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1-2:Thunder Calling Part2


《神野家-鳴恵の自宅-》


 理屈も原因も分からず身に纏ってしまった黄金の衣は、青色の戦士が教えてくれた通り小さな呪文を唱えるとすぐに消え、鳴恵は元の制服姿に戻ることが出来た。

 そして、それから鳴恵が考えついた落ち着いて話せる場所とは、自宅だった。

 鳴恵はまだ名前を知らないが、青色の戦士こと晴菜も鳴恵が自宅を選んだことに文句も言わず、黙ってついてきた。

 晴菜―――彼女も既に変身を解き、特に違和感のない服装になっている―――は余計なことは一切喋らず威圧する目つきで鳴恵を睨み続けていた。

 鳴恵は何とか話し掛けようとしたのだが、家に帰り着くまでは拳銃を押し当てられていたも同然の状態だったので下手なことは何も言えなかった。

 家に入ってから、晴菜は鳴恵を解放し、服から取り出した携帯電話みたいなモノで誰かとなにやら話していた。


(仲間でもいるのか?)


 通信が終わったらしい晴菜は、だまってソファーに座りテレビもつけず静かに仲間の到着を待っていた。


「ほらよ」


 そんな晴菜に鳴恵は小皿を差し出した。

 小皿の上にあるのは種なし葡萄だ。


「何がしたいの、あなた?」

「別に。お腹空いたから、ちょっとなんか食べたいと思っただけさ。ま、オレを助けてくれたお礼ってことで受け取れや」


 そう言って無理矢理晴菜に小皿を手渡すと、鳴恵は晴菜の前に座り自分用の葡萄を食べ始める。


(これは紫色の皮をむき、中にある薄緑色の半透明な球体だけを食べるのですね)


 鳴恵の食べ方の見よう見まねで晴菜は、皮をむき、生まれて初めて葡萄を口にした。


(あ!)


 それは、今まで食してきた食べ物の中で群を抜いて美味だと晴菜は思った。

 たどたどしく皮をむきながら、一粒一粒葡萄を口に入れていくごとに晴菜の頬は自然とほころんでいく。


(へえ。ちゃんと幸せそうな笑顔もすることが出来るんだ)


 つい先程まで自分を脅迫していた人物が見せる可愛げな微笑みに鳴恵は心の中だけで感想を述べた。

 口にしなかったのは、そんなことをすれば目の前のブルーアイの少女がどんな行動を取るであろうか、鳴恵は容易に想像することが出来たからだ。

 それから、しばらくは二人は会話もなく黙々と葡萄を食べていたのだが、インターホンが鳴り響いたことで止まっていた問題が再び動き出した。


「はい。どちら様ですか?」


 インターホンの受話器を上げると、壁に設置されたモニターに外の様子が映し出される。

 今、鳴恵の家の前にいるのはどうやら、二十代前半ぐらいの女性のようだ。

 鳴恵は初めて見る顔だが、鳴恵の後ろでモニターを覗いていたブルーアイの少女が「明里」と言ったことから、彼女が待ち人のようだ。


「私は、九曜明里。こちらに、水代晴菜がいると伺ってきた」


(へえ。あの少女の名前は、水代晴菜って言うのか)


 鳴恵は、玄関で明里を出迎え、晴菜が待っているリビングへと明里を通した。明里は学内でも長身な鳴恵よりもさらに数㎝背が高いようで、間違えなく170㎝を越えている。

 そして、何より鳴恵が目を引いたのは、その冴え渡る銀髪だった。


「晴菜、嫌な状況になったって一体?」


 リビングに入り、晴菜の姿を確認するなり、明里は早速本題を切り出した。


「言葉の通り、とても嫌な状況になりましたわ。まず第一にわたくしは、先程反逆者の一員と邂逅しました。よって、この星に反逆者達が逃げ込んだという仮定は確証に変りました。そして、さらに嫌な状況があって………」


 晴菜はそこで一度言葉を句切り、明里と一緒にリビングへ入ってきた鳴恵を睨み付けた。


「そこにいる少女、名を神野 鳴恵というみたいですが、彼女が、雷のティア・ブレスに選ばれてしまったのです」

「彼女が。それは、どうして? 晴菜が選んだの?」

「違いますわ。ただの偶然です。反逆者との戦闘中に、誤ってティア・ブレスを落していまし、それを拾ったのが彼女で、どんな運命なの彼女が選ばれてしまったのですわ」


 二人から一歩離れた場所に立って話を聞いていた鳴恵は苦笑を堪えずにはいられなかった。

 もっともそんな苦笑もやがて、深刻なモノへと変っていくのだが。


「彼女は、一体どんな人間?」

「わたくしが見た感じだと、何かしらの武術に通じてはいるみたいですが、それだけです。彼女は私たちのことも、反逆者のことも、ティア・ブレスのことも何も話していません。そして、私たちも彼女のことを何も分かっていない」

「それなのに、鳴恵さんは、雷のティア・ブレスを持ってしまった・・・・・・」

「ね、嫌な状況でしょう」

「うん。選択肢が無くなってしまった」


(何だか、これを手にしたせいで、色々巻き込まれそうだな)


 鳴恵は左腕のブレスレットに目を落した。

 雷のティア・ブレスと呼ばれるこのブレスレットの中央には何だか分からないが宝石が埋められていて、その宝石の中では黄金に輝く液体が揺れていた。


___________________________________

《反逆者達の宇宙船内》


 シャーグルは薄暗い部屋の中で傷の手当てをしていた。

 彼がいるのは、彼らが地球へやってきた宇宙船の中。

 この星に到着後、深海の中に沈み、そのまま基地として活用されている。


「ねえぇ、シャーグル。あなたぁ、ピアぁ・ブレスぅの戦士とぉ、会ったぁんだってぇ?」


 シャーグルの前に白衣に身を包んだ甘ったるい声の女性がやって来た。


「なんだ、ドレイル、私を、からかいにきたか?」

「そんなぁ事ないよぉ。ちょっとぉ、お話ぃがしたいなぁって思ったんだよぉ」

「話? お主から話し掛けてくるとは、私はお主の実験のモルモットにでもなるのか」

「違うよぉ。それはぁ、またぁ今度お願いするのぉ。あ、でもぉ、考えようにぃよったらぁ、シャーグルもモルモットなのかなぁ?」


 白衣に身を包んだドレイルは片手を頬に当て首を傾げる。


「すまぬが、私は傷が治れば、また地上へ行き、原住民を集めてこなければならない。長くなるようなら、私が戻ってからにしてくれ」

「それはぁ、駄目だよぉ。あたしはぁ、コレぇをシャーグルにぃ、地上でぇ使って欲しいぃんだからぁ」


 そう言うとドレイルは白衣のポケットから、謎のカプセルをシャーグルに手渡すのだった。


___________________________________

《神野家 リビングにて》


「あ? お前達って宇宙人なのか?」


 鳴恵の上げた素っ頓狂な声に晴菜はやれやれと言った顔をして答える。


「そうよ。さっきから何度も言ってるでしょう。いい加減、信じなさいよ。私と明里は、この星から一万光年以上は離れた星から、反逆者達をやって来たのよ。あなたも、反逆者の一員見たでしょう。あんな風に、手から牙出せる人間はこの星にはいないはずよ」

「そうだが。じゃ、なんでお前達普通に日本語話せてるんだ?」

「それは、宇宙船の中で勉強した」

「いや、明里さん、それだけじゃイマイチ説明になってない」

「あなたも少しは考えないさいよ。私たちはね、この星に来るまで宇宙船の中で半年過ごしたの。その間にこの星の主要な言葉は一通り覚えたわ。別に日本語だけじゃない、英語、中国語、フランス語、六カ国語ぐらいは話せるようになったのよ」

「でもな、晴菜。お前の、この『水代 晴菜』って名前、無茶苦茶日本的だぞ。お前が宇宙人だって言うのなら、これはどう説明するんだよ」

「気安く私の名前を呼ばないで。これは、この星に来るとき与えられた新しい名前よ。私たちの本名は別にあるけど、この地球で使うには色々と不便が出てくるから、偽名を使っているのよ」


 やけに冷たく当たってくれるなと鳴恵は―――あまり、話の本筋とは関係のないことでだが―――眉をひそめたが、取りあえず、この二人の言うことを信じることにした。

 宇宙人だなんて言われても簡単に『はい、そうですか』とはいかないが、シャーグルの血は確かに青かったのだ。間違っても、普通の人間ではない。

 そして、鳴恵は次の質問を繰り出す。


「晴菜、次の質問をさせてもらうぜ。あのオレを襲ってきた、シャーグルとかいうおじさん。お前、反逆者って呼んでいたけどあの人は一体何者なんだ」

「だから、気安く、私の名前を呼ばないで、と言っているでしょう」

「そんなことは今は、どうでも良いだろう。こっちは分からないこと一杯なんだから、話を逸らさないでくれ」

「そんなことって、あなた……」


 今にも鳴恵の胸元に掴みかかってきそうだった晴菜だが、その震える手の上に明里の手がそっと添えられると急に大人しくなった。


「晴菜。鳴恵さんの言うとおり。今は、私たちの仲間になってしまった彼女に事情を全て説明するのが、先決。言い争いは、その後で」


 相手の否定など許さない、断言だった。

 晴菜は、あからさまにまだ何かを鳴恵に言いたそうだったが、最後に一度キッと睨み付けるとベランダの方へ勝手に歩き出した。


「ごめん、鳴恵さん。あの人は、プライドが高いというか、人を選びすぎる人だから」

「ま、いいさ。オレも正直、ちょっと調子に乗っていた部分はあるからな。でもさ、晴菜ってっさ、間違えなくツンデレだろう」

「ツンデレ……? 何、その言葉は。私たちが学んだ辞書の中にそのような言葉は無かった」


 首を傾げる、明里。

 しかし、その顔には表情や感情が全く見えず、能面をつけたからくり人形を喋っているような錯覚を鳴恵は感じた。


「簡単に説明すると、心を開かない相手にはそれはもう相手を人間とは思わない冷酷な反応しかしないけど、一端、心を開いてしまうと一転、優しく接してくれてて時には甘えて来ちゃったりする人のことかな」

「なるほど。それなら、晴菜はツンデレと呼べるかも知れない」


 明里は顔を動かし窓の外を見た。

 窓枠のその向うには、一人、ベランダに出て夜空を見上げている晴菜の後ろ姿がある。


(あっ……今、もしかして明里さん笑ったのかな?)


 ほんの少しだけだが、明里の頬が動いたような気がした。

 それはまさに刹那と呼べる瞬間だけの変化だけだったので、あくまで気がしただけだが。


「っさ、晴菜にはあんなこと言ったのに、オレから話の骨を折ってしまったな。ごめん、明里さん。話を戻そうか、取りあえず、あの反逆者って奴について教えてくれ」

「了解。反逆者とはその名の通り、我々が暮らしていた星で、ティア・ブレスを奪い、謀反を起こした奴らの総称。我々が確認している反逆者の数は、全部で7人。その構成員についての情報は皆無だが、子供の姿も確認しているので、余計な先入観は持たない方が得策」


 淡々とした口調で、鳴恵に真実を教えてくれる明里。


(晴菜と違って、こういう事をしっかり教えてくれるって事は、明里さんはオレのこと、もう仲間だと思ってくれているのかな)


「何で、謀反なんて起こしたのさ?」

「楽園を求めるためだと、反逆者は声明を出した」

「楽園……。それってもしかしてこの地球のこと?」


 明里はゆっくりと首を縦に振った。


「そう。この地球は、珍しく水が豊富な惑星だ。晴菜や反逆者たちは、地表が無く惑星全体が水に満たされた惑星で生まれ育ったから、彼らはこの移住するつもりだと考えられる」


 とそこまで話を聞いた鳴恵は、グーに握った拳を唇につけ―――彼女が物思いにふけるときの癖だ―――しばらく反逆者について熟考してみたが、自分が納得いく理由が全く見いだせなかった。


「なあ、鳴恵さん。反逆者って、たった七人なんだろう。オレが会った奴は、一人だけど、彼は腕からあんな物騒な物ださず普通にしてれば宇宙人だなんて絶対に思われない。この星の人口は、60億人いるんだし、たった七人ぐらい人口が増えても誰も文句を言わないと思う。反逆者たちをこの地球に、素直に移住させるっていうのは駄目なのか?」


 銀髪が横に揺れた。


「鳴恵さん、それは出来ない。まず第一に、彼ら反逆者は、星から逃げるときに大勢の人を殺した。それに、この星は元来、私たちのような異星人が無断に入り込めないように、地球ではない別の惑星間の条約で厳しく定められている。だから、彼らには既に『死刑』が下されている。彼らを殺すこと、それが私と晴菜の仕事」


 明里はそこで一息置いた。

 それは、確認のための間だった。

 鳴恵は首を縦に振ることで、理解できている旨を伝えると先を促した。


「次に、彼らはティア・ブレスを奪った。ティア・ブレスは全部で五つある。私の『光』、晴菜の『水』、鳴恵さんの『雷』、反逆者が奪っていった『花』と『風』の五つ。それぞれには個別の力が宿り、単体でも絶大な力を発揮する」


 明里は銀の宝玉が埋め込まれたブレスレットに触れ、


「しかし、問題なのは五つすべてが揃ったとき。五つのティア・ブレスと、ティア・ブレスに選ばれた戦士が一堂に会し、条件が揃う時、ティア・ブレスはすべてを飲み込む『闇』の力を生み出す。その『闇』の危険性は、過去一つの惑星が一夜も経たず消滅した実例が物語っている」


 憎んでいるかのようにきつく握り締めた。


「彼らの目的が『闇』のティア・ブレスにまで及んでいるのかは、分からない。だが、万が一のことを考え、私と晴菜はなんとしでも、ティア・ブレスを奪取しなければならない」


 元々、感情の変化が乏しい明里が語るその話は、奇妙な、まるで彼女が実体験者であるかのような、迫力と現実味を持って鳴恵に襲いかかってきたのだった。


___________________________________

《神野家 ベランダ》


 鳴恵がベランダに出ると、晴菜は夜空を眺めていた。


「明里から、一通りの説明は受けたようね」

「ま、大まかにだけだけどな。それよりも、ほら」


 鳴恵は晴菜に缶ジュースを差し出した。

 怪訝そうな顔をする晴菜に、鳴恵は「葡萄味だぞ」と一言付け加えると晴菜は渋々ながら、でもちょっとだけ嬉しそうに缶ジュースを受け取った。


「それで、あたなこれから、どうするつもりなの?」


 葡萄味の缶ジュースを一口だけ飲んでみた。


「オレとしては、お前達二人と一緒に戦いたいんだが」

「その理由を聞かせなさい」


(うわ~。さも当然のごとく命令形かよ)


「今はちょっとこの家にいないくて会わせられないけど、オレはママを尊敬していてね。ママとママの親友のようになりたいって小さい頃から思っていたんだ」

「答えになっていない。それが、どうして私と戦う理由になるのかしら?」

「ママとその親友は、オレみたいな高校生ぐらいの頃、人知れず化け物を倒していたらしい。もっとも、今はもう二人とも結婚しているからそんな危険なことやってないし、オレが戦っている二人を見たのは、ガキの頃に一回だけなんだけど、その一回で充分だった。オレは、あの二人のようになりたいってずっと思っていたんだ」

「要するに、憧れが理由な訳なのね」


 両手で缶ジュースを握りしめながら、ポツリと晴菜は呟く。


「ま、そうなるな」


 晴菜は自嘲的な笑みを浮かべると、すぐさま鳴恵に向き直り手に持っていた缶ジュースの中身を思いっきり鳴恵にぶっかけた。


「ぅぶ。っぺ、おい、いきなり何をするんだ」


 葡萄ジュースで全身びしょ濡れになった鳴恵が怒鳴るが、それ以上の怒号で晴菜は告げる。


「憧れ! ふざけないで、そんな理由で戦うのなら、あなたなんて不要よ。迷惑なだけよ、このマザコン!」


 鳴恵の反論を聞く暇もなく晴菜は、踵を返し部屋へと戻っていく。

 ただならぬ状況を察して明里が近づいてくる。


「明里、もうこの方には用無しよ。帰りますわ」

「おい、なんだよ、いきなり。待てよ」


 慌てて鳴恵が晴菜を呼び止めるが、水のティア・ブレスを持つ少女は冷酷な瞳で鳴恵を捉え、動きを制した。

 人差し指と中指だけを立てた手が鳴恵のこめかみに向けられ、その手が銃が発砲されるがごとく小さく上に跳ね上がった。



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