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金曜日に贈る和歌  作者: 朝凪


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30/30

我が君は

7月の中旬

夏休みを目前に控えた小学校では、終業式が行われていた。

小学6年生の結衣は、体育館でみんなと一緒に校歌や式歌の練習をしていたが、どうにも気になることがあった


「ねえ、お母さん」


その日の夕方、帰宅した結衣はランドセルを置くなり母に尋ねた


「『君が代』って、どういう意味なの?」


母は少し驚いた顔をした


「急にどうしたの?」

「学校で歌うから。歌ってるけど、意味知らないなって思って」


母は少し考えたあと、笑った


「それなら、調べてみたら?」


その夜

結衣は机に向かいながらスマホで調べ始めた

すると、『君が代』の元になった和歌が古今和歌集に載っていることを知った



我が君は千世に八千世にさざれ石の

巌となりて苔の生すまで



意味も書いてあった


「私の大切な人が、千年も八千年も生きて、小さな石が大きな岩になり、そこに苔が生えるほど長生きしますように」


結衣は思わず目を丸くした


「長生きしてねって歌だったんだ……!」


もっと難しい意味だと思っていた

けれど実際は、とてもシンプルな願いだった

大切な人に、ずっと元気でいてほしい

ただそれだけ


ーーー


翌日。学校から帰ると、祖母が縁側でスイカを食べていた


「結衣も食べるかい?」

「食べる!」


祖母の隣に座りながら、結衣はふと思った


(おばあちゃんにも長生きしてほしいな)


祖母は今年で80歳になる

元気ではあるけれど、最近は「膝が痛い」と言うことも増えた

結衣は昨日調べた和歌を思い出す


「ねえ、おばあちゃん」

「なんだい?」

「長生きしてね」


祖母はきょとんとした


「急にどうしたんだい」

「なんとなく」


結衣は照れくさくなってスイカにかじりつく

祖母はしばらく黙っていたが、やがて優しく笑った


「ありがとう」


その笑顔を見て、結衣も嬉しくなった


ーーー


その週の金曜日

結衣は『金曜日に贈る和歌』へ依頼を送ってみた


『おばあちゃんに長生きしてほしいです。そんな和歌を教えてください』


数日後に届いた手紙には、やはりあの歌が書かれていた



我が君は千世に八千世にさざれ石の

巌となりて苔の生すまで



綺麗な便箋を見つめながら、結衣は思う

昔の人も、誰かに長生きしてほしかったのだ

家族や友人や、大切な人……。千年も八千年も生きることはできなくても、願う気持ちは今と変わらない

結衣は手紙を大事に机へしまった

そしてその日の夜。祖母の部屋へ行くと、照れくさそうに言った


「おばあちゃん」

「ん?」

「百歳まで生きてね」


祖母は大笑いした


「百歳かい。それはなかなか大変だねぇ」

「じゃあ110歳!」

「欲張りだねぇ」


2人は顔を見合わせて笑った

窓の外では、夏の夕焼けが空を染めている


結衣は思う

大切な人に長生きしてほしい

その願いはきっと、千年前も今も変わらないのだろう

小さな石が大きな岩になるほど長い時間は無理でも

できるだけ長く、たくさん笑っていてほしい

そんな願いを胸に抱きながら、結衣は祖母の隣で楽しそうに話を続けるのだった




・和歌

我が君は千世に八千世にさざれ石の

巌となりて苔の生すまで

(古今和歌集 詠み人知らず)

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