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目が覚めて

あたたかい光が、まぶたの奥に差し込んでくる。目を開けようとして、瞼が重たいことに気づく。意識の底からゆっくりと引き上げられるような感覚。朦朧とした頭が、少しずつはっきりしていった。


声がする。小さなささやき声。複数の人の気配。何度も何度も呼ぶ声が重なっていた。


「……真珠様……真珠様、聞こえますか」


――ああ、知ってる声。やさしい声だ。返事をしたくて、喉を動かした。でも乾いて引っかかったように音が出ない。


かすかに眉を動かすと、すぐに誰かが気づいてくれた。


「あ……動いた」


泣きそうな声がした。アサナだ。やっぱりアサナはすぐ分かる。


真珠は、なんとか瞼を持ち上げた。眩しさに目が慣れるまで少し時間がかかる。ぼやけた光の中に、人影がいくつもあった。優しく覗き込む顔。ホッとしたように息を吐く人。頬を濡らしている人もいた。


「……アサ……ナ……?」


やっと出た声はひどく掠れていた。でも確かに自分の声だった。


アサナがしゃくり上げるようにして笑った。


「……ああ、真珠様……よかった、ほんとによかった……」


真珠は、ゆっくり目を瞬かせた。意識が鮮明になるにつれ、あちこちに痛みが広がっていく。体の奥から、表面から、刺すような、引き攣るような感覚。

指先を動かしただけで、包帯が擦れるのが分かる。


ああ、これは……あの時のままだ。痛みが現実を叩きつけてくる。でも、不思議と心は冷静だった。


「……水……ください……」


医師がすぐに差し出す。匙で口に含むたび、喉が沁みる。何度もむせそうになりながら、少しずつ飲む。それを見ていた女官たちが、ぽろぽろ泣き出した。真珠は申し訳なさそうに笑った。


「……泣かないで……大丈夫だから……」


声は掠れて弱いけど、いつもの調子を取り戻そうとした。意識が戻るたびに、みんなの顔がはっきり見えてくる。アサナも医師も女官たちも、泣きはらした目で笑おうとしていた。


「……心配、かけたね……ごめん」


そう言ったら、また泣かれてしまった。それが少しだけ可笑しくて、喉を震わせて笑った。でも痛みで咳き込んで、また水を含む羽目になった。


少し落ち着いたころ、医師が穏やかに言った。


「……熱は少し下がりました。ですが今はまだ安静に。食事もお粥から始めましょう」


女官がすぐに小さな膳を用意してくれる。湯気の立つ、柔らかいお粥。一口食べるだけで、胃がじんわり温かくなる。


「……おいしい」


そう呟いたら、またみんなが泣いた。もう本当に泣き虫ばっかりだ。それでも、ありがたかった。自分が戻る場所がここだって、痛いくらい分かった。


寝台に深く沈んで、ふうっと息を吐く。ゆっくりと周りを見渡す。あの夜の、あの光景はまるで悪い夢みたいだった。


――いやいや、夢じゃないのは分かってる。だって、身体中に刻まれた痕が全部証拠だ。動かすたびに痛む。包帯の中がじんわり熱い。


目を閉じたら、記憶が少し戻った。乱暴に握られる腕。噛みつかれる肩。掻きむしられる腰。声にならない悲鳴。――でも、正直途中からはもう覚えていない。


「……なんだったんだろうね、あれ」


小さく呟いてみた。誰にも聞こえないくらいの声で。たぶん本当にあったと思うんだけど、ちょっと自信が持てない記憶。


(黒くて、でっかい獣がいたような気がする)


自分の身体の上を覆い、陵辱の限りを尽くされた。その黒い何かは、牙をむいて、唸って、でも泣きそうな目をしていた。


――いやいや、言えないけど、あれは絶対ウルだ。


「……仕方ない人ね……」


また笑った。掠れた声で、息を詰まらせながら。痛みが走ったけど、笑わずにはいられなかった。


ゆっくり目を開けると、みんなが自分を見ていた。泣き笑いの顔。安心したような、まだ不安が拭えないような顔。アサナが真珠の手を握りしめていた。医師が頷き、女官たちが袖で涙を拭いた。


「……うん。もう大丈夫」


掠れた声で、でもはっきりと伝えた。この先もきっと痛むだろう。でも私は大丈夫だ。そう言わなきゃいけないと思った。だってみんながこんなに待っててくれたんだから。


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