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入院した日の夜

後宮の医務室内、入院室。


夜の深さが空気を冷やし、香炉の煙が細い糸を描いて揺れていた。月光が透けた帳の隙間から差し込み、寝台の上を淡く照らしている。


真珠は横たわっていた。呼吸が荒く、頬が赤い。額には滲む汗。口元は乾き、時折苦しそうに声を漏らす。


女官が抗菌薬と解熱剤の入った点滴を慎重に調整し、「もう少しで熱が下がるはずです」と祈るように呟いた。


だが寝台脇に座る男は、そんな声を聞いていなかった。長い黒髪を乱し、褐色の手を固く握りしめ、青い瞳を血走らせていた。唇はひくつき、喉の奥で低く唸る。


それでも。


震える手を伸ばし、真珠の額にそっと触れた。あまりに熱くて、一瞬怯むほどだった。


「……すまない」


掠れた声が落ちた。部屋の中で沈んだように響いた。女官たちは顔を伏せた。アサナは目を閉じ、何も言わなかった。


ウルは手を引くことができなかった。震える指先で、ゆっくりと真珠の額の汗を拭った。乱れた髪を梳くように撫でた。優しく、でも必死に。


「……こんなに……熱が……俺が……」


喉が詰まり、声が割れる。


その時、真珠の睫毛が震え、唇が微かに動いた。


「……ウル……」


聞き取れるかどうかの掠れ声。でもその音に、ウルの肩が大きく震えた。途端に呼吸が荒くなる。血走った目が滲みそうになるのを必死に堪えた。


「……ここにいる」


吐き捨てるような声。でも震えていた。


真珠の意識は朦朧としていた。熱が上がりきった身体はふわふわと浮くようで、声を出すのもやっとだった。


それでも、必死に目を細めてウルを探す。視界は滲み、二重にも三重にも揺れる。でも、その青い瞳だけは、すぐに分かった。


「……あ……ウル…だ…」


また呼んだ。喉が裂けそうに痛い。でも呼びたかった。


ウルは喉の奥で嗚咽を噛み殺した。そして、真珠の額に唇を落とした。血と汗と薬の匂いが混じった。


「……ああ、ここにいる」


手を離さない。触れる手は、普段の暴力的な力が嘘のように優しかった。震えながら髪を撫で、頬を拭い、涙をぬぐった。


真珠はかすかに笑った。熱にうなされながらも、笑った。


「……ウル……ここに……いて……ね」


ウルは答えなかった。言葉にならない。でも震える唇で真珠の汗を拭った。


女官たちは見ていられなくて、そっと部屋を出た。

アサナも扉の外で目頭を押さえた。


「……坊っちゃま……」


嗚咽を噛み殺す声が廊下に漏れた。


医務室の中。


真珠は意識がまたゆっくり沈んでいった。でも最後まで、ウルの手を感じていた。

優しい手。

震える手。

痛いくらいの執着を孕んだ、でも今は優しい手。


「……ありがと……」


最後の言葉は吐息のようだった。ウルは唇を噛みしめ、喉が震えたが、声は出なかった。ただ、髪を撫で続けた。


真珠はその手に安心しきって、再び深い眠りへ落ちていった。

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