛けながら、この戦いを書き抜くための意見交換をしていた。

 美咲とドレイルが、この家を強襲して雷のティア・ブレスを奪っていったこ

と、南極でカザミスと戦っていた明里を不意打ちしたのがマリオネットになっ

た晴菜であったことなど、何度思い返しても戦況は絶望的だが、輝き一閃達は

活路を見いだすことを諦めない。


「敵は、四つのティア・ブレス。私は右腕が使えない負傷者。嫌な状況だ」

「明里さん、やっぱり、その腕……」


 小夜子と鳴恵がそろって、明里の右腕を見る。

 恐らくティア・アクアの水の矢によって開けられたのであろう、明里の右腕

には小夜子の拳が入るのではないかと思えるほどの穴が貫通していたのだ。

 それだけの怪我をして、出血多量で死なないのは明里が地球人ではない故か

も知れないが、それでも、もう右腕は使い物にならないらしい。

 例え明里が万全の状態であっても、勝機が見えてこないこの戦い、鳴恵達に

残された道は敗北と消滅以外にはもう残されていないのだろうか。


「今の状況、例えるならば、相手には角と飛車がそれぞれ二つあり、私たちに

残されているのは歩が二つと桂馬が一つだけ。そんな状況で王手をかけられた

みたいですわね」


 八方塞がりとは今のような状況をいうのだろう。

 小夜子の例えは、今の歴然とした戦力差を見事に表現していた。

 そう、見事に表現していたのだ。


「鳴恵、質問がある」

「うん、何だ、明里?」


 まるで晴菜のような真摯な瞳で明里は鳴恵を見た。

 しかし、対する鳴恵はいつものように気楽な表情を浮かべたままである。

 こんな絶望的な状況下においても、そんな表情を浮かべられている彼女の輝

きに明里は自然と口元を緩めていた。


「鳴恵の友人はまだ反逆者にいる。その上、晴菜も反逆者になってしまった。

それでも、鳴恵は反逆者と戦えるの?」

「ああ、もちろん。オレは思い出したんだよ、オレの本当の『憧れ』が何であ

ったのか。だから、オレは『憧れ』を取り戻すためにも晴菜にまた会わなくて

はいけないんだ」


 かつて、『雄々しき一撃』と呼ばれていた少女は、昔よりもさらに男らしく

断言した。

 その言葉は明里にとってとても頼もしく聞こえ、小夜子により一層娘の結婚

が遠のいていったと確信させるには十分であった。


「今の鳴恵はこんな時にでも、『憧れ』と言える」


 小さく、自分にだけ聞こえるように呟いて、明里はベットから起きあがっ

た。

 自由に動かせるのは左手だけだったので、上手く起きあがるのは苦労したが

素早く小夜子がフォローしてくれたので、再びベットの上に倒れ込むのだけは

免れた。


「明里さん、まだ早いのではないのですか。右腕は治らずとも、もう少し休養

しなければいけません」

「私もそう思う。でも、一つだけ活路を見いだせた。もしかしたら、歩を飛車

とまではいかなくても、と金になら変えられる」


 そう言う明里の視線は、『憧れ』を追い続ける少女を捉え続けている。


___________________________________

《死闘が始まる海岸》


 海風が銀髪を美しく撫でてくる。

 優しい波音が荒ぶる心を沈めてくれる。

 明里、小夜子、鳴恵の三人は今、海岸に立っていた。

 太陽が赤々と輝き、もうすぐ水平線の下に隠れ始めようとする時間。空は血

で染めたかのように朱色であった。


「なあ、明里、お前の見いだした活路って何だよ」

「それは言えない。鳴恵が知ってしまったら、意味がない」


 互いに赤く染まった海と空を見ながら、口を開く。

 だが、明里はこの星を滅亡から救う最後の切り札について黙りを貫き通して

いた。


「鳴恵ちゃん、無駄よ。多分、明里さんがしようとしてるのは、明里さんにと

っては本当に最後の手段。だから、鳴恵ちゃんには言えないし、明里さんに応

えるためにも鳴恵ちゃんは絶対に失敗はしてはならないわ」


 娘を励ますように、鳴恵の両肩をポンと叩き、小夜子は言う。


「小夜子は、私が何をするつもりか、分かっている?」

「確信はないけど、想像はできます。それに、本質的には私も同じ事を考えて

ました。でも、そうするしかないのですか?」

「うん。でも、そこまで分かるんだ」


 明里が珍しく苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべる。


「私も過去、色々と経験してきましたから。明里さんの顔見たら、考えている

こと分かっちゃいました」

「やっぱり、小夜子は凄いな」


 改めて彼女が鳴恵の母親で良かったと思った。

 すべてが分かっているのなら、まさに捨て身の作戦を決行する自分と、重圧

を背負う娘のためを思い、止めてくると思ったが、違った。

 小夜子も娘に、そして明里に決断にすべてを託してきたのだ。

 その信じる心が戦う者に勇気を与える。


「そりゃ、そうだよ、明里。だって、ママはオレの憧れの一人なんだからな」


 小夜子の前に立つ鳴恵が自慢げに言う。

 その強い心が闇の中で光を生み出してくれる。


「鳴恵、私も、小夜子に憧れそうだ」


 明里の呟きは波音にかき消されたが、瞳からこぼれ落ちた一滴の雫は夕日に

よってその輝きをより一層強めた。


「さあ、鳴恵、小夜子、輝きを掴み取ろう」

「いいえ、残念ながら、あなたに残されているのは、闇という名の絶望だけで

すわ」


 砂浜を踏みしめる音と共に聞こえてきたのは、それこそが闇で出来ているの

ではないかと思えるほどどす黒く汚れた声だった。

 明里はゆっくりと振り向き、彼女たちの姿を確認する。


「やはり、総力戦か」


 明里と同じ色の銀髪を夕日で紅く輝かせているマロードが、引き連れている

のは四人の『ティア・ブレスの戦士』と一人の人形遣いだ。

 彼女は、全力を持って明里を殺しに来た。

 それはそうだろう。

 マロードは既に王手をかけているのだ。

 後一手、この手負いの桂馬さえ取れば全ては彼女が望んでいた結末へと至る

のだ。


「ええ。でも、この子達はあなたと戦うために連れてきたのではないわ。あな

たの心が絶望で染まったその瞬間に、闇のティア・ブレスを生み出せるように

ね。私はね、もうそろそろ待ちきれなくなりそうなの。あの星をひとつ消滅さ

せたときの、心躍るときめきを刹那でも早く、感じたいのよ」


 マロードの顔に恍惚とした笑みが浮かぶ。

 五つのティア・ブレスが集まり、五人のティア・ブレスの戦士が心に闇を抱

き、五つの絶望が揃うとき、闇のティア・ブレスは生まれ出る。

 カザミス、美咲、晴菜の三体のマリオネットは既に心に絶望という名の

『闇』を抱いており、ティア・ブレスの研究を何よりの至福とするドレイルが

闇のティア・ブレスの誕生を望まないはずがない。

 残るは一人、ティア・ライトさえ心に闇を抱けば、その瞬間、闇のティア・

ブレスが再び生まれるのだ。


「そんなこと。私が生きている限り絶対に阻止してみせる」

「そうね。その輝きが絶望に変わる瞬間が今から楽しみでしかたないわ。さ

あ、破滅への最終楽曲を狂わしく奏でましょうか」


 マロードの言葉を合図に闇に仕えた四人のティア・ブレスの戦士が一歩下が

った。

 どうやら、本気で彼女達を使うつもりはないようだ。

 対峙する明里は光のティア・ブレスを自分の胸元ではなく、隣に立つ鳴恵の

眼前に掲げた。

 右腕を動かすことの出来ない光の戦士はもはや、自分一人で変身することさ

えままならないのだ。

 明里の意図を解した鳴恵が、眼前にある銀色の宝玉にそっと触れた。


「ティア・ドロップス コントラケット!」


 波音に混じりて、戦士の希望に満ちた聖歌が鳴り響き、紅に染まった戦場に

白銀の光が刹那の間、満ちあふれた。


「輝き一閃 ティア・ライト」


 戦いの火ぶたは、今、落とされた。



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