青の世界で沈みゆく心……
バスに乗った僕たちは、沖縄の歴史を感じる場所をいくつも巡った。
首里城では、赤い瓦の向こう、火災で焼け焦げた柱の根元が地面に黒く残っていた。
かつてここに立っていた正殿の姿を想像すると、胸の奥が少しだけ痛くなる。
かつてここに立っていた正殿の姿を想像すると、胸の奥が少しだけ痛くなる……。
でも、周囲には復元工事の足場が組まれ、職人たちの手が新しい命を吹き込んでいた。
「見せる復興」——その言葉通り、首里城は今、再び立ち上がろうとしている。
次に訪れたひめゆりの塔……。
この前に立つと、空気が変わった。
さっきまで騒いでいたクラスメイトたち、さらにあの高藤や悠人でさえも自然と口を閉じていた。
そして塔の前にある名前が刻まれた石碑……。
「私たちと同世代の子が戦争で亡くなったのよね……」
石碑の前でそう呟く亜希の言葉に、僕の胸がぎゅっと締め付けられる……。
次にバスは美ら海水族館へと停まる……。
バスを降りた瞬間、潮風と甘い花の香りが混ざった空気が僕たちを包み込んだ。
目の前には、美ら海水族館——沖縄の海をそのまま閉じ込めたような場所。
「……すごい。海の匂いがする」
亜希が小さく呟いて、髪を耳にかける。
その仕草が妙に大人びて見えて、僕は少しだけ目を逸らした。
水族館の中に入ると、空気がひんやりと変わる。
青い光に包まれた空間は、まるで海の底に迷い込んだみたいだった。
静かで、幻想的で……まるで夢の中にいるような気分になる。
「わぁ……見て、彼方……!」
亜希が僕の袖を引いて、大水槽の前へと駆けていく。
ジンベエザメが悠々と泳ぎ、マンタが優雅に舞っている。
僕たちは並んで水槽を見つめる。
言葉はなくても、隣にいるだけで心が満たされていく。
「……この海の中に、二人だけでいたらどうなるんだろうね」
僕がぽつりと呟くと、亜希は少しだけ笑った。
「……酸素がないから、すぐに浮き上がることになると思うわよ」
「……それは現実的すぎる」
「ふふっ、でも……彼方の言うように、この中にふたりきりというのも、ちょっとだけ夢があっていいかもしれないわね」
水槽の青が、亜希の瞳に映っていた。
その横顔があまりにも綺麗で、僕は思わず見とれてしまう。
「……彼方、見すぎ」
「ご、ごめん……」
照れながら視線を逸らすと、後ろからシャッター音が聞こえた。
「……記録完了。青の世界に溶けるふたり」
柊さんがデジカメを構えて、無表情で呟く。
「ちょっと……撮らないでよ……!」
亜希が顔を赤くして抗議するも、柊さんは淡々と次のアングルを探していた。
「おーい!イルカショー始まるぞー!」
悠人の声が響き、クラスメイトたちがぞろぞろと移動を始める。
「……行こっか、彼方」
「うん」
亜希が僕の手をそっと握ると、ショーが行われる場所へと向かう。
そのぬくもりが、青い世界の中でひときわ鮮やかだった。
イルカのショーが始まると、飼育員とイルカたちの一糸乱れぬ動きに、会場から拍手が巻き起こった。
そしてその時僕はつい言ってしまった……。
しかしそれが思わぬことになるとは、この時の僕は思いもしなかった……。
「……イルカってちゃんと飼育員のこと聞くし、素直でかわいいよね」
そう呟いた瞬間、亜希がワナワナと震えながら、僕をじっと見つめていた。
どうしたんだろう……?
「それって……私が素直じゃないってこと……?」
え……?
今まで笑顔だった亜希の表情が突然一転し、僕を睨みつけてくる。
「ちょ、ちょっと待ってよ……! なんでそうなるの!?僕はイルカのことを言っただけで、亜希のことじゃ……!」
訳が分からない僕はどうにか亜希をなだめようとするも、一向に亜希の機嫌が直りそうな気配はない。
とりつく島もないとはこの事だ……!
「もういいわよ……!彼方は私より素直な柊さんや瀬玲奈と付き合えば……っ!?」
亜希はそれだけを言い残して席を立つと、そのままどこかへと行ってしまい、
ポツンと取り残された僕は、ショーの賑わいがやけに遠くに感じたのだった……。
~サイドストーリー~
──亜希──
彼方と別れた私は、ひどい自己嫌悪に陥っていた……。
「私……なんであんなこと言っちゃったんだろう……」
彼方が私ではなくイルカのことを言ってるというのは最初からわかってた……。
でも、根が素直じゃない私の心を彼方に見透かされたような気がして、思わずあんな事を言ってしまった……。
「彼方のおかげで少しは素直になれたと思ってたのに……やっぱり私って元々の性格がこんなのなのかな……。これじゃあ彼方に嫌われちゃうよ……。う……ひっく……、ううぅ……」
私はイルカの水槽の前にしゃがみ込み、肩を震わせながら嗚咽を漏らしていた。
水槽の青が揺れて見えて、それが自分の心の中の波みたいに感じられた。
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