王族の会話
──ある日のダイアモンド・ファイア本部。真夜中。
普段来ないような二人が、珍しく来ていた。
ブレイと、紅蓮だ。
しかし、紅蓮の表情はかなり真剣な顔をしている。
「…珍しいねぇ。君がここに来るなんて」
『普段からお前がここに来ることぐらいは知ってる。
それに、今回二人で話さないといけないからな』
笑みを浮かべたまま、ブレイが聞く。
その顔は、すでに何かを察したようだ。
「それはことだい?」
『いっとくが──
──紅蓮としてではなく、猫族の長・イブリースとしてだ』
紅蓮は人の姿に変化する。
しかし、頭に耳が生えていること以外普段の姿とは異なり、
気高く凛々しい女性。まさに長と呼ぶに相応しい姿。
「…数年振りだね。その姿見るの」
「…最近やっと可能になった」
紅蓮…いやイブリースは、一言そういう。
猫の時とは違い、威圧的な口調だ。
「…それで、話っていうのは?
本来の姿に戻ったってことは、かなり重大なことみたいだけど」
「ああ。実は…」
イブリースはかなり深刻な顔をしている。
少し間を空けてから、ブレイに話した。
「…師匠たちから聞いただけだが、イフリートが、『火ノ本』からいなくなったらしい」
「いなくなった、って…」
「…おそらく、火の国へ向かった思う。それも一人でだろう」
「けど、あの世界は今…」
「ああ。火の国…いや、あの世界全域は、黄泉の者が蔓延る。
そのことぐらい、あいつも分かっているだろう」
「…」
二人の間にはしばらく沈黙した空気が流れた。
イブリースは、ブレイに話そうとしたことを、ついに切り出した。
「…ひとつ、聞きたいことがある」
「…?」
イブリースの顔が、より一層真剣になる。
しかし、どこか辛そうで、悲しそうなところも感じられる。
「…我は、どうするべきだ…」
「…」
「言い訳になるのは承知している。だが、聞いてくれ。
…まだ、火ノ本にいた頃に師匠に言われたんだ。『火蓮を守ってほしい』と。
しかし我は…猫族の長として、国の皇女として…火の国へ向かいたい。
──なあ、紅蓮として残るべきか?イブリースとして火の国に向かうべきなのか?
…どうすれば良い、どうすれば…」
「…うーん…うまくは言えないけど…
俺としては、君はここに残るべきだと思うんだ」
微笑みながら、イブリースに答える。
「俺の勝手な憶測だけど…イフリートは、君のことをちゃんと思っていたんじゃないかな。
モチロン、火の賢者として使命を果たす為だろうけど…
君とイフリートは、あの人のところで一緒に修行していたのだろう?」
「…ああ」
「…姫。いや、火蓮ちゃん…まだ、魔力が制御しきれていないのだろう?
レットやルビーが言ってたよ」
「…あの小僧も同じことを言うとはな。特殊な能力があるのは、薄々感づいていたがな」
その回答に苦笑しながらも、ブレイは話を続ける。
「それに君は…自分で思っているよりも、長としてちゃんと役目をはたしているよ」
「だが、我は…」
「分かってる。けど…あの時は緊急事態で、あれ以外方法がなかったんだ。
…分かるだろう」
「…」
「…まあ、俺が言えるのはこの程度。
とりあえず、俺が一番言いたかったのは…
──たまには肩の力を抜いて、物事を考えてみなよ。『姉上』」
それだけいうと、ブレイは部屋へと戻って行った。
「…マイペース過ぎるんだよ」
──お前に聞いて正解だったよ、ブレイ。
「…あの二人、兄妹だったのか…
どおりで似たような波長がするわけだな」
「…ん?あれ…つまり紅蓮って…」
「「…王女?」」
実は居た、ラナーテとシャーマ。




