田沼薫、鶴牧蘭になる(桂の視点)
2024/11/23(土)AM8:50
今日は本番前日のリハーサルの日。俺と瑠実は朝食を食べ、氷の里ホールに向かった。少し遅れてあびる、蒼絵、明未が一緒に来た。
「おはよ~お2人さん、朝っぱらからラブラブだね~♪」とあびるが茶化すと蒼絵が「茶化すな、姉貴」と宥めた。明未は苦笑いしていた…。
少し遅れてざくろと初が来て、「よくも瑠実お姉様を穢してくれましたわね!」と怒りを露わにする初に瑠実が「やめい、お互い合意の下でヤッたんや!」と言い合ってるとざくろが「2人共一旦落ち着くのだ、もうすぐ諸悪の根源共が来るぞ!」と言ってから数秒後、『諸悪の根源』こと鮫妻一家が来た…。
「ようおめーら!、来てやったぞ。ヅラ男、今回も当然おめえの奢りな!」と国太君が開口一番にそう
言うと智枝ちゃんが「とーぜんだよおとーさん、ヅラ男如きがおとーさんと割り勘なんて100年早えーよ!。さあ、行くぞ皆!」と言うと晃子さんが「ふふふ」と笑いながら館内に入って行った。
そしてリハーサル。智枝ちゃんのカラオケもどきに、俺達は必要以上に熱を込めずに淡々とこなした。そして演奏終了後、智枝ちゃんが。
「どう、おとーさん?」と国太君に聞くと「良いじゃねえか!、歌も日に日に上手くなってるし。おめーら、明日は智枝の晴れ舞台だからしっかりやれよ。特にヅラ男!」と言うとすぐさま晃子さんも「ビデオにもしっかり撮って置くからね」と言ってすぐさま、智枝ちゃんが何を思ってか?。
「そうだ、明日おめーにも歌わせてやるよ、1番だけな。後『私いつか、関東ドームでライブ出来るように、絶対なります』と言え!」と意味不明な事を言い出した。
「何でそんな事言わなきゃいけないの?」と明未が戸惑いながら聞くと、智枝ちゃんは「うるせえ、いからあだしのゆーとーりにしろ!」と怒鳴り返し、更にこう続ける。
「それよりお腹空いたから早く帰ろ~よ~!」と言う智枝ちゃんに、国太君は「そうだな、俺達は帰るぞ!。母さん、昼飯の準備しろ」と言うと晃子さんも「はいはい」と言いながら帰ろうとする3人に俺は意を決してこう言った。
「その前に大事な話があるんだけど…。」と俺が言うと国太君が「ああ?。何だ、大事な話って」と言うと智枝ちゃんも「んだぞおめえこのヅラ男!、つーがあだし腹減ってんだから早く言え!」と急かし立てた。俺は一呼吸置いて、こう切り出す。
「智枝ちゃんに協力するのは、明日の学芸会迄にさせて貰うから、勿論智加ちゃんも…。」と言うと智枝ちゃんが速攻で「は?、何でだよ、ふざけんな!。つーがあだしの為にこれからも曲作り続けろ!」と当然の権利を主張するように怒鳴って来た。数秒後、国太君がこう切り出す。
「ならそれでも良いぜ。但し、智加がどうなっても良いのか?」と明未を盾にして脅して来ると。
「それはウチと桂兄には関係あれへん事やわ!」と瑠実が毅然としてそう言い放った。
「『ウチと桂兄』って、どういう事だヅラ男?、説明しろ!」と国太君の問いに、俺は。
「俺、瑠実と結婚するから。」と言って、俺が今月から正社員になって、今以上に音楽活動との両立が難しくなる事、そこに瑠実と一緒に家庭を築くとなると、もう音楽活動どころではなくなる事も正直に話した。国太君が苛立ちながら。
「智加!、おめえからもヅラ男に曲作り続けるように言え!」と明未に怒鳴りつけると、明未が一呼吸置いて。
「ごめんなさい。わたし、これ以上桂お兄ちゃん達に無理させられない…。」と勇気を出してそう切り出すと国太君がみるみる怒り出して「こんんの役立たず野郎ー!」と言いながら殴ろうとしたその時。
「待ったおとーさん!。こいつも一応明日ライブに出るから、お仕置きはその後にしよ?。顔や体に痣出来たら色々めんどくさい事になるし…。」と、まさかの智枝ちゃんが止めに入った。国太君が少し間を置いて。
「明日家に帰る迄ヅラ男を説得しとけ!、そうすればお仕置きは無しにしてやる。だがもし出来なかったら、今迄で一番キツイお仕置きすっからな!、帰っぞ2人共!」と言って鮫妻一家は帰って行った。重苦しい雰囲気の中、明未がこう切り出す。
「皆、わたしの事は気にしなくて良いから。桂お兄ちゃんは瑠実お姉ちゃんと幸せになって。結婚式には誘わなくても良いから。わたしだけ誘うとあの2人が大激怒するから…。さあ、今度はわたしのリハーサルだね、1番迄だけど…。」と力無くそう言った。
俺が一呼吸置いて「こっちこそごめんな明未。けど俺達ももう手一杯なんだ、これ以上は…。」と謝罪すると瑠実も続けて「さっきはあんな言い方してごめんな。けどウチらにはもう、どうする事も出けへん…。」と謝罪すると明未が「その気持ちだけで充分だよ…。」と明らかに無理して笑顔でいる中、明未のリハーサルを行なった…。
リハーサル終了後、俺は瑠実と帰宅し、夕飯を食べ、お風呂から上がると、こう切り出す。
「瑠実、今日は生でヤッても良いか?」と聞くと瑠実が驚いて「何言うてんねん!。高校卒業迄は『避妊する』言うたやろ?」との問いに俺は「避妊するよ、これで」と言いながらピルを出した。
「これ1万円以上するピルで、事後12時間以内に飲めば避妊率100%なんだって、ネットでも星4.5だから絶対大丈夫だよ、副作用も少ないらしいし。ね、何事も経験だと思って1回だけお願い!」と俺が懇願すると、あまりの真剣さに根負けして瑠実が「今回だけやで…。」と了承してくれて、ピル飲んでるから大丈夫だと思い、その日の夜は、結局2回もヤッた…。
2024/11/24(日) 学芸会当日
午後2時過ぎ、明未と智枝ちゃんのクラスの催しの合唱が終わり、「以上で6年2組による、合唱を終わります。次は有志によるバンド演奏となります」とアナウンスが流れ、弾幕が降りた。急いで演奏の準備をしている俺達に智枝ちゃんは「やあ諸君、今日はあだしの初ライブだから失敗すんなよ。特にヅラ男!」と上機嫌にそう言った。数分後、再び弾幕が上がり、智枝ちゃんの自己満カラオケ大会…、失礼w。ライブが始まった。
自分に酔いながら気持ち良さそうに歌う智枝ちゃんをよそに、俺は「やってられっか…。」と想っていた。他のメンバーをそれと無く見るに「やってられっか」オーラを発していた、恐らく俺と同じ気持ちだろう…。
智枝ちゃんの演目終了後、「有り難う御座いました。それじゃあ皆、最後はあだしの姉の智加の曲を、短いですが聴いてあげて下さい」と言って明未に登場を促してステージを後にした、本当に短いけどな…。
智加のライブを観て(智枝の視点)
あだしは大急ぎでおとーさん達の所に戻ると、おかーさんが「智枝、バッチリビデオに録画しといたわよ」と言うとすぐさまおとーさんが「智加の野郎、もし智枝が温めた場を盛り下げたらお仕置きだ!」と言い出した。
「皆さんこんにちわ、鮫妻智加です」と自己紹介すると、男子達が「はいどーも!」「おえっ!」「へぶー!」とヤジを飛ばした。あだしが前もってそう言うように指示しといた。そんな中、智加の歌が始まった。よく見ると、皆あだしの時より楽しそうに演奏してやがる!
「あいつら、あだしん時より楽しそうに演奏しやがって~!」と怒りを露わにするとおとーさんが「全くだ、智枝のバックで演奏出来る事ほど光栄な事も無いのに…。」
ライブは続き、智加が下手糞ながらも一生懸命歌ってると、視線が合った男子に精一杯の笑顔を送りやがった。
「何か智加、一生懸命歌っててカッコイイな~!」
「それに智加って、あんな可愛いかったんだ…。」
「智加ー、頑張れ~!」
(何智加なんかの笑顔にコロッとやられてんだよ!、これだから男子は…。)と想うのと同時に、会場全体の歓声も、あだしの時より明らかに盛り上がってた。嫉妬の炎があだしの中から燃え上がってる時、おかーさんがここに来る前、スーパーで生卵を買った事を思い出し、丁度今持ってるのを見て妙案を想い付いた。
「おかーさん、生卵今持ってるよね?、1個貸して」と聞くと「生卵なんかどうするの?」とのおかーさんの問いに、「こーするんだよ!」と言いながら智加目掛けて思いっ切り投げ付けてやった。
地元のソフトボール大会の時に練習したあだしの魔球で放った生卵が(グシャッ!)と気持ち悪い音を立てながら智加の額の左上部に命中し、そこから更に血が流れた。流石あだし、我ながらナイスコントロール!
さあ泣け、ステージ上で「あびるお姉ちゃ~ん!」って言いながら泣きついて甘えろ!。とのあだしの期待に反し、途中で投げ出す事無くやり遂げやがった、面白くねえ…。まあ良い、まだあの台詞が残ってるしよ~。
「1番迄ですが聴いて下さり、本当に有り難う御座います。それから、物を投げつけるのは、危ないのでやめて下さい。最後に…。」と言い、深呼吸し出した。よし、言え。あの台詞を!
「わ、わたし、いつか関東ドームでライブ出来るように、絶対なります!」
さっき迄の応援が嘘のように、その場の9割が大爆笑し出した。ウケる!
「何言ってんだあいつ、ばっかじゃねえの?。無理に決まってる!」と言い出す男子達にあだしもすかさず「へへへ。智加の奴、本当に言いやがった、マジウケる!」と同調してやった。そしておとーさんが「我が家の恥晒しめ、帰ったらお仕置き確定だな…。」と言った、マジで楽しみだ。智加の奴、どんな風に絶望すっかな~♪
ライブ終了後(桂の視点)
「偉いよめいみん!。よく最後までやり切ったよ、あんな過酷な状況で…。」とあびるが早速タオルで明未の生卵まみれの傷を拭いて、傷の手当てをしてる中、「1番迄だったのが、逆に功を奏したかもな…。」と俺が言うと、明未が緊張の糸が切れたのか?
「うわあああん、あびるお姉ちゃ~ん!」と泣きながらあびるの胸で甘えた。
「よしよし、本当に頑張ったよめいみんも、皆も…。」とあびるが明未の頭を優しく撫でた。
「ホンマに酷い事するな~、あのチョンマゲ女」
「瑠実お姉様の言う通りですわ!」
「あの額に我が魔剣、ナイハザードを突き刺してやりたいわ」
「ごめんなメミー、庇ってやれなくて…。」
皆それぞれの想いを明未に伝えた後、俺が「皆、帰り支度しよっか…。」と言うと。
(コンコン)
と控室のドアの外からノックが聞こえて来た。俺が「はい」と答えるとドアゆっくりとが開き、恐る恐る現れたのは、何と中学生位の胸の大きなボブカットの可愛らしい少女だった、Dカップ位だろうか?
「あの~、すみません。私、皆さんのライブを観て感動しました。出来れば私もメンバーに入れて頂きたいのですが…。」と少女は俺達に懇願し出した。
数秒間の沈黙の後、俺は「だってよ。どうする?、Berryenの皆さん」と蒼絵達にそう聞くと何故かあびるが。
「これからあーしん家で打ち上げやるから、そこで今のあーしらの現状を話すから、それ聞いてから君の話を聞かせてよ?」と言うと少女が「いいんですか?、有り難う御座います!。私は『田沼薫』と申します。坂沼中1年です」と頭を下げてそう言うと、あびるが「あーしの車で、これからあーしん家に行くから、そこのカチューシャ女と一緒に乗って、めいみんも」と言うと明未が。
「ごめん皆。わたし、クラスの後片付けやんなきゃいけないから。打ち上げに参加するの1時間以上遅れるかも…。だからわたしを待たずに食べてても良いよ皆!」と言うるとあびるが残念そうに。
「…了解。腕に寄りを掛けて料理作って待ってるから!」と言い、俺も「明未が来たらすぐ始められるようにしとくから」と言い、蒼絵も続けて「もし酷い目に遭わされたらすぐ逃げて来いよ?、アタシらが助けてやるから!」と言うとすぐさま、あびるの車に初と薫ちゃんを乗せて、俺の車に蒼絵、瑠実、ざくろをそれぞれ載せてあびる宅へと向かった…。
「ただいまお母さん、あーしらの他にこの子も打ち上げに混ぜても良い?」とあびるが言うと、薫ちゃんが「初めまして、田沼 薫と申します。皆さんのライブを観てファンになった事を伝えたら、私も打ち上げに混ぜて下さるそうで…。」と言うと蒼乃さんが。
「あらまあ!、随分と可愛いお客様じゃない?、どうぞ上がって。そう言えば明未ちゃんは?」と聞くとあびるが「クラスの後片付けで1時間以上遅れるんだって」と言うと蒼乃さんが「それじゃ仕方無いわね…。」と親子揃って残念そうだった…。
台所にて、蒼乃さんと薫ちゃんを含めた全員で打ち上げの準備を行ない、ご馳走も一通り並んで、主役不在の乾杯をした後、薫ちゃんがこう切り出す。
「改めて自己紹介します。ボク、田沼 薫っす、坂沼中1年っす。ボクの事は呼び捨てで良いっすよ?」と言うと蒼絵が「何だお前、自分の事を『ボク』って言ってんのか?」と聞くとあびるが「ボクッ娘キター!」と発狂しつつ、更に続ける。
「誕生日いつなの?」と食い気味に聞くと薫が「え、言うんすか?、に、2月29日、午前2時29分っす…。」と気まずそうに答えた。
「もしかしてその事でからかわれたりした?、だとしたらゴメンね…。」とあびるが謝りつつ、「ゴメンねついでにもう1つ、薫ちゃんのあだ名ってもしかして(牛ゴリラ)?」と更に質問した。
薫は少し間を置いて「…そうっす。25年以上前に(奇妙奇天烈百科事典)ってアニメがあったらしくて、作中の(牛ゴリラ)ってキャラの本名が(田沼 薫)だからそのあだ名にされたっす…。」と気まずそうに答えると俺が「あったな~昔そんなアニメ、あれも結構長くやってたな~…。」と懐かしんでると蒼絵が「でも何でアタシらなんだ?、バンドなら他にもあるだろうに…。」と聞くと薫が一呼吸置いて…。
「実はボク、色々あって自●しようと思ってたっす。1個上の姉がいるんすけど、姉は何やらせても人並み以上でボクは何やっても人並み以下だから、そのせいでいつもお母さんからぶたれたり怒鳴られたり、お父さんからはいつもシカトされるっす、何でもこなす姉には普通に優しいんすけど…。」と暗い顔をしながら更に続ける。
「だから自分を変えたくて、以前から好きだった音楽を始めようと思ったんすけど、うちの両親、ボクにはお小遣いくれないっす。そんな時になんと無く見た今日のライブで『この人達、優しくて楽器貸してくれそう』と想ったっす。あっ、あの智枝って子は別っす。生卵投げたの、あの子っすよね?」と言うと「やっぱり解る人には解るんだ…。」と俺はそう答えて、そしてこう切り出す。
「そう言えば今の俺達の現状をまだ話してなかったよね、話しても良いかな?。」と言うと薫は「あっ、はい…。」と答えたので、俺達がどうやって出会ったか、何で智枝ちゃんなんかに曲を作ってあげてるか、俺が瑠実と結婚を前提に交際するから、それに伴いドラムの瑠実が抜ける事、同時にめいみんバンドを解散させる事を話した。すると薫が真剣な面持ちで。
「ならボクをBerryenのドラマーにして下さい、お願いします!。一生懸命練習するっす、ドラム貸して下さい、ドラム辞めるんすよね?、ならついでに教えて欲しいっす!」と俺らに懇願し出すと。
「ウチらの生活に支障をきたさない範囲で良ければ、やけどな…。」
「言っとくけどアタシら、本気でプロ目指してっぞ!」
「蒼絵お姉様の言う通りですわ!」
と、Berryenの皆が一斉に薫に質問責めし出すと薫が。
「大丈夫っす、根性ならバスケ部で散々鍛えられたっす!、色んな意味で…。そう言えばあの子の名前って『智加』と『明未』、どっちなんすか?」と聞かれ、薫に事情を説明すると薫は「成る程、そう言う事だったんすね?。だったらボクにも芸名を付けて欲しいっす。前述の理由でこの本名嫌なんすよ」と言うとあびるが少し考えて。
「なら(蘭、らん)ってどう?」と聞くと薫が「何で蘭なんすか?」との問いにあびるが。
「あーしら皆、ベリーに関連のある名前だから。丁度クランベリーが居ないから。あーしと同じ(鶴牧)を苗字にすれば(つるも「くらん」)でクランベリーと繋がるっしょ?」と言うと薫が「凄く良い名前っす、今日から(鶴牧蘭)で宣しくっす!」と田沼薫に『鶴牧蘭』という芸名が付けられた。
「そういう訳なんで、ボクをBerryenのドラマーにして下さい、お願いします!、高校は行かないっす!」と蘭が改めて懇願すると。
「駄目だ!。アタシらは約半年後に高校卒業したら上京するって決めてんだ。そこからまだ2年残ってるだろ義務教育期間が?」と蒼絵が言うと、あびるが。
「だったら2年間地元でお金稼ぎながら力付ければ良くね?、ずらっちだってそうしたんだし。で、晴れて蘭姉ちゃんが中学卒業したら一緒に上京するってのはどう?。それに今からメンバー探してすぐ見つかる保証なんか無いし。ドラマーが最も見つかりにくいっしょ?」と言うと蒼絵が根負けしたのか?。
「…解ったよ。但し、本当にちゃんと練習してくれよ!」と言うと蘭が「有り難うっす!。ボク、一生懸命練習して上手くなるっすー!」と大喜びする蘭にあびるが。
「良かったね、早速メンバーが見つかって。それよりめいみん、国太達から虐待されてないと良いな…。」と言うと俺も「ホントそうだよな…。」と言い、「あびるお姉様の言う通りですわ…。」と初も一緒に不安げな表情を浮かべた…。