第6話
朝。
目が覚めた瞬間、昨日と同じ天井があった。
「うん、知ってた」
知ってたからといって、別に安心するわけでもない。ただ、予定通りだな、と思うだけだ。予定なんて立ててないけど。
起きる。水を飲む。今日の水も裏切らない。
「優秀」
誰にともなく評価しておく。
外に出ると、街の音が昨日より少しだけざわついている。ほんの少しだ。分からない人には分からない。たぶん、気のせいって言われるレベル。
「気のせいって便利だよなあ」
歩きながら、そう思う。
昨日の話がまだ生きてるんだろう。
街道。
魔物。
結果だけ残ったやつ。
「結果だけってさ、
一番想像力かき立てられるやつじゃん」
想像力がある人間ほど、勝手に話を盛る。盛った話は、だいたい広まる。
市場の脇を通ると、案の定だ。
「誰がやったんだと思う?」
「相当な手練れだろ」
「いや、複数だ」
「血が少なすぎる」
「血の量で格付けするの、
ちょっと雑じゃない?」
小声で言う。
誰にも聞こえない。
商店の前まで来ると、ミアが外に出ていた。箱を運んでいる。相変わらず、周囲の視線を集めているのに、本人は気づいてない。
「おはよー」
「おはようございます」
声はいつも通りだ。昨日と変わらない。
「今日は外なんだ」
「朝のうちに並べておかないと、後で大変なので」
「計画的だなあ」
「普通です」
普通、って言葉を使う人ほど、だいたい普通じゃない。
箱を置く動きが丁寧で、無駄がない。
かわいい、と思う。
昨日も思った。今日も思った。
だからといって、何か変わるわけじゃない。
「今日も暇?」
「今のところは、いいなあ」
「良くないですよ」
「でも忙しいと、
暇な時間が恋しくなるでしょ」
「……それは、そうですけど」
ミアが少しだけ困った顔をする。
その表情が、また周囲の視線を集める。
「自覚ないって、
ある意味才能だよな」
「何か言いました?」
「独り言」
店に入る。
中でも、噂は続いている。
「勇者ノクスなら、ありえるよな」
「でもあいつ、もう昔の人だろ」
「いや、最近また流行ってるじゃないか」
ノクス、という名前が空気に混じる。
「名前だけが生きてるって、
便利だよなあ」
口には出さない。
出す必要がない。
水を買って、パンを買う。
「今日はどこ行くんですか」
「決めてない」
「またですか」
「今日は“決めない日”」
「毎日じゃないですか」
「連続記録更新中」
外に出ると、視線が一つ増えた気がした。
気がしただけかもしれない。
でも、さっきより確実に
「見られ方」が変わっている。
「ああ」
少しだけ、理解する。
昨日の出来事は、
もう“遠い話”じゃなくなってる。
街の中に、
ちゃんと入り込んでる。
「まあ、
だからって俺に何かあるわけでもないけど」
そう言って、歩き出す。
歩きながら、いつもの言葉を口にする。
「あー、暇だぁ」
でも今日は、
その言葉が、ほんの少しだけ軽くなかった。




