彼女は彼を
桜舞う、並木通りを一人の男子高校生が歩いていく。
大きな門から続く並木道の行き止まりには、大きくて古めかしい校舎。
日本人にしては色素の薄い長めの髪を風になびかせ、颯爽と彼は歩いていく。
端正な横顔は涼しげで、若干の幼さを残しつつ、少年と青年の狭間で輝いている。
有名デザイナーが手がけたという、都会風ブレザーを制服以上に難なく着こなし、姿勢良く歩く長身の姿に女子生徒たちの視線は釘付けだ。
そこかしこで、ホウッ、と羨望のため息がもれるのもお約束。
まさに、少女マンガの王子様。学園のプリンス。
ただし、高等部に上がったばかりの一年生だったりする。
学園での今後が容易に想像できる彼、天宮 春生は外見が完璧な、キラキラ王子様系キャラだ。
ここであえて、キャラ、と言うには訳がある。
アタシは知っているから。
彼はこれから始まる、ここ私立・星辰四葉学園高等部を舞台とした《ゲーム》の参加者。
つまりは攻略キャラ。
「恋色クローバー~ときめきプリンスにラブチャーム」
それはお約束の庶民ヒロインが、良家子女の通う学園で憧れの王子様を射止めるまでを描いた乙女ゲーム。
ちなみに射止めたら即エンドなので、高校生活3年間をみっちりプレイする必要はあまりない。それこそ逆ハーエンド狙いか、誰ともくっつかない卒業エンドくらいかな?
アタシが前世で大好きだったゲームだ。
登場するのはそれぞれ癖のある美形の王子様。
同級生はもちろん、先輩、後輩、教師に隠れキャラも合わせて総勢7人の攻略キャラ。
残念ながら、逆ハーエンドは最難関の激ムズ仕様で、アタシは見たことがないけどね。
天宮春生は同級生の王子様。
いわゆるゲームの看板キャラで、幼稚舎から大学までの一環教育がウリのこの学園を代表するかのような、生粋のセレブ様だ。
ただし、あまり屈折したところがないので絡め手は使えない。またセレブのくせに庶民寄りの感覚の持ち主なので、下手すればこっちよりフランクだ。
おかげで会話の選択肢もバリエーション豊富で地雷が多く、うっかりテンプレの「身分なんか気にしない」「貴方のこと、本当にわかってるのは私だけ」発言を選ぼうものなら、即攻略不可フラグが立つ。
リアルじみてて、場合によっては隠れキャラ並みに攻略が難しいキャラだ。
まぁ、だからこそ人気があったんだけど。
さてさて。
ここはゲームと同じ世界だ。もしかしたら違うかもしれないけれど、登場する人物達は同じ。場所も同じ。
ただひとつ絶対的な相違は、リセットがきかないこと。
そんな世界で、彼らはどう生きて(動いて)いくのか。
アタシは楽しみで仕方ない。
アタシは誰かって?
ただの傍観者。
でもいろいろ知ってる傍観者。
それだけ。
アタシはだ~れ?