表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/13

鮫妻智加、鶴牧明未になる(桂の視点)

2024/11/2(土)PM2:30


 俺はカラオケボックスで国太君と晃子さんと再会し、その娘達とも出逢い、成り行きとは言えその子達に楽曲提供するのを了承した事を想い返し、先が思いやられていた。


「まさか国太君と再会するなんて、ホントついてないよ。しかも智枝ちゃんは性格最悪だし、晃子さんは相変わらずだし…。」そう苛まれていると、RUINEが蒼絵さんから来た、内容はこうだ。


「先程は有り難う御座いました。姉貴が『ボイトレ本と作詞本持って来て下さい』だそうです。住所は智加ちゃん家の隣りです!」ってマジかよ!、世の中狭すぎるだろ?。


 俺は急いであびるさん家に行くと、あびるさんが「いらっしゃい桂さん、智加ちゃんならもう来てるよ。あーしの部屋に案内するからね~♪」と出迎えてくれた。まさか本当に国太君家の隣りだったとは…。


 俺はあびるさんに案内されて部屋に入ると、そこには既に蒼絵さんと智加ちゃんが居た。俺はあびるさんに促されて座ってすぐさま、蒼絵さんが「いや~良かったっすよ。もし落とされたら何気にショックだったっすよ」と切り出した、俺もこう返す。


「こちらこそ、蒼絵さんのようにギターが上手くて音楽に真剣に取り組んでくれる人と一緒に活動出来るなんて楽しみですよ…。実は俺、家族や会社に内緒でプロを目指してるんですよ。東京で8年間音楽活動して失敗したから周りが俺が音楽やるの猛反対してるんですよ、特に母さんから…。」


「という事はわたしもプロを目指す、って事になるんですか?」と智加ちゃんは面食らった感じでそう返答すると、蒼絵さんが「尚更好都合だ!、アタシらもプロ目指してんすよ実は」と返してすぐさま、蒼絵さんが、俺の顔を覗き込みながら。


「桂さん、アタシらもう仲間なんすから敬語よしませんか?。アタシの事呼び捨てで良いっすから」すかさずあびるさんも「あーしも呼び捨てで良いよ~♪。智加ちゃんもそれで良い?」と智加ちゃんに聞くと少し考えながら。


「これから桂さんとユニットを組むんですよね?。わたしに『芸名?』を付けて貰えませんか?。この本名嫌なんです。理由はお父さんがわたしに『勉強、スポーツが人より出来ますように』という願いを込めたそうなんですが、実際は勉強、スポーツ共にワースト1なんでいつも周りからからかわれるんですよ。なので皆さんと一緒に居る時ぐらい別の名前が良いです、お願いします!」と懇願して来た、あびるが少し考えて。


「だったら『鶴牧明未つるもくめいみ』とかどう?。あーしと同じ苗字で、貴女に明るい未来が訪れますように、という願いを込めて。後あーしら皆、ベリーに関する名前だし。めい=明=苺、とも読めるし」とノートに書きながら説明した。それを見た智加が感動しながら。


「素敵な名前、有り難うあびるさん!。それに少し前に苺のお土産を頂いたんだけど、わたしだけ食べさせてもらえなかったから自立出来たら思いっ切り食べたい!」俺が「マジかよ!。酷いな、あの3人…。」と言うとすぐさまあびるがこう言い出した。


「ちなみに桂さんは『ずらっち』、かつら→づら→ずら→らず→ラズベリーだから」と不意に言われて驚きながらもOKして、「それで2つ目のお願いって何?」と聞くと明未がモジモジしながら。


「わたし、本当は妹になりたくて、お兄ちゃんやお姉ちゃんが欲しかったの。だから皆の事をこう呼んで良いかな?『あびるお姉ちゃん』『蒼絵お姉ちゃん』『桂お兄ちゃん』って…。」


 俺は思わず(か、カワイイ!)と想って年甲斐も無く萌えてしまった。蒼絵の表情を見ても、多分俺と同じ気持ちだろう。あびるに至っては、顔を赤らめ、頬を両手で覆っていた。あびるが初見で明未に夢中になるのも解った気がする…。我に返ったあびるが「そ、そうだめいみん!。折角だからツインテールしてみてよ?、絶対似合うから!」と言い出した。


「俺もそう思った。そっちの方がボーカルとしても()えるだろうし」と俺もそう続けると、明未が「ツインテールなんてわたし、やった事無いから似合うかな…。」と言いながらあびるが鏡を明未に見せながら、あびるが用意したヘアゴムと白いリボンを慣れない手付きでやってみつつ、ツインテールになった明未は「ど、どうかな…。」と照れながらあびるに上目使いでそう尋ねると。


(ずっきゅ~ん!)


 あびるから、そんな擬音が聞こえて来そうな表情だった。次の瞬間あびるが「めいみん、可愛い過ぎる…。」と昇天した。まるで推しのアイドルが自分の為だけに最大級のファンサービスをしてくれたかの

ように、この上ない幸せそうな顔をしながら…。そんなあびるを蒼絵は「姉貴しっかりしろ!、重い…。」と言いながら抱え込んだ。そんな状況に明未は狼狽えてた。


(この人達と音楽活動して、本当に大丈夫かな…。)と内心不安になる俺をよそに、我に返ったあびるが焦りながら「そ、そうだずらっち。ボイトレ本と作詞本、持って来てくれた?」と尋ね出した。


「ああ。どっちも10年以上前の本だけど、アゾマンでのレビュー数どっちも3桁で星4.5以上だから今でも通じる内容だと思うぞ?」俺がそう答えると明未が。


「でも、わたしにボーカルや作詞なんて本当に出来るのかな?。それにこの本やノート、もしあの人達に見つかったら取り上げられて悪戯されそうだよ…。」と不安気にそう言い出した。確かにあいつらならやり兼ねない、と思った俺は。


「なら練習する数ページを切り取って持ち帰ったらどうだ?。それに作詞って思うから難しく考えてしまうんだよ。明未がこれ迄どんな人生を歩んで来たかを、このA6メモ帳に書いてくれるとかどうだ?。このサイズならあいつらに見つからないだろ?。それを見てメロディーとアレンジを施すから」


 俺がそう言いながらメモ帳を渡すと明未が申し訳なさそうに「そんな、わたしの為に本のページを切り取るなんて…。」と言い出す。実に良い子だ、本当に国太君の娘なのか?。


「気にしなくても良いよ。それで明未が歌と作詞が上手くなるんならそっちの方が嬉しいだろ?、この本の作者も」明未「有り難う桂お兄ちゃん。わたし一生懸命練習するから。家の人達に怒られるから全力でボイトレ出来ないかもだけど…。」と俺がそう言うと。


「だったらあーしん家に来てボイトレすれば良いよ。もしくは車の中でも良いし」と言い出した。「俺の車を使っても良いぞ。家ん中はほぼ毎日母さんが居るから出来ないけど…。」と俺も続けて言うと明未が「皆、本当に有り難う…。」と泣きながらそう言った。そのままその日は解散となり、俺は早速夕飯を食べて風呂に入り、眠くなる迄智枝ちゃんの曲を作ってた、作りたくなかったけど…。


   その日の夜(明未の視点)


 帰宅後、わたしはお風呂に入って、部屋で桂お兄ちゃんから貰った作詞本の切れ端を読み、貰ったメモ帳を見ながら今日の事を想い返した。


「桂お兄ちゃん達、本当に良い人だったなあ。あの人達と一緒に活動すれば、わたし本当に、この一家と決別出来るかも知れない…。」


 そう呟きながら貰ったA6のメモ帳を開きながら、わたしのこれ迄の人生を振り返ってみた。


 真っ先に思い浮かんだのは、お父さんからの度重なる暴力や暴言、雑用の押し付けだった。そこから、智枝からの暴力、暴言、侮辱の数々。お母さんがお父さんに同調した時の能面のような笑顔と、言う事を聞かないと頬をつねって来た事。クラスメイトや先生からのいじめや雑用の押し付け。お客さんが来た時、わたしだけ部屋に待機させられたり、お客さんがわたしに失礼な事を言った時、他の家族も一緒になって笑ったり、わたしが何か言うとお父さんが怒鳴りながらぶってきた事、他にも色々理不尽な事…。


「…ってわたし、この12年間で嫌な想い出ばっかりだよ!。良い想い出なんて今日蒼絵お姉ちゃん達と出逢って、あびるお姉ちゃんの部屋で皆で楽しくお菓子を食べながら色々語り合ったかった事位しか無いよ…。」


 そう想った瞬間、涙が込み上げて来た。わたしは泣きながら急いでそれらを書き綴った。


2024/9/22(日) 再び桂の視点


 翌日の午前9時過ぎ、又してもLUINEが来た。蒼絵からだ、確認すると「おはようラッズ!。早速メミーが歌詞書いて来たそうだから一緒に見ようぜ!」という内容だった。色々気になるが、俺は急いで身支度をしてあびる宅に向かうとあびるが出迎え、部屋に入ると昨日と同じメンツがそこに居て、蒼絵が「おお悪いなラッズ、朝っぱらから呼び出して」と切り出した。


「それは良いんだけど、それよりその『ラッズ』って俺の事か?。あと『メミー』って…。」と聞くと蒼絵が「だってその方がロックじゃん?」と返され、すかさずあびるが「蒼っちはこういう子なんだよ。ね、良いでしょ?。めいみんも…。」と続けた。明未は「わたしは別に良いけど…。」と戸惑いながら返事し、俺は(何だかな~…。)と想いながらも、こう切り返す。


「…まあいいや、好きに呼んでくれ。それより早速、明未が書いて来てくれた歌詞、見せて貰っても良いか?」と言うとあびるがすぐさま「あーしも見たい!」と言い出した。


 俺達が明未のメモ帳を見ると、そこには明未のこれ迄の壮絶な人生が書き綴られていた。よく見ると所々涙で滲んでいた。俺は言葉を失いながらも蒼絵を見ると「うわ~…。」と言いながらドン引きしていた。あびるは「めいみん…。」と言いながら涙を流していた。


「もしおかしい所があったら言ってね、書き直すから」と明未が不安そうな顔でそう言うと、あびるが神妙な面持ちでこう切り出す。


「おかしいトコならあるよ、正直に言っていい?」と言われ、明未は更に不安げな表情になった。そしてあびるはこう告げる。


「おかしいのは国太、晃子、そして智枝だよ!」


 あびるのこの一言で先ず、蒼絵が吹き出しながら笑った。俺と明未も釣られて笑ってしまった。


「笑わせんなよ姉貴!、折角メミーの歌詞を読んでる時に…。って、どした姉貴?」と蒼絵があびるに聞くと。


「めいみん初めて笑った!」あびるがそう言うと明未が「ごめんなさい!」と謝るも、あびるがこう続ける。


「いいんだよ。それに出会ってから今迄、ずっと暗い顔してたからホントに良かったよ」あびるがそう言うと蒼絵がこう返す。


「確かにあいつらといつも一緒じゃ、心からの笑顔になんか中々なれないだろうなあ…。それよりこれ、小6女児の言葉じゃねえぞ。ずっと苦しみに耐えて来た魂の叫びだ。このメモ帳にある涙の跡がそれを物語ってる。メミー、お前一体、どんな人生を歩んで来たんだ?」


「あの3人と家族だから酷い目に遭わされてるとは思ってたけど、ここ迄とは…。」俺がそう言い終えるとすぐさまあびる、明未を抱きしめながら。


「めいみん!、今迄辛かったでしょ?。もう1人じゃないから。これからはあーし達が味方だよ」


「あびるお姉ちゃん…。」と明未言うとすぐさま感極まって「うわあああん!」と大声で泣き出した。


「本当にどうしようもない人達だねえ、あの3人…。」と言いながらあびるは、明未の頭を撫でた。


「2人共そのままで良いから聞いてくれ。明未の想い、絶対無駄にしないから。急いで智枝ちゃんの曲を完成完させて、この歌詞に合う最高のメロディーとアレンジにするから。明日迄に智枝ちゃんの曲は完成させる。明未の曲はその後になってしまうけど…。」と言うと。


「いつでも良いよ。元々応募したのは智枝だし…。」と明未が言うとあびるは「偉いよめいみん!、智枝なんかに先を譲ってあげられるなんて!」と言うと蒼絵もすかさず「最高にロックだぜメミー!」と言った後、俺は。


「明後日の午後1時に『氷の里ホール』で智枝ちゃんの曲をレコーディングするんだが、折角だから蒼絵達のバンドの皆も見に来ないか?」と聞くと、蒼絵がスマホを手に取りながら「待ってな。今皆に連絡してみる」と言ってメンバーにLUINEで伝えた。


「そう言えば、蒼絵のバンドの名前、何て言うんだ?」俺が蒼絵にそう尋ねると、何故かあびるが答え出した。


「『Berryenベリーエン』って言うんだよ。由来は全員が何かしらベリーと関係がある名前だからだよ」


「こういう事を考えるの、昔から得意なんだよ姉貴は…。」と蒼絵が言うと、蒼絵のスマホから通知が何度も鳴り、「3人共来れるそうだ」と言った。


「安心してめいみん、皆良い人だから」とあびるが言うと明未は「良かった~、智枝みたいな人だったらどうしようかと思ったよ…。」と安堵しながら言った、俺も安堵しつつ、こう切り出す。


「そう言えば、俺と明未のユニット名まだ決めてなかったけど…。」と言うとあびるが「じゃあ良い名前が決まる迄の間、取り敢えず『めいみんバンド』で行こうよ?」


「め、めいみんバンド!?」と驚く明未に俺は「あの、俺の要素は?」と聞くとあびるが「え~、めいみんバンドが良いー!」とゴネて来たもんだから俺は「…まあ良いや、正式名称が決まる迄の仮名だし…。」と言い、更にこう続ける。


「さてと、明後日の流れと作曲の進捗状況を、国太君達に伝えに行くか、気が重いけど…。」と俺が言うと蒼絵が「『スタジオ代はヅラ男が出せ』とか言いそうだな…。」と言い、更にあびるが「後『著作権もよこせ』って言うかも?」と言うと明未が「あの人達なら本当に言いそうだよ…。」と申し訳なさそうにそう言った…。


 俺は国太君家に行き、明後日の流れと作曲の進捗状況を、国太君達に伝えた。


「良いぜ。但し、スタジオ代はヅラ男が出せ。あと著作権もよこせ。それが智加と音楽活動させる条件だ」と言い出した。予想は的中した、的中して欲しくなかったんだが…。


「やったー、流石お父さんありがとー!」と智枝ちゃんが満面の笑みを浮かべながら国太君に感謝の意を伝えるのを見て、俺は苦笑いしながら(お礼を言う相手が違うだろ…。)という言葉を飲み込んだ…。


「ごめんね桂お兄ちゃん、また負担掛けてしまって…。」との明未の言葉に俺は「気にしなくて良いよ、あの国太君が無条件でOKするなんて最初から思ってないから…。」と返した。明後日が楽しみだ、Berryenの他のメンバーに会える事、そして『明未』のレコーディングが出来る事を、智枝ちゃんのレコーディングは、ちゃっちゃと終わらせよう…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ