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番外編:休憩室での雑談 ~女性と権力について~

(第2ラウンドと第3ラウンドの間の休憩時間。スタジオの奥にある豪華な休憩室。重厚な革張りのソファ、クラシックな調度品、そして壁には歴史的な絵画が飾られている。4人の対談者が、それぞれリラックスした様子で座っている。チャーチルはウイスキーを注ぎ直し、ビスマルクは新しいビールジョッキを手にし、スターリンはパイプに火をつけ、ルイ14世は扇子で優雅に顔を仰いでいる)


(休憩室の隅にある大型モニターが、ニュース番組を流している)


ニュースアナウンサー(テレビから):「—そして政治ニュースです。日本の政界に歴史的な動きがありました。与党の新総裁に女性議員が選出され、近く日本初の女性総理大臣が誕生する見込みです—」


(4人が同時にモニターを見る)


ルイ14世:(扇子を止めて、驚いた表情で)「女性? 総理大臣に?」


チャーチル:(ウイスキーを飲みながら、興味深そうに)「ほう...日本か。ついに東洋の国も、そこまで来たか」


ビスマルク:(ビールを置いて)「女性の指導者? まあ、歴史上いないわけではないが...」


スターリン:(パイプから煙を吐き出し、無表情に)「性別など問題ではない。能力があるかどうかだ」


ルイ14世:(立ち上がり、モニターに近づく)「だが...女性が国家の頂点に立つなど...」


(振り返って3人を見る)


ルイ14世:「朕の時代では考えられませんね。女性は宮廷を彩る花であり、政治は男性の領域でしたから」


チャーチル:(笑いながら)「陛下、イギリスには偉大な女王がいたことをご存知か? エリザベス1世、ヴィクトリア女王——彼女たちは多くの王よりも優れていた」


ルイ14世:(座りながら、渋々)「...女王は例外です。神の血統を引く者ですから」


ビスマルク:(皮肉を込めて)「つまり、血統さえあれば性別は関係ない、と?」


ルイ14世:「そういうことです」


ビスマルク:「だが、このニュースの女性は選挙で選ばれたのだろう? 血統ではない」


チャーチル:(ソファに深く座り、葉巻を咥える)「女性の指導者か...私の時代にも何人かいた」


(煙を吐き出す)


チャーチル:「インドのインディラ・ガンディー、イスラエルのゴルダ・メイア、そしてイギリスではマーガレット・サッチャー——」


ルイ14世:(興味深そうに)「サッチャー? こちらの世界に来てから聞いたことがありますね。『鉄の女』と?」


チャーチル:「その通りだ。彼女は私の後継者たちよりも、遥かに強力な首相だった。フォークランド紛争では一歩も引かず、労働組合とも戦い、経済改革を断行した」


ビスマルク:(うなずく)「ほう...決断力があったわけだ」


チャーチル:「それどころか、多くの男性政治家が彼女を恐れていた。閣議では容赦なく部下を叱責し、議会では野党を論破した。まさに——」


(笑って)


チャーチル:「私のような政治家だった!」


スターリン:(冷たく)「性別で判断すること自体が、ブルジョワ的偏見だ」


(全員がスターリンを見る)


スターリン:「ソビエトには女性の党幹部、女性の工場長、女性のパイロットがいた。彼女たちは男性と同等に、時にはそれ以上に働いた」


ビスマルク:(懐疑的に)「本当か? 貴公の国では、女性も平等だったと?」


スターリン:「建前上はな。だが——」


(珍しく、わずかに表情を緩める)


スターリン:「実際、女性狙撃兵たちは優秀だった。冷静で、忍耐強く、正確だった。男よりも、な」


ルイ14世:(扇子で顔を仰ぎながら、考え込むように)「ですが...女性が政治の表舞台に立つことと、実際に権力を握ることは別でしょう?」


チャーチル:「どういう意味だ?」


ルイ14世:「朕の宮廷にも、影響力を持つ女性はおりました。ポンパドゥール夫人、マントノン夫人——彼女たちは陰で政治を動かしていた」


ビスマルク:(冷笑する)「つまり、表に出るのは恥ずかしいが、裏で操るのは許される、と?」


ルイ14世:(むっとして)「そうではありません! ただ...女性には女性の、優雅な影響力の行使方法があるということです」


スターリン:「それこそが差別だ。なぜ女性は『裏』にいなければならない? 能力があれば、表に立てばいい」


ルイ14世:(反論しようとして、言葉に詰まる)「それは...その...」


チャーチル:(助け舟を出すように)「陛下の時代では、それが常識だったのだろう。だが時代は変わった」


(ウイスキーを飲む)


チャーチル:「私も正直に言えば——最初、女性の参政権には懐疑的だった」


ビスマルク:(驚いて)「貴公が? 民主主義の擁護者が?」


チャーチル:(苦笑する)「恥ずかしい話だが、な。20世紀初頭、サフラジェット(女性参政権運動家)たちが暴れ回っていた時、私は彼女たちを『ヒステリック』だと思っていた」


ルイ14世:(興味深そうに)「では、何が貴方を変えたのです?」


チャーチル:(真剣に)「第一次世界大戦だ」


(立ち上がり、窓の外を見つめる)


チャーチル:「男たちが戦場に行った。工場は空っぽになった。農場も、病院も、すべてが人手不足だった」


(振り返る)


チャーチル:「そこで女性たちが立ち上がった。工場で兵器を作り、農場で食料を育て、病院で負傷者を看護した。彼女たちがいなければ、戦争に勝てなかった」


スターリン:(うなずく)「第二次大戦も同じだ。ソビエトの女性たちは前線で戦った。狙撃兵、戦闘機パイロット、戦車兵——」


ビスマルク:(考え込んで)「なるほど...戦争が、女性の役割を変えたわけか」


チャーチル:「その通りだ。戦後、女性たちに『家に帰れ』とは言えなかった。彼女たちは国を救ったのだから」


ルイ14世:(小さく)「朕の時代にも...戦争はありました。だが女性は戦わなかった」


ビスマルク:「必要がなかったからだ。男だけで十分だった。だが近代戦争は——総力戦だ。女性の力も必要になった」


スターリン:「いや、違う。女性は常に戦っていた。ただ認識されていなかっただけだ」


(パイプを置き、珍しく熱を込めて語る)


スターリン:「農民の妻は畑を耕し、労働者の妻は家計を支えた。戦争未亡人は子供を育てながら働いた。彼女たちは常に戦っていた——見えない戦場で」


(沈黙)


チャーチル:(静かに)「...その通りかもしれんな」


ビスマルク:(ビールを飲みながら)「だが、問題は——女性が政治的指導者に向いているかどうか、だ」


ルイ14世:(即座に)「向いてはいないでしょう。政治は冷徹な判断、時には残酷な決断が必要です。女性には——」


スターリン:(遮るように)「キャサリン大帝を知っているか?」


ルイ14世:「...ロシアの?」


スターリン:「そうだ。彼女は夫を廃位し、権力を握った。そして領土を拡大し、農奴制を強化し、反乱を容赦なく鎮圧した。これが『優しすぎる』女性か?」


ルイ14世:(言葉に詰まる)


チャーチル:「エリザベス1世もそうだ。スペインの無敵艦隊を撃破し、メアリー・スチュアートを処刑した。冷酷な決断を下せる女王だった」


ビスマルク:(考え込んで)「つまり...女性にも冷酷になれる者はいる、と」


スターリン:「性別は関係ない。権力は人を変える。男も女も、権力を握れば同じだ」


ルイ14世:(小さく)「では...女性が総理大臣になっても、男性と変わらない、と?」


チャーチル:「必ずしもそうとは限らん」


(全員がチャーチルを見る)


チャーチル:「女性には、男性とは異なる視点がある。子供を産み、育てる経験。家庭を守る視点。それが政治に新しい風を吹き込むこともある」


ビスマルク:(懐疑的に)「具体的には?」


チャーチル:「たとえば、社会福祉。教育。医療。これらは伝統的に女性が関心を持つ分野だ。女性指導者は、こうした分野を重視する傾向がある」


スターリン:「それは偏見だ。男性でも社会福祉を重視する者はいる」


ビスマルク:(自分を指して)「私のようにな」


チャーチル:(認めて)「確かにそうだ。だが統計的には、女性指導者の方が——」


ルイ14世:(遮るように)「待ってください。つまり、女性は『優しい政治』をする、と?」


チャーチル:「必ずしもそうではない。サッチャーは『鉄の女』だった。だが——」


(考え込む)


チャーチル:「女性の視点が加わることで、政治の幅が広がる。それは確かだと思う」


ビスマルク:(ビールジョッキを置き、腕組みをする)「だが、この日本の女性総理大臣は——選挙で選ばれたのだろう?」


チャーチル:「そうだ。それが民主主義の素晴らしさだ。性別に関わらず、能力で選ばれる」


ルイ14世:(疑問を投げかける)「だが、本当に能力で選ばれたのでしょうか? それとも『初の女性』という話題性で?」


(鋭い指摘に、チャーチルが黙る)


スターリン:「それは民主主義の弱点だ。人気投票になる」


ビスマルク:「だが、それを言えば男性政治家も同じだ。話題性やカリスマで選ばれることはある」


チャーチル:(反論する)「確かにそうだ。だが民主主義では、結果を出さねば次の選挙で落とされる。性別に関わらず、だ」


ルイ14世:「つまり...女性総理大臣が無能なら、国民は次に男性を選ぶ?」


チャーチル:「その通りだ。それが民主主義の自己修正能力だ」


スターリン:(冷たく)「そして政策は二転三転し、一貫性がなくなる」


チャーチル:(苦笑する)「我々、また議論を始めるつもりか?」


ビスマルク:(笑って)「休憩中だ。やめておこう」


ルイ14世:(扇子を膝に置き、珍しく真剣に)「皆さんは...身近に、有能な女性がいましたか?」


(予想外の質問に、3人が考え込む)


チャーチル:(静かに)「...妻のクレメンタインだ」


(ウイスキーを見つめる)


チャーチル:「彼女は私の最良のアドバイザーだった。私が暴走しそうな時、冷静に諫めてくれた。演説の原稿も、彼女が最初に読んだ」


ビスマルク:(うなずく)「妻の助言は...確かに貴重だった。政治家は孤独だ。信頼できる相談相手が必要だ」


スターリン:(長い沈黙の後、低く)「...母だ」


(全員が驚いてスターリンを見る)


スターリン:「貧しい洗濯女だった。だが強かった。父の暴力に耐え、私を育て、学校に通わせた。彼女がいなければ、私は文盲の労働者で終わっていた」


(パイプを握りしめる)


スターリン:「女性は弱くない。生き抜く力がある」


ルイ14世:(静かに)「朕の母、アンヌ・ドートリッシュも...摂政として国を守りました」


(扇子を開く)


ルイ14世:「朕が幼い時、フロンドの乱という反乱がありました。貴族たちが王権に反旗を翻した。母は...朕を守り、国を守りました」


チャーチル:「それは知らなかった」


ルイ14世:「だから朕は...女性の力を知っています。ただ——」


(悲しそうに)


ルイ14世:「その力を、表に出すことを許さなかったのです。朕の時代は」


ビスマルク:(ビールを飲み干し、新しいジョッキを手に取る)「で、この日本の女性総理大臣は——成功すると思うか?」


チャーチル:(考え込んで)「わからん。日本の文化はよく知らないが...」


スターリン:「日本は保守的な国だ。特に政治の分野では女性の社会進出は遅れていた。その中での初の女性総理大臣——」


ルイ14世:「困難でしょうね。男性の政治家たちは、彼女を受け入れないかもしれません」


ビスマルク:「試練になるだろうな。だが——」


(窓の外を見る)


ビスマルク:「それは男性の初代総理大臣も同じだっただろう。新しいことは常に困難だ」


チャーチル:「その通りだ。だが、誰かが最初にならねばならない。彼女がその役割を果たす」


スターリン:「成功すれば、後に続く女性が増える。失敗すれば——」


ルイ14世:「『だから女性はダメだ』と言われる?」


スターリン:「残念ながら、そうなる可能性はある」


チャーチル:(力強く)「だからこそ、我々は彼女を応援すべきだ——たとえ歴史の彼方からでも」


ビスマルク:(笑って)「応援? 我々が?」


チャーチル:「そうだ。性別に関わらず、有能な指導者が現れることは——人類にとって良いことだ」


ルイ14世:(立ち上がり、窓辺に立つ)「今夜の議論で...朕は考えが変わりました」


(3人を見る)


ルイ14世:「女性が政治の表舞台に立つこと——それは、もはや時代の流れなのでしょう。朕の美学には合いませんが...」


(小さく微笑む)


ルイ14世:「新しい美が生まれるのかもしれません」


ビスマルク:(うなずく)「私は元々、性別など気にしない。結果を出せば良い。それだけだ」


(ビールを掲げる)


ビスマルク:「ただし——政治は厳しい。男だろうが女だろうが、容赦はせん」


スターリン:(パイプを咥え直す)「平等は、機会の平等だけでは不十分だ。結果の平等も必要だ」


チャーチル:「つまり?」


スターリン:「女性が一人総理大臣になっても、それは例外だ。半数が女性になって、初めて平等と言える」


チャーチル:(考え込んで)「...一理あるな。だが、それには時間がかかる」


スターリン:「歴史は長い」


チャーチル:(立ち上がり、ウイスキーグラスを掲げる)「では、この日本の女性総理大臣に——乾杯しようじゃないか」


ビスマルク:(ビールジョッキを掲げる)「時代の先駆者に」


スターリン:(グラスを掲げる)「平等への一歩に」


ルイ14世:(ワイングラスを掲げる)「新しい時代の美に」


4人:「乾杯!」


(グラスを合わせる音が響く)


(ドアがノックされる。スタッフの声が聞こえる)


スタッフ(ドア越しに):「皆様、休憩終了です。第3ラウンドの準備をお願いします」


ビスマルク:(ビールを飲み干す)「さて、また戦場に戻るか」


チャーチル:(葉巻を咥え直す)「今度は何を議論するんだったかな?」


スターリン:「理想の指導者像、だ」


ルイ14世:(扇子を手に取る)「では、朕が女性の指導者について語るべきでしょうか?」


チャーチル:(笑って)「それは面白い! 陛下の考えが変わったところを、視聴者に見せようじゃないか」


ルイ14世:(慌てて)「い、いや、そこまでは...」


ビスマルク:(肩を叩いて)「遅い。もう決めた。陛下には女性の政治参加について熱弁してもらおう」


ルイ14世:「ちょ、ちょっと! それは——」


スターリン:(無表情に)「民主主義の良さを語る、絶対王政の王。面白い」


チャーチル:(大笑いしながら)「これは視聴者も驚くぞ!」


ルイ14世:(諦めたように)「...もう、好きにしてください」


(4人が笑いながら、休憩室を出て廊下を歩いている。その表情は、休憩前よりも柔らかい)


チャーチル:「しかし...女性の政治参加について、こんなに真剣に議論するとは思わなかったな」


ビスマルク:「時代が変わったということだ。我々の時代では考えられなかったことが、今は当たり前になっている」


スターリン:「歴史は進む。後戻りはしない」


ルイ14世:(小さく微笑んで)「朕も...学びました。固定観念に囚われていては、時代に取り残される、と」


チャーチル:(ルイ14世の肩を叩く)「陛下、それが成長というものだ」


ルイ14世:「成長...ですか。朕が、この歳で?」


ビスマルク:(笑って)「我々は皆、死んでいるのだぞ。今更成長も何もあったものではない」


(4人が笑う)


スターリン:「だが...悪くない。新しいことを学ぶのは」


(スタジオのドアの前で立ち止まる)


チャーチル:「さあ、第3ラウンドだ。また激しく議論しようじゃないか」


ビスマルク:「今度は容赦せんぞ」


スターリン:「最初から容赦などしていない」


ルイ14世:(扇子を開いて)「では、参りましょう。優雅に、そして——」


(3人を見る)


ルイ14世:「少しだけ、柔軟に」


(4人がドアを開けて、スタジオへ入っていく)


(休憩室に残されたモニターでは、まだニュースが流れている)


ニュースアナウンサー(テレビから):「—歴史的な瞬間を迎えた日本。今後の女性総理大臣の活躍に、世界中が注目しています—」


(画面が暗転する)


—番外編 完—

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