桂さん達との出会い(智加の視点)
2024/11/1(金)PM7:00
「おとーさん、『山野桂』って人知ってる?」
夕飯を家族全員で食べてる時に、わたしの妹『鮫妻智枝』がそう言い出した。ちなみにこの智枝とわたし『智加』は、同じ小6なのだが、わたしが4月2日0時5分生まれで、智枝は翌年3月31日生まれだから1年近く離れている。
「何でお前がヅラ男の事知ってんだ?」
わたしの父『国太』の問いに、智枝が「ヅラ男?」と聞き返すと父が「桂=ヅラだから」と問い返した。ちなみにわたしは、両親共に19歳の時に産まれた。お父さんの誕生日は10月31日で、お母さんは翌年1月31日だから、智枝は両親が20の時に産まれた。
「ヅラ男君とか懐かしいわね。ヅラ男君とお父さん同じ高校でバスケ部だったから。ちなみにお父さんはキャプテンであたしはマネージャー。ヅラ男君は補欠だったわ。そのヅラ男君がどうかしたの?」と、母『晃子』が続けた。
「ほら、あだし今度の学芸会の特別枠でオリジナル曲でライブやりたい、って言ったじゃん?。それでオリジナル曲作れる人探してたらこの人のメン募見て『MyTube』でこの人の曲聴いて気に入ったからこの人に連絡しようと思ったんだけど、聴いてみる?」
と言いながら智枝はスマホ内の動画を再生させると、お店とかで流れて来る感じの聴きやすいメロディーとサウンドと歌詞が聞こえて来た。ちなみにわたしはスマホを買って貰えてない。「お姉ちゃんなんだから我慢しろ!」とお父さんに昔からそう言われて来たからだ…。
「ほお~、あの何やらせても並み以下のヅラ男にこんな特技があったなんて意外だな。」
「誰にでも1つくらい取り柄があるもんなのね~。」お母さんがお父さんに同調しながらがそう言うと智枝がすかさず。
「連絡しても大丈夫そうだから、あだし応募するわ。私の名前はさめつーー」
「待て!、『佐藤智枝』って名乗れ!」とお父さんが智枝の言葉を遮ってそう言い出した。
智枝が「何で?」と聞くとお父さんが「『鮫妻』だと警戒されて落とされるからだ!。あと日時を明日の12時にして貰え、ヅラ男にドリンクとオードブル奢らせるぞ!、これで昼飯代を浮かせられる」
お父さんがそう言うと智枝が「おお流石おとーさん、頭良い~!」と褒めた。すぐさまお母さんが「ナイスアイデアね。それにヅラ男君、お父さんの事嫌ってるから」と同調して来た。そりゃ嫌われるよ、こんな事されたら…。
「そうだ、明日お前も付いて来ても良いぞ?」
この一家は、他の家族と同席する際、昔から何故かわたしだけは仲間外れにされて来た。なのに珍しくわたしを輪に入れてくれるので思わず嬉しそうな表情をしてしまった。それを見た智枝が。
「何マジに喜んでんだよ、ウケる!。おめえを誘う理由なんて、あだしの引き立て役になって貰う為に決まってんだろ!」
「どうして毎回そんな事言うの!?。私が純粋に喜ぶのがそんなにーー」
思わずわたしがそう言うと、お父さんがダッシュ詰め寄って来て「何口答えしてんだこの野郎!」と言いながら凄い速さでわたしを引っぱたいて来た。筋トレが趣味のお父さんのビンタは「バチン!」という大きな音と鈍い衝撃が左頬に走り、数十センチ吹っ飛びながらわたしは倒れ込んだ。
「お姉ちゃんだから素直に聞き分けろ!」と怒鳴りながら背中を蹴って来るお父さんに、智枝も「んだぞおめえ!。つかおめ、ホントにまともか?」と怒鳴りながら頭を踏みつけて来た。わたしは「ごめんなさい!」と言いながら必死に背中を丸めて、出来るだけダメージを負わないようにするのが精一杯だった。それをお母さんは傍観していた。これがわたしへの虐待の「定番コース」だ。そんな状態が1分程続いた後、お父さんが。
「罰として夕飯の食器洗いやれ!」と言った後、すぐさま智枝が「お姉ちゃんだからそれくらい1人で出来るよな?」と勝ち誇った面持ちで同調して来た。わたしは胸の奥底から湧き上がる怒りと悔しさを押し殺しながら、無の感情で洗い物に勤みつつ、こう想った。
(いつか、この人達と縁を切って自由になりたい。けど、どうすればそれが実現するんだろう…。)
2024/11/2(土)AM11:59
翌日、お父さんとお母さんは身だしなみを整え、智枝は精一杯お洒落して、わたしはうぐいす色のチャック付きパーカーにジーンズと言った地味な格好を強いられ、最寄りのカラオケボックスに車で向かい、到着した。車から降りるのに手間取ってるわたしにお父さんが。
「智加、何ちんたらしてんだ、さっさと来い!」と怒鳴るとすぐさま智枝が「キビキビ動けよ、お姉ちゃんのくせに!。ホントにまともか?」と同調して来た。精神的に凹んでるわたしにすれ違ったカップルの20歳位の女が「何あの小汚い子、チョーウケるんだけど!」と指差して笑って来た。同じく20歳位のカップルの男も「馬鹿、笑うなよ」と言いながら笑って来た。
(どうして知らない人達からも笑われなきゃいけないんだろう…。)
そう言いながらカラオケボックスの中に入ると、受け付けから少し離れたベンチに、小ざっぱりした30手前位のノートパソコンを持った男性と、20歳手前位で身長が普通の大人の女性より高い綺麗なお姉さんが2人居た。
「おっ、居たぞヅラ男が。13年前と変わらず間抜け面してるな~。それより誰だ、あの綺麗な姉ちゃん達は?。まさかヅラ男の彼女じゃねえよな!」
そう言いながらお父さんが彼等に近づいて行った。どうやらあの男性が山野桂さんで、あの綺麗なお姉さん達は多分、智枝同様にオーディションを受けに来たんだと思う。そして彼等との出会いが、わたしの運命を大きく、そして良い方向へと変えて行く事になる…。