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アメニア王族の厄介なアレ(アサナside)

ーーあの子を見ていると、思い出すことがたくさんあります。


王家の血にはね、昔から「厄介な性癖」があるんです。


書物には「獣性」とか「支配の血」なんて難しい言葉で書かれてるけど、要はね、「愛する相手を噛む」「所有の証を身体に刻む」ってことなんです。


アメニア王国の正史にはこう書かれています。


《王家の血には、古より獣の性が宿ると伝わる。欲望を隠さず、奪い、所有し、命を刻む。この性こそが、アメニア王族の本質であり、支配の権能を裏付けるものなり。


故に、王家に連なる者は幼少より己の「獣性」を自覚し、それを制御する術を学ぶことを求められる。だが制御しきれぬ者もまた多く、歴代の王においても、その愛は苛烈を極めた。》


神前婚約の儀式でも、かつては公然と咬印を刻む場面があったそうですよ。「正妃にだけ刻む、唯一無二の証」だって。


でも、当然ながら問題も多くて。中には失血や感染で亡くなった后様もいたそうです。政治的な抗争の火種にもなったこともあったとか。


だから王宮の医務室では代々、咬傷を治す薬を改良し続けてきたんです。痕を目立たなくしつつ、でも完全には消さないようにね。それは「王の証」「妻の誇り」として薄く白い痕を残すことが伝統とされているからなのです。


「王家の愛は慈愛と暴虐の両方だ」って昔の大神官が記録に残しています。「暴虐を受け入れられる女こそ正妃に相応しい」とも。


……まぁ、実際は暴君の正当化にすぎないとも思いますけどね。


それでも、あの子はその血を一番濃く受け継いだんでしょう。


ウルシュガ坊っちゃま。


小さい頃から、それはもう、はっきりしてました。


例えば……まだ五つや六つの頃ですよ。一緒に遊んでいた同年代の子が坊っちゃまの大事な木彫りの馬を触ったんです。


坊っちゃま、何をしたと思います?


その子の手を、血が滲むほど噛んだんです。「俺のものを取るな」って。それはもう、理屈じゃない、獣の目をしてました。


大人たちは慌てて引き離したけど、坊っちゃまは泣きもしなかった。唇を血だらけにして、獣みたいに睨んでいました。


でもね、その夜こっそり私のところに来て……「アサナ、あの子泣いた?」って小さな声で聞いたんです。


自分が噛んで痛めつけたって分かってたんですよ。


そんな風に、あの子は昔から「欲しいものは全部自分のものにしたい」って思うのに、それで相手を泣かせると、自分も傷つく子でした。


王家の血を継ぐ者に生まれて、誰よりも王に相応しいと言われて、でも同時に、誰よりもその血の「厄介さ」を色濃く抱えていました。


大人たちは「殿下は強い」「王たる器だ」って褒めたけど、私だけはいつも心の中で思ってたんです。


「この子は将来、苦労するだろうな」って。


だって、愛し過ぎたら噛むんですから。それも思い切り。大事なものほど離さない、手加減ができないんです。


そして噛みついた痕を見て、自分で泣くような子でしたから。


……でもね。


今の坊っちゃまを見て、改めて思うんです。


「やっぱり、この人の傍に立てるのは真珠様しかいない」って。


あの子の獣みたいな愛を受け止めて、でも飲み込まれない人。「痛い」「ダメ」ってちゃんと言える人。それでも逃げずにいてくれる人。


真珠様が、きっと坊っちゃまを人にしてくれる。


私は、そう信じてます。


……そうじゃなきゃ、坊っちゃまは、ずっと獣のままですからね。


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