お正月
元旦の朝
凍えてしまいそうなほどの寒さの中、初日の出が姿を現す。カーテン越しの日差しを浴び、布団がもぞりと動く
布団と一体化していた女性は、日差しを受けてのそのそと布団から起き出す。そしてパジャマのままキッチンへと行き、電気ケトルのスイッチを入れた。お湯が沸く間に顔を洗い、うがいまで済ませると、彼女はほうじ茶を取り出した
パンダがプリントされた耐熱ガラスのマグカップに、あつあつのほうじ茶を淹れて一息。これが彼女の毎朝の光景だ
「………ふぅ」
お茶を飲み終われば、玄関の外に出る。風は冷たく、容赦なく身体を刺してくる
ーー彼女の目の前に、雄大な富士山が広がる
遠くにそびえる富士は、まるで神様でも宿しているかのように、白雪をまとって輝いていた
「……あけましておめでとうございます。今年も1年よろしくお願い致します」
彼女は、そっと富士山に手を合わせ願う
「“田子の浦にうち出でて見れば白妙の富士の高嶺に雪は降りつつ”……かな」
彼女ーー京極 桜は、ポツリと呟いた
「さて、お雑煮の準備をしなくちゃ」
桜はいそいそと家の中へ戻った
静岡県東部に住む京極家のお雑煮は、毎年醤油味のつゆに角餅を入れた関東風だ。つゆには、鶏肉やほうれん草、人参、かまぼこが入っている
「今年も1年よろしくお願い致します」
元旦の朝食の前、桜は必ず神棚に祈りを捧げ、仏壇に手を合わせる
彼女の声はいつもより柔らかい
「さて、じゃあ頂きます」
お雑煮を食べた後、デザートには緑茶と花びら餅をいただく。ひと口ひと口、噛み締めるようにじっくりと
もちもちしたお餅と白味噌餡、甘く煮たごぼうがマッチして美味しいのだ
ゆっくり食べていたにも関わらず、桜は花びら餅をペロリと平らげてしまった
「さて、片付けなくちゃ」
桜は食器を片付けるために、キッチンへと向かった
彼女ーー京極 桜は、人外でも天才でもない
ただ季節の機微と和歌を愛する、静かな日常を丁寧に生きる女性だ
ーーこれは、和歌と季節と人が紡ぎ出す物語
・和歌
田子の浦にうち出でて見れば白妙の
富士の高嶺に雪は降りつつ
(山部赤人 新古今和歌集)




