昔と今のウルについて(真珠side)
あの頃のウルを、時々思い出す。最初に出会ったときのあの人は――今よりずっと、余裕があった。
切れ長の目を細めて、涼しげに笑った。白い長衣を翻して歩く姿は自信に満ちていたし、人を見下ろす時も冷ややかで、それでいてどこか挑発的だった。
皮肉を込めた冗談を言ったり、意味深に微笑んだり、「お前は面白い女だな」って肩を揺らして笑ったり。本当に、少しも動揺を見せない人だった。
あの時の私は――その余裕が嫌いだった。自分を試すように見つめる目も、簡単に心を読まれているような気がして腹立たしかった。でも同時に、「この人は、何でも卒なくやる人なんだ」そう思ってた。誰にでも同じように笑える人だって。
私なんて、取るに足らない相手だろうって。だから、逆に安心していた。捕まるなんて思ってなかったから。あの人の気紛れが過ぎたら、きっと興味も失うと思ってた。
……でも、違った。
後宮に押し込められてからのウルは――全然、別人みたいだった。
最初はまだ「王太子」の顔で話してた。
「お前は俺のものだ」
「黙って従え」
口調は落ち着いていた。でも目が、声が、怒っていた。強がってようだった。
そこからどんどん変わっていった。部屋に閉じ込めて、外に出さないようにして、誰にも近づけないようにして、私の行動を逐一監視して、そして……
抱きしめる手が痛いほど強くなった。睨むように見つめて、喉を詰まらせるような声で私の名前を呼ぶようになった。噛むように口付けて、震える声で「離すな」と言うようになった。いつからか闇のような黒衣を纏い魔王みたいな出立ちでも、顔が桁違いに良いから似合ってた。
今のウルは――笑わない。いや、笑えなくなったのかもしれない。口数も減った。私を前にすると、言葉を探して喉を詰まらせる。眉を寄せて、目を伏せて、息を荒くして、一言を絞り出すまでに時間がかかる。
触れると震える。手を伸ばしても、すぐに引っ込めそうになる。でも触れたら最後、二度と離せなくなる。そんな人になった。
……かわいい、なんて言ったら怒るだろうな。でも、かわいい。不器用で、臆病で、でも欲深くて。私を欲しいっていう気持ちを、誤魔化せない。昔みたいに余裕の仮面を被れない。
前のウルも嫌いじゃない。大人で、冷たくて、でもちゃんと相手を見ていて。あの時の余裕があったから、私も強がれた。強気に言い返せた。「私をどうする気?」って睨み返せた。
でも今は……睨み返せない。だってあの人、泣きそうな目をするから。私を痛めつけて、それを悔やむような目をするから。でも「離せない」って顔をするから。
あの時より、今の方がずっと面倒だし、ずっと厄介だし、ずっと重たい。でも、今のウルが好き。私しか知らない顔をするから。私にだけ素直になるから。私にだけ弱さを見せるから。
だから。仕方ないな、って思う。何度でも折れてあげる。何度でも抱きしめてあげる。
あの人が私を欲しがる限り、私もあの人を手放さない。




