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ラウンド1:権力の正統性

(画面に「第1ラウンド:権力の正統性」の文字が浮かび上がる。BGMが落ち着き、スタジオに緊張感が漂う。4人の巨人がそれぞれの姿勢で座っている——チャーチルは葉巻を咥え、ビスマルクは腕組み、スターリンは無表情にパイプを咥え、ルイ14世は扇子で優雅に顔を仰いでいる)


あすか:(クロノスを操作し、背後の画面に質問を表示する)「第1ラウンドのテーマは『権力の正統性』。これはすべての政治体制の根幹をなす問いです」


(ゆっくりと4人を見回す)


あすか:「民主主義は『国民の同意』を、絶対王政は『神の意志』を、全体主義は『歴史の必然』を、そして現実政治は『実力』を——それぞれ正統性の源泉としています」


(クロノスをタップし、画面に4つのキーワードが浮かぶ)

・民衆の同意

・神の意志

・歴史の必然

・実力


あすか:「では、まず民主主義の代表から。チャーチルさん、民主主義において権力の源泉は何ですか?そしてなぜそれが正統なのでしょう?」


チャーチル:(葉巻を指で弾き、立ち上がる。演説家の本能が目覚めたかのように)「決まっている——国民だ!」


(ウイスキーグラスを掲げ、情熱的に語り始める)


チャーチル:「我々は国民の同意によってのみ統治する。選挙で選ばれ、選挙で引きずり降ろされる。これこそが権力の唯一の、そして真の正統性だ。なぜか?それは——」


(一拍置き、全員を見渡す)


チャーチル:「人間は生まれながらにして自由だからだ。誰かに支配される権利など、誰も持っていない。だから我々は、自ら選んだ代表に、期限付きで権力を委ねる。それが社会契約というものだ」


ルイ14世:(扇子で口元を隠して笑う。その笑いは明らかに嘲笑だ)「まあ、なんと美しい理想論。まるで詩人のようですね」


チャーチル:(ルイ14世を睨む)「詩ではない、現実だ。我々は二度の世界大戦を戦い、民主主義を守り抜いた」


ルイ14世:(扇子を閉じ、挑発的に)「民衆?あの無知蒙昧な群衆が、国家の舵取りを決める?滑稽ですね。農民は畑を耕すことしか知らず、商人は金勘定しかできない。そんな者たちに、どうして国家の運命を委ねられるのです?」


チャーチル:(顔を赤くして)「無知蒙昧だと!?その『無知蒙昧な群衆』が、陛下の子孫の首をギロチンで落としたのではなかったかな!?」


(スタジオに緊張が走る。ルイ14世の表情が一瞬凍りつく)


ルイ14世:(声を震わせて)「それは...それは革命という病が生んだ悲劇です!暴徒の狂気であって、民主主義などという体裁の良いものではありません!」


チャーチル:(畳みかけるように)「暴徒?彼らは自由を求めただけだ。何百年も貴族に搾取され、戦争の駒にされ、税を絞り取られた末に——」


ビスマルク:(大きな声で割って込む)「二人とも、子供じみた喧嘩はやめろ」


(チャーチルとルイ14世が同時にビスマルクを見る)


ビスマルク:(ビールを一口飲み)「陛下、続けたまえ。貴公の言う『神の意志』とやらを聞こう」


ルイ14世:(深呼吸をし、威厳を取り戻す。立ち上がり、演劇的に腕を広げる)「権力は神から授かるもの。これは自然の摂理であり、宇宙の秩序そのものです」


(ゆっくりと歩きながら、まるで宮廷で演説しているかのように)


ルイ14世:「太陽が天空を統べるように、王は地上を統べる。これは神が定めた秩序。王は神の代理人として、この世界に調和をもたらす。民衆の気まぐれではなく、神の永遠の意志に基づいて」


スターリン:(初めて口を開く。その声は氷のように冷たい)「神?そんなものは存在しない」


(全員がスターリンを見る。ルイ14世は明らかに動揺している)


ルイ14世:(扇子を震わせて)「何を...神を冒涜するのですか!?」


スターリン:「冒涜?存在しないものは冒涜できない。宗教は民衆を支配するための道具だ。貴公の『神の意志』も、王権を正当化するための詭弁に過ぎん」


ルイ14世:(激昂して)「詭弁ですと!?朕は幼少より神に仕え、神の教えに従い——」


ビスマルク:(冷たく笑う)「神に従った?では陛下、神はなぜプロイセン軍にフランスを連戦連敗させたのかね?神はフランスを見捨てたのか?」


ルイ14世:(言葉に詰まる。顔が紅潮する)「それは...それは時代が変わったからです!軍事技術が進歩し、戦術が——」


ビスマルク:「つまり神ではなく、鉄と火薬が勝負を決めたわけだ。神の意志などどこにもない」


ルイ14世:(必死に)「ですが、原理は変わらない!権力には威厳と正統性が必要なのです。民衆の気まぐれに委ねるなど——朝令暮改、一貫性のない政治になる!」


チャーチル:(座ったまま、葉巻を咥えて)「一貫性?陛下の治世は確かに長かった。72年だったかな。だがその『一貫性』で、フランスの財政は破綻寸前だった。農民は餓え、戦争に次ぐ戦争で国土は疲弊した」


ルイ14世:(怒りで声を荒げる)「しかし文化は栄えました!ヴェルサイユは世界の驚異となり、フランス語はヨーロッパの共通語となった!芸術、建築、音楽——すべてが黄金期を迎えたのです!」


ビスマルク:(冷酷に)「その黄金期は、農民から搾り取った税で築いた虚飾だ。実態は空っぽだった。だから陛下の死後、すぐに王朝は崩壊した」


ルイ14世:(座り込み、扇子で顔を覆う)「...後世の不始末を朕のせいにしないでいただきたい」


あすか:(冷静に割って入る)「では、スターリンさん。あなたの考える権力の正統性とは?」


スターリン:(パイプから煙を吐き出し、じっとあすかを見る)「歴史の必然性だ」


(立ち上がり、低い声で語り始める。その声には有無を言わせぬ力がある)


スターリン:「権力の正統性など、支配階級が作り出した幻想に過ぎん。神も民衆も、すべては階級闘争の道具だ。真の正統性は、歴史の法則から生まれる」


チャーチル:(立ち上がって)「歴史の法則だと!?それはマルクスの空想だろう!」


スターリン:(冷たく見る)「空想?封建制は資本主義に打倒された。そして資本主義は社会主義に打倒される。これは科学的法則だ。万有引力と同じように、避けられない」


ビスマルク:(興味深そうに)「ほう...つまり貴公の権力は、その『法則』に基づいているわけか」


スターリン:「その通りだ。私は歴史の代理人として、労働者階級を解放した。ツァーリの専制を打倒し、資本家の搾取を終わらせた。これは個人の野心ではなく、歴史の要請だ」


チャーチル:(怒りを込めて)「歴史の要請?数百万の人間を粛清して築いた体制が、歴史の要請だと!?」


スターリン:(表情を変えず)「革命には犠牲が伴う。それが理解できないから、貴公の帝国は崩壊したのだ」


チャーチル:(激昂して)「我々の帝国は民主化した!植民地は独立し、自由な国家になった!貴公の帝国は——崩壊した。完全に、無残に崩壊したのだ!」


(スターリンの目がわずかに細まる。初めて感情らしきものが垣間見える)


スターリン:(低く)「一時的な後退だ。歴史は螺旋を描いて進む。資本主義の矛盾は深まり、いずれ——」


ビスマルク:(大きく笑う)「いずれ?貴公のソ連が崩壊してから何年経った?その『いずれ』は永遠に来ないだろう」


スターリン:(ビスマルクを睨む)「貴公のドイツ帝国も、第一次大戦で崩壊した。人のことは言えまい」


ビスマルク:(笑いを止め、真剣な表情で)「その通りだ。だから私はこう言っている——権力の正統性など、事後的な言い訳に過ぎん、とな」


(全員がビスマルクを見る。あすかも興味深そうに身を乗り出す)


あすか:「ビスマルクさん、詳しく聞かせてください」


ビスマルク:(ビールを飲み干し、ジョッキをテーブルに置く)「権力の源泉?そんなものは一つしかない——実力だ」


(前のめりになり、3人を順番に見る)


ビスマルク:「神だろうが民衆だろうが歴史だろうが、力がなければ何も成せん。陛下」


(ルイ14世を指す)


ビスマルク:「貴公の『神の意志』は、強力な軍隊と官僚機構があってこそ機能した。神が戦争に勝ったのではない。軍隊が勝ったのだ」


ルイ14世:(反論しようとするが、ビスマルクは続ける)


ビスマルク:「チャーチル」


(チャーチルを見る)


ビスマルク:「貴公の『国民の同意』も同じだ。イギリスが世界最強の海軍を持っていたから、民主主義を維持できた。もし弱小国だったら?すぐに他国に侵略され、民主主義など吹き飛んでいただろう」


チャーチル:(苦々しく)「力だけが全てではない——」


ビスマルク:「そしてスターリン」


(スターリンを見る)


ビスマルク:「貴公の『歴史の必然』も、赤軍という暴力装置があってこそだ。思想だけで革命が成功したと思っているなら、それこそ空想だ」


スターリン:(冷たく)「力を否定していない。だが、その力を正当化するものが必要だ」


ビスマルク:(立ち上がり、声を大にして)「それが欺瞞だと言っているのだ!政治家は正直であるべきだ。我々は力を行使する。それを正当化するために、神だの民意だの歴史だのと、後付けで理屈をこねる」


(テーブルを拳で叩く)


ビスマルク:「私は少なくとも正直だ。政治は力の行使だ。問題は、その力をどう使うか、どう制御するか、だ。正統性など——勝者が後から語る物語に過ぎん!」


ルイ14世:(憤然として)「おお、なんと野蛮な...これだから成り上がりはいけません」


ビスマルク:(ルイ14世を睨む)「成り上がり?陛下の豪華な宮殿は、農民から搾り取った税で建てたものではないのかね?私は少なくとも、自分の手でドイツを統一した。陛下は王の家系に生まれただけだ」


ルイ14世:(立ち上がり、怒りで震える)「生まれただけ!?朕は幼少から帝王学を学び、毎日を国家のために捧げたのです!起床から就寝まで、すべてが国家の儀式!貴公のような粗野な男に、何がわかるというのです!?」


ビスマルク:(冷たく笑う)「儀式?それは統治ではなく、演劇だ。貴公の曾孫は、その『演劇』をナポレオンに奪われた。ナポレオンは成り上がりだったが、陛下の子孫より強かった。それがすべてだ」


ルイ14世:(言葉に詰まり、座り込む)


チャーチル:(ビスマルクに向かって)「だからこそ民主主義が必要なのだ!武力ではなく、投票で権力を移譲する。これこそが——」


ビスマルク:(遮るように)「で、その投票とやらで、貴公は1945年に政権を失った。戦争に勝利した英雄が、民衆に捨てられた。素晴らしい制度だな」


チャーチル:(言葉に詰まる。しかしすぐに言い返す)「...それこそが民主主義の美徳だ。権力は永遠ではない。独裁者のように、死ぬまで権力にしがみつかなくて済む」


スターリン:(冷笑する)「美徳?単に無能な指導者を排除する仕組みに過ぎん。だが同時に、有能な指導者も排除する。非効率的だ」


チャーチル:(スターリンに向かって)「非効率的?貴公の『効率的』な体制は、何百万を強制収容所に送った!ウクライナの飢饉で何百万が餓死した!それが効率か!?」


スターリン:(表情を変えず)「必要な犠牲だった。工業化には資源が要る。農業の集団化は避けられなかった」


チャーチル:(憤慨して)「必要な犠牲だと!?人間を数字としか見ていない!」


スターリン:(冷たく)「貴公のインド統治で、何人が餓死した?ベンガル飢饉を忘れたか?」


(チャーチルが黙り込む。スタジオに重い沈黙が流れる)


ビスマルク:(その沈黙を破って)「ほら見ろ。どの体制も血まみれだ。神の名においても、民衆の名においても、歴史の名においても——結局、人は死ぬ」


ルイ14世:(小さな声で)「では...どうすれば良いと?」


ビスマルク:「正直になることだ。我々は完璧ではない。過ちを犯す。だが、結果を出さねばならない。それが政治家の責務だ」


あすか:(立ち上がり、手を上げる)「皆さん、少し整理させてください」


(クロノスを操作し、画面に図を表示する)


あすか:「興味深い対立ですね。まとめると——」


(画面に4つの立場が図示される)


チャーチル:権力の源泉は国民の同意。選挙による正統性

ルイ14世:権力の源泉は神の意志。血統による正統性

スターリン:権力の源泉は歴史の必然。革命による正統性

ビスマルク:権力の源泉は実力。結果による正統性


あすか:「4人とも、自分の体制の正統性を主張していますが——」


(4人を見回す)


あすか:「実は皆さん、同じ問題に直面していますよね」


チャーチル:(眉をひそめる)「どういう意味だ?」


あすか:「権力の正統性は、結局のところ——維持できるかどうかで判断される、ということです」


(画面に各人物の統治の終焉を表示する)


チャーチル:選挙で敗北

ルイ14世:死後にフランス革命

スターリン:死後に批判、ソ連崩壊

ビスマルク:解任後に帝国崩壊


あすか:「もし明日、あなたたちの体制が崩壊したら——それは正統性がなかったことの証明になりますか?」


ルイ14世:(即座に)「朕の治世は72年続きました。それが答えです。後世の愚行は朕の責任ではありません」


チャーチル:「私は選挙で負けたが、民主主義は続いている。個人ではなく制度が重要なのだ」


スターリン:(しばらく沈黙し、低く)「ソビエトは一時的に後退した。だが歴史の車輪は必ず前進する。中国を見ろ。社会主義は生きている」


ビスマルク:(肩をすくめて)「崩壊したなら、それは弱かったということだ。正統性など、勝者が後から語る美しい物語に過ぎん。歴史は結果だけを記録する」


あすか:(微笑んで)「つまり、4人とも——自分の体制だけは例外だと言いたいわけですね」


(4人が黙る。図星を突かれた表情)


あすか:「第1ラウンドの結論です。権力の正統性について——」


(クロノスに文字が浮かぶ)


「完璧な正統性は存在しない。すべての体制は、時代と状況に応じて正統性を主張する」


あすか:「民主主義は多数の支持を得ても、少数を抑圧することがある。絶対王政は秩序を保っても、民衆の声を無視する。全体主義は平等を掲げても、自由を奪う。現実政治は結果を出しても、手段を正当化できない」


チャーチル:(不満そうに)「だが民主主義には自己修正能力がある——」


あすか:(優しく遮る)「それは次のラウンドで議論しましょう。今は一つだけ、最後の質問を」


(4人を見渡す)


あすか:「もし、あなたたちが権力を奪われたとき——それでも自分の体制は正統だったと言えますか?」


ルイ14世:(誇り高く)「朕の治世は正統でした。時代が朕を理解できなかっただけです」


ビスマルク:「正統性など気にしない。私はやるべきことをやった。それで十分だ」


スターリン:「権力を奪われても、理念は残る。それが正統性だ」


チャーチル:(深く息を吐き)「民主主義では、権力を失うことも制度の一部だ。だからこそ正統なのだ」


あすか:(満足そうに微笑む)「4人とも、決して譲らない。それぞれの信念が、これほど強固だとは」


(立ち上がり、次のラウンドを宣言する)


あすか:「さて、権力がどこから生まれるかを議論しました。では次は——その権力で、何を守り、何を犠牲にするのか?第2ラウンドのテーマは『自由と秩序のジレンマ』です」


(4人の表情が変わる。特にチャーチルとスターリンの目に火がともる)


あすか:「この二つは両立できるのか?それとも、どちらかを選ばなければならないのか?休憩を挟んで、さらに深い議論に入りましょう」


(オーケストラが盛り上がり、画面が「休憩」の文字へと切り替わる)


—第2ラウンド「自由と秩序のジレンマ」へ続く—

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