桂、婚約する!?(桂の視点)
2024/11/17(日)
午前9:50頃、俺は国太君に作曲の進捗を報告しつつ、明未に会う為にあびると蒼絵、そして蒼絵に話があって来た瑠実、計4人で鮫妻家に来た。インターホンを押すと、明未が出迎えてくれた。
「ようこそ皆!。てか瑠実お姉ちゃんも来てくれたんだ、嬉しいよ。それより体調大丈夫?」
「もう大丈夫や。ウチは蒼絵姉に話があって来たんやけど、皆で明未姉の家に行くと聞いたから、折角やしウチも行ってみたいと思ってな」
「あっ、そうなんだ。ケーキ作ったから、瑠実お姉ちゃんも良かったら食べてってよ?。と言っても、あびるお姉ちゃんと比べたらまだまだだけど…。」
「てか、姉貴と比べるなって…。」と蒼絵が言うと瑠実も続けて「ウチのたこ焼きとどっちが美味いかな~♪」と言った。
「早く食べたい!、早速上がっても良い?」と早るあびるを宥めつつ、明未に促されて台所に案内されると、テーブルに置かれたケーキをなんと?、国太君が食べていた!。
「お父さん、何で食べてるの?」と言うと国太君が「これお前が作ったのか?」何の悪びれも無く明未に尋ね、明未が「そう、だけど…。」と答えると次の瞬間、「オエッ!」と口に含んだケーキを吐き捨てた。
「何するの!?」と言う明未を国太君が、まるで毒を食べさせられたかのように「おめえこそ何食わせてんだコラ!」と物凄い剣幕で明未を殴りかかって来た。
「ごめんなさい!」と両手を構える明未を俺は寸でで代わりにビンタされた。
「かっ!、桂お兄ちゃん?」と呆気に取られる明未に間髪入れず国太君が「どけヅラ男、邪魔すんな!」と言いながら、同時に駆け付けた智枝ちゃんも一緒に、俺の背中を殴って来た。俺は明未に触れないように庇った。でないと国太君の事だから『俺の娘に触った、事案だ!』とか言って警察に通報し兼ねないからだ…。智枝ちゃんが俺を殴り始めてすぐさま蒼絵が。
「やべえぞこれマジで、あの2人を止めねえと!」
「皆、あーしと蒼っちは国太さんを止めるから、瑠実っちは智枝ちゃんを止めて!」
あびるがそう言うとすぐさま、あびるが国太君の右腕を、蒼絵が左腕を、瑠実は智枝ちゃんの両腕を、それぞれ全力で止めた。
「離せおめえら、邪魔すんな!」と言う国太君と、智枝ちゃんも「触んな、この大阪女!」と大騒ぎし出した。
約1分後、2人共暴れてある程度鬱憤が晴れたからか?、国太君が「もう良い、勝手にしろ!」と言ってすぐさま智枝ちゃんも「全くだ、朝っぱらから気分悪いな~!」と言ってその場を離れてから明未が「ゴメン桂お兄ちゃん、わたしのせいで…。」と泣きながら謝って来た。
「気にするな、お前が無事ならそれで良い。てか久々に国太君に殴られたな~…。」と言ってるとあびるがゴミ箱に向かうとすぐさま、ゴミ箱から明未のケーキを指で掬って食べる。
「皆も食べてみなよ、美味しいよ?」とあびるが言うと明未が慌てて「何やってるの!、そんな事したら本当にお腹壊すよ?」と注意して来た。そんな明未の反対を押し切り、俺達はゴミ箱から明未のケーキを指で掬って食べた。そして4人揃って明未にこう言った。
「ごちそうさま、とっても美味しかったよ!」
その瞬間、明未は感極まって手で口を覆いながら泣く。
「さあ、予定変更して、これからあーしん家でケーキ作ろう!」とあびるが言うと蒼絵が「だな、ラッズの手当てもしなきゃいけねえし」と言うと瑠実も「ウチも手当手伝うわ!」と言うと明未が泣きながらも笑顔で「うん!」と返してくれた。
明未は改めて、あびる、初とケーキを一緒に作り始めた。その間俺は蒼絵と瑠実から傷の手当てをして貰い、皆でケーキを頂いた。
「やっぱ皆で作ったケーキは美味しいね~!」とあびるが言うと明未が「今度はちゃんとわたし1人で作ったケーキをご馳走したいよ、勿論今より腕を上げて!」
「つかホントに美味しいよ、姉貴が手伝ったとはいえ」と蒼絵が言うと瑠実もすぐさま「お礼に今度はウチのたこ焼きご馳走したるわ!」と言った、俺もすぐさま。
「良かったよ、晃子さんが作る感じのケーキだったらどうしようかと思ったよ、痛てて…。」
「やっぱり解るんだ、お母さんの料理のセンスの残念さを」と明未が言うと「ああ。高校の頃、マネージャーだった晃子さんの手料理を食べたんだが、中々の不味さだった。あれを喜んで食べていたのは国太君と副キャプテンの安藤君って人だけだったよ…。」
俺は、そんな嫌な気持ちを切り替えるよに「それより、今から明未の曲をアップするから、皆見届けてくれないか?」と言ってアップすると、先ず明未が。
「どうかわたし達の曲がヒットして、あの一家から解放されますように…。」次いであびるが「めいみんバンドが大ブレイクして大金持ちになりますように…。」次いで蒼絵が「メミーとラッズが最高にロックになれますように…。」と言うと俺がすかさず「何じゃそりゃ?」とツッコんで、瑠実に。
「そう言えば瑠実、『蒼絵に話がある』って言ってたけど、どした?。何か元気無さそうだったけど…。」と言うと、瑠実が一呼吸置いて。
「スマン皆!。ウチ、バンド辞めなあかんねん…。」
皆が「えっ!」と言ってすぐさま蒼絵が「何があった?」との問いに瑠実が「実はオトンが早期退職の対象者にされてもうて、その代わりに退職金多めに貰えるらしいんやけど、オトンももうすぐ50歳になるし。ウチ、3歳年上の姉がおるんやけど、『瑠菜』って言うねん…。」と言って一呼吸置いて続ける。
「ウチは何とか高校だけは出させて貰えるけど、瑠菜姉はまだ大学生活1年半近く残ってて、授業料も馬鹿にならへん。瑠菜姉が『短時間のアルバイトやりながらでもキツイのに、フルタイムでの両立は無理っぽい』って言ってたわ…。」と、皆が何て言ってあげたら良いか解らない中、瑠実が更に続ける。
「オカンもパートに出る言うてたし、皆家庭を支える為に色々我慢してるのに、ウチだけ好き勝手やる訳に行かへんねん。蒼絵姉が少し前に『来年のホワイトデー辺りに、高校生としての最後のライブやる』とって言うてたやろ?。それがウチの最後の音楽活動になりそうやわ…。その間、車の免許取ったり、正社員の仕事探そうと思ってんねん。それに仮に今日メジャーデビュー出来たとしても、成功出来る保証なんかあれへんし…。」
瑠実が一通り話し終えると、明未が「瑠実お姉ちゃんは、本当にそれで良いの?」と言うとすぐさま蒼絵が「そうだぜ!、ラッズも正社員やりながらプロ目指してた訳だし、19歳の頃」と言うと、更にあびるが「ずらっちも何か言ってあげなよ?、人生の先輩として!」と俺に励ましの言葉を求めて来た。その言葉が俺の中に眠る父性にスイッチが入った。数秒間、俺は間を置いてこう切り出す。
「…なあ瑠実。お前がもしプロを目指すのを完全に諦めるって言うんなら、俺と結婚しないか?」
「け、結婚!?」瑠実は正に、青天の霹靂を受けたかのような表情だった。俺は更に続ける。
「正直、俺も音楽でプロ目指すのが、段々しんどくなって来たんだ。それに幸か不幸か?、丁度今月から正社員になった。そうなると、今よりもっと音楽活動との両立が厳しくなる。けど一緒に歩んでくれるパートナーが居てくれたら、このどっちつかずの状態にもピリオドを打てて、今の会社に骨を埋める決意も固められると想ったんだ」
瑠実が顔を赤らめながら俯き、他の皆も言葉失ってる中、俺は一呼吸置いて、こう切り出す。
「俺にお前と、お前の家族を守らせてくれ!」と俺が渾身の想いを瑠実に伝えると、泣きそうになりながらこう聞き返す。
「ホンマにウチでええんか?」との問いに「お前が良いんだ。あの会社でこき使われる俺の傍に、ずっと寄り添って欲しいんだ!」
「有り難うな桂兄。ウチ、ホンマに嬉しいわ…。」と言いながら涙を流した。そんな中、俺はこう切り出す。
「そう言う訳だから、Berryenと明未、そして智枝ちゃんに協力出来るのは、今度の学芸会迄だ。勿論それに伴い、めいみんバンドも解散する、本当にすまない!」と言いながら頭を下げつつ、俺は更に続ける。
「早速だけどこれから、瑠実のご家族に挨拶しに行っても良いか?。これは俺達だけの問題じゃないから、もしかしたらご両親から反対されるかも知れないし…。」俺が気まずそうに言うと。
「大丈夫やて、皆家きっと賛成してくれるわ!。」と初が涙を拭きながらそう返すとすぐさま、残念そうな顔をしている皆(特に明未)に申し訳ないと想いつつ、俺と瑠実はあびるの部屋を後にした。
桑島家に到着後、俺は出迎えて下さったご両親と姉の瑠菜さんに手土産の菓子折りを渡しつつ、瑠実との馴れ初めと、結婚に至る迄の経緯を説明しつつ、今回の件をご報告をした。
「という訳です。瑠実さんを必ず幸せにしますので、結婚させて下さい、お願いします!」と言うとすぐさま瑠実も。
「ウチからもお願いや!。桂兄は本当に素晴らしい人やねん。ちょっと歳離れとるけど、桂兄となら幸せな家庭を築いて行けそうな気がするねん!。それに今日、ある大男に殴られそうになった女の子を、体を張って庇う所を見て『この人なら、ウチを本気で守ってくれそう』と確信したわ。せやからウチを、桂兄と結婚させて下さい、お願いします!」と言った後、数秒間の沈黙の中、お母さんがこう切り出す。
「事情は解ったわ。瑠実、あんたホンマにバンドでの成功を諦めてでも、桂君と結婚するんやな?」との問いに瑠実は「勿論や!」と返すと瑠菜さんもすかさず「ホンマに大丈夫か?、瑠実は可愛くてスタイルええから、これから色んな男から誘惑されるで。ましてまだ18歳と若いから尚更心配や…。」と言うとお父さんがこう切り出す。
「桂君。ウチらはこれでも、瑠実に精一杯愛情を注いで育てて来たつもりやねん。もし瑠実を悲しませる事があったらタダじゃ済まさんからな!」と厳しくそう言った、まあ当然だよな…。俺は桑島家で昼食をご馳走になり、こう切り出す。
「今から僕の両親に報告しに行きますので、もう少しだけ娘さんをお借りしても良ろしいでしょうか?」と言ってご家族から了承を得て、桑島家を後にした…。
「良かった、瑠実のご両親が理解ある方で…。」と車の中で話す俺に瑠実は「ちゃんと話せば理解してくれる親やから安心せえ。それより今度は桂兄のご両親に報告するんやろ?」と聞かれ、こう答える。
「ああ、きっと大喜びするぞ、特に母さんが。こんな若い美少女と結婚出来る事を、そして正社員になる決意を固めた事を…。」
午後1時頃。家に到着した俺は、鍵を開けて「ただいまー」と言うも、両親の気配が無い。台所に行くと、書き置きがあり、母さんの文字でこう書かれていた。
「桂へ。今日あたし達、は午後から町内会の催しで帰って来るのは午後4時頃になります。いつまでも音楽やってないでいい加減、今の会社の正社員として生きて行く決意を固める事!。それと早く孫の顔を見せなさいよ、良いわね!。母より」
「その報告をする為に急いで帰って来たって言うのに…。」と言うと瑠実が「何か拍子抜けしたわ…。桂兄のお母さん、気難しい方だって聞いてたから…。これからどないする?」と言うと、一呼吸置いてこう切り出す。
「取り敢えず、俺の部屋に来てみるか?」との問いに、瑠実が「是非入ってみたいわ!」と返した。俺は飲み物とお菓子を運びながら、俺の部屋に瑠実を案内し、招き入れた。
「ここで桂兄は普段、曲作ってるんやろ?」と言う瑠実の問いに俺は「と言っても、もうすぐ曲作らなくなるんだけどな、ハハハ、痛てて!」と背中が痛み出した。
「大丈夫か!」と瑠実が言うと、俯きながら続ける。
「ホンマに酷い事するな~、あの2人。痛かったやろ?」と優しく背中をさすりながらそう言う瑠実に、俺は「そりゃまあ、あの国太君のパンチだからなあ。一緒に殴って来た智枝ちゃんのパンチが全然痛く感じなかったよ、ハハハ」と言うと、瑠実が抱きしめながら。
「あまり無理せんといて!、もう桂兄だけの身体じゃないんやで…。それに明未姉を必死に守っとる姿、カッコ良かったで…。」と涙目で言いながらキスをして来た、そして…。
俺の部屋に入って約30分後。
「ごめんな瑠実、痛かったろ?」と俺が申し訳なさそうにこう切り出すと「まあ…。でも桂兄が受けたパンチの嵐よりは痛くないわ…。」と瑠実に言われ、そのまま頭を優しく撫でて抱き合った…。
それから約1時間後、俺の両親が帰って来て、今回の経緯を話すと父さんは安心し、母さんは大喜びした。俺は瑠実を自宅に送り届けた。音楽家としての夢は叶いそうに無いが、こういう生き方だって充分幸せだろう、明未には本当に気の毒だけど…。