オープニング
(壮大なオーケストラが響き渡る。画面には古代ギリシャの民会、ローマ元老院、ヴェルサイユ宮殿の豪華な謁見の間、ソビエト連邦の赤の広場——人類が築いてきた政治の舞台が次々と映し出される。民衆の歓声、革命の雄叫び、王の戴冠式、独裁者の演説。そのすべてが混ざり合い、やがて一つの問いへと収束していく)
ナレーション(あすか・VO):「人類は常に問い続けてきました。理想の政治とは何か?自由か、秩序か。民衆か、英雄か。血か、投票か。数千年の歴史の中で、無数の体制が生まれ、そして消えていきました。だが、答えはまだ見つかっていません」
(画面が暗転し、静寂が訪れる。そして——)
ナレーション(あすか・VO):「今宵、時空を超えた4人の巨人が、この永遠の問いに挑みます」
(スタジオに照明が灯る。重厚な石造りの壁、磨かれた黒檀のコの字型テーブル、そして中央に立つ一人の女性——司会者あすか)
あすか:(深紅のジャケットスーツに身を包み、金の刺繍が照明を受けて輝いている。手には古代の書物を模した不思議なタブレット「クロノス」。カメラに向かって穏やかに微笑む)「皆さん、こんばんは。『歴史バトルロワイヤル』へようこそ。私は司会のあすか——物語の声を聞く案内人です」
(クロノスを軽く掲げる。タブレットの表面に無数の文字が流れ、歴史の記録が渦を巻くように浮かび上がる)
あすか:「このクロノスには、人類が歩んできたすべての物語が刻まれています。栄光も、悲劇も、理想も、現実も。そして今夜——この中から4人の巨人を呼び出しました」
(ゆっくりとテーブルの周りを歩きながら)
あすか:「今夜のテーマは、『理想の政治』。シンプルな問いですが——これほど人類を悩ませてきた問いもありません。何が正しいのか?誰が決めるのか?どうすれば皆が幸せになれるのか?」
(立ち止まり、カメラを見つめる。その瞳には確かな意志が宿っている)
あすか:「民主主義は自由を謳いますが、衆愚政治に陥る危険があります。独裁は効率的ですが、暴走すれば地獄を生みます。権威主義は安定をもたらしますが、変化に弱い。絶対王政は秩序を保ちますが、時代に取り残される」
(クロノスをスワイプすると、背後の大画面に4つのキーワードが浮かび上がる)
・正統性—権力はどこから生まれるのか?
・自由と秩序—何を優先すべきか?
・指導者—誰が舵を取るべきか?
・結果—何をもって成功とするのか?
あすか:「この4つの問い。簡単に答えられる人は、おそらくいないでしょう。だからこそ——歴史上最も大胆に、最も徹底的に、それぞれの答えを実行した4人をお招きしました」
(スタジオの奥、青白く光るスターゲートがゆっくりと起動し始める。低い振動音が響く)
あすか:「民主主義、権威主義、全体主義、そして絶対王政。4つの体制を体現した4人の巨人。彼らは激しく対立するでしょう。互いを批判し、論破しようとするでしょう。でも——」
(微笑む。その笑みには期待と、少しのいたずら心が混じっている)
あすか:「もしかしたら、対話の中で新しい何かが生まれるかもしれません。さあ、時空を超えた議論を——始めましょう!」
(スターゲートが完全に起動し、眩い光を放つ。オーケストラの音が高まり、エルガーの「威風堂々」が流れ始める)
あすか:「まず最初のゲスト。第二次世界大戦で、ナチス・ドイツの脅威からイギリスを守り抜いた鉄の意志の持ち主。ノーベル文学賞を受賞した雄弁家であり、『民主主義は最悪の政治形態だ——ただし他のすべてを除いては』という痛烈な皮肉で民主主義を擁護した政治家」
(スターゲートから、葉巻を咥え、ウイスキーグラスを片手にした、がっしりした体格の老紳士が現れる。その表情には自信と、どこか茶目っ気が混在している)
あすか:「ウィンストン・チャーチル!」
(拍手が響く。チャーチルは満足げに笑い、堂々とした足取りで自分の席へ向かう)
チャーチル:(席に着きながら、葉巻から煙を吐き出し)「諸君、良い夜だ。良き酒と良き議論——これほど素晴らしいものはない。私はこの両方を愛している。今夜は大いに楽しもうじゃないか」
(ウイスキーを一口飲み、満足そうにグラスを見つめる)
チャーチル:「それにしても、私以外の顔ぶれが気になるな。どんな連中と議論することになるのやら」
あすか:(微笑んで)「すぐにわかりますよ、チャーチルさん。次のゲストです」
(BGMがワーグナーの重厚な旋律に変わる。スターゲートが再び輝く)
あすか:「続いては、『政治は可能性の芸術である』と喝破した、ヨーロッパ史上最も冷徹な現実主義者。理想ではなく結果を、演説ではなく行動を重視し、鉄と血でドイツ統一を成し遂げた宰相。そして世界で初めて社会保険制度を創設した、先見の明を持つ政治家」
(スターゲートから、プロイセン軍服に身を包み、ビールジョッキを手にした巨漢が姿を現す。その鋭い眼光は、すべてを見通すかのようだ)
あすか:「オットー・フォン・ビスマルク!」
ビスマルク:(重厚な足取りで席に着き、腕組みをする。チャーチルをちらりと見て)「ほう、イギリスの演説屋か。口だけは達者だと聞いている」
チャーチル:(眉を上げて)「おやおや、ドイツの武骨者がお出ましだ。文明というものをご存知かね?」
ビスマルク:(鼻で笑う)「文明?貴公の国が世界中を植民地にしていた時代の文明のことか?随分と都合の良い文明だな」
チャーチル:(むっとするが、すぐに笑みを浮かべる)「ふむ...少なくとも君よりは機知がある」
あすか:(二人の間に割って入るように)「お二人とも、議論はまだ始まっていませんよ。もう少しお待ちください」
ビスマルク:(ビールを飲みながら)「フン。どうせまた空論の応酬だろう。だが、愚者の戯言も聞いてやらんでもない。退屈しのぎにはなる」
(突如、BGMが不穏なソビエト国歌のアレンジに変わる。空気が張り詰める)
あすか:(声のトーンを落として)「3人目は——農業国だったロシアを、わずか数十年で核保有国へと変貌させた男。第二次世界大戦でナチスを撃破し、東欧に社会主義圏を築き上げた指導者。計画経済と鉄の規律で国家を統治し、『鋼鉄の人』と呼ばれた——」
(スターゲートから、軍服に身を包み、パイプを咥えた無表情の男が現れる。その目には感情が見えない。ただ冷たい意志だけがある)
あすか:「ヨシフ・スターリン!」
(場の空気が一瞬凍りつく。チャーチルの表情が険しくなる。ビスマルクは興味深そうに目を細める)
スターリン:(無言で席に着き、パイプに火をつける。煙が立ち上る。全員を一瞥し、短く)「始めたまえ」
チャーチル:(声を低くして)「...ヨシフ。久しぶりだな」
スターリン:(チャーチルを見て、わずかに口角を上げる)「ウィンストン。相変わらず酒臭いな」
チャーチル:「貴君も相変わらず血の匂いがする」
(二人の間に火花が散る。ビスマルクは面白そうに二人を見ている)
ビスマルク:「ほう...知り合いか。これは面白くなりそうだ」
あすか:(冷静に)「お二人は第二次世界大戦で協力関係にありましたね。でも今夜は——イデオロギーの戦いです」
スターリン:(あすかを見て)「イデオロギー?違う。これは歴史の必然性の問題だ」
(BGMが優雅なバロック音楽、リュリの舞曲に変わる。スターゲートが金色に輝く)
あすか:(華やかな声で)「そして最後のゲストは——『朕は国家なり』。この一言で絶対王政の本質を表した、史上最も長く君臨した君主の一人。72年間フランスを統治し、ヴェルサイユ宮殿という比類なき芸術と権力の象徴を築き上げた——」
(スターゲートから、金糸銀糸で装飾された豪華な衣装に身を包み、扇子を手にした優雅な姿が現れる。その立ち居振る舞いは完璧に計算されている)
あすか:「ルイ14世!」
ルイ14世:(ゆっくりと、まるで舞台を歩くように席へ向かう。座る前に周囲を見回し、扇子を軽やかに開いて口元を隠す)「これはまた...随分と粗野な顔ぶれですことよ」
ビスマルク:(ビールを飲み干して)「粗野?貴族の道楽者に言われたくないな」
ルイ14世:(扇子の奥から冷たい視線)「道楽?朕は国家を統治したのです。貴公のような成り上がりとは格が違いますな」
チャーチル:(笑いながら)「成り上がりか。では陛下、貴族の血を引く私なら認めていただけるかな?」
ルイ14世:(チャーチルを上から下まで見て)「...英国紳士と呼ぶには、少々品がお悪いようですが」
チャーチル:(むっとして)「ほう。では陛下の『品』とやらで、なぜ王朝はギロチンで終わったのかね?」
ルイ14世:(顔色を変えて、扇子を強く握る)「それは...朕の死後、無能な子孫たちが道を誤ったからです!朕の治世は完璧でした!」
スターリン:(初めて感情らしきものを見せ、冷笑する)「完璧?農民を搾取し、贅沢三昧の生活をしていただけだろう。典型的な封建支配者だ」
ルイ14世:(スターリンを見て、明らかに不快そうに)「貴公は...何者です?軍人?」
スターリン:「労働者の代表だ」
ルイ14世:(鼻で笑う)「労働者?使用人が議論の席に?やれやれ、時代も落ちたものですな」
(スターリンの表情が一瞬、恐ろしく冷たくなる。ビスマルクが面白そうに笑う)
ビスマルク:「陛下、その労働者は貴公のような王を何人も処刑してきたのだぞ。気をつけたまえ」
あすか:(手を叩いて注意を引く)「皆さん、まだ対談は始まっていません。自己紹介代わりの小競り合いは、この辺りで」
(クロノスをタップし、画面にテーマを表示する)
あすか:「改めまして。今夜のテーマは『理想の政治』。早速ですが、皆さんに最初の質問をさせていただきます」
(4人がそれぞれの姿勢であすかを見る。チャーチルは葉巻を咥え、ビスマルクは腕組み、スターリンは無表情、ルイ14世は扇子で顔を半分隠している)
あすか:「『理想の政治』と聞いて——皆さんはまず、何を思い浮かべますか?一言で結構です。チャーチルさんから、お願いします」
チャーチル:(即座に、力強く)「自由だ」
(ウイスキーグラスを掲げる)
チャーチル:「言論の自由、信仰の自由、恐怖からの自由。これがなければ、人間は家畜に成り下がる。政治の目的は、この自由を守ることだ」
あすか:「ありがとうございます。では、ビスマルクさん」
ビスマルク:(冷たく)「機能すること」
(ビールジョッキをテーブルに置き、前のめりになる)
ビスマルク:「理想など腹の足しにならん。国民が食え、安全が保たれ、国が栄える——それが達成できれば良い。自由だの平等だの、きれいごとはその後だ」
チャーチル:(反論しようとするが、あすかが制止する)
あすか:「スターリンさん、いかがですか?」
スターリン:(パイプから煙を吐き出し、静かに)「平等」
(チャーチルを見る)
スターリン:「搾取のない社会。資本家が労働者を抑圧しない世界。労働者が真の主人となる——それが理想の政治だ」
あすか:「最後に、ルイ14世」
ルイ14世:(扇子を優雅に動かし)「秩序と美」
(立ち上がり、演劇的に腕を広げる)
ルイ14世:「優雅な調和の中で、すべてが定められた場所にある状態。王が中心にあり、貴族、聖職者、平民——それぞれが己の役割を果たす。太陽系のように完璧に調和した社会。それこそが理想です」
(座り直し、満足げに微笑む)
あすか:(クロノスを見つめ、それから4人を見回す)「自由、機能、平等、秩序——4人4様の答え。どれ一つとして同じものはありません」
(微笑む。その笑みには確信がある)
あすか:「さあ、ここから——本当の議論が始まります。第1ラウンドのテーマは、『権力の正統性』。権力はどこから生まれるべきか?民衆か、神か、歴史か、それとも実力か?」
(4人の表情が変わる。チャーチルは戦闘的に、ビスマルクは冷静に、スターリンは無表情に、ルイ14世は挑戦的に)
あすか:「では——バトル、スタートです!」
(オーケストラが最高潮に達し、画面が第1ラウンドのタイトルへと切り替わる)