嗜虐(ウルside)
寝台は乱れていた。濃い香が炊かれていたはずの空気は、今は獣の吐息と熱気で満ちている。乱れた天蓋の隙間から、陽光が斜めに射して、二人の姿を照らした。
真珠はシーツの上でぐったりと横たわっていた。喉を荒く震わせ、乾いた吐息を断続的に吐く。全身、無数の青黒い痣と咬み痕が散っていた。肩、胸、腹、腰――どこも紫がかった内出血が滲み、爪痕が薄皮を剥いで血が滲む。
秘所は赤く腫れ上がり、精液と体液でひどく濡れている。指を食い込ませた跡や、執拗に暴かれた痕跡が生々しく残っていた。
真珠の目は焦点が合っていない。かすかに瞳が潤むが、もう涙は出てこない。喉の奥でくぐもった声を絞り出した。
「……ウル……、だけ……」
うわ言のようだった。切れ切れの息に混じるその言葉を、ウルはすぐ傍で聞いていた。
ウルは真珠の上に覆いかぶさるように座り込んでいた。筋肉質な身体を惜しげもなく晒し、肌に汗が滲んで光る。その体は微動だにせず、ただ青い瞳だけが真珠をじっと見下ろしていた。
深い青の視線が這う。赤く腫れ、傷だらけの乳房を。咬みついた痕。流血した爪痕。首筋の古傷の上に新たに刻まれた紅。そして、脚の間に残る、あらわすぎる痕跡。自分が残した痕を見ると、信じられないくらい頭が甘く痺れた。
真珠が息を吐くたび、小さく腰が震え、微かな痛みで身を捩った。その動きさえ、ウルの目には堪らないほど甘美だった。
喉の奥で、ウルは息を吐いた。それは溜め息とも、唸り声ともつかない。熱と渇望を孕んだ声だった。
――見ろよ。
――こんなにも、全部俺のものだ。
――遂に、噛んでやった。
――お前はもう、俺以外の何も受け入れられない。
真珠の視界はぼやけていた。だが唇が微かに動く。
「……ウル……、だけ……」
もう意識も定かじゃない。意思も曖昧。その言葉に理性なんてない。ただ身体に刻み込まれた“命令”のように、呻く。
ずっと、噛みたくて堪らなかった。でも理性で抑えてきた。噛んではいけないと教えられてきたから。でも、噛んだ。真珠を噛んだ時の、言い表せないほどの多幸感。真珠の悲鳴さえ、自分の興奮材料にしかならなかった。
ウルの目が細まる。その底には凍てついた青の光があった。けれど同時に、熱病のような灼熱が渦巻いていた。
ゆっくりと、真珠の頬を撫でる。血が乾いた指先で、かさぶたを引っ掻くように。真珠は僅かにビクリと震えた。それを見て、ウルの喉がごくりと鳴る。
冷静になりかけた理性が囁く。
――やりすぎだ。
――こんなに酷くした。
――様子がおかしい。
だが、その声をかき消すように別の声が轟いた。
――だって、こいつが悪い。
――他の男に笑った。
――礼を言った。
――誰のものか分からせる必要があった。
ウルの唇が、赤く割れた真珠の唇にそっと触れる。今度は優しく。だが支配を手放すことはない。
「……俺だけ、だろう?」
小さく囁いた声が、部屋に滲む。真珠は返事をしない。もう声にならないのか、ただ焦点の合わない目で虚空を見ていた。だが唇がわずかに動いた。
「……ウル……だけ……」
それを聞いた瞬間、ウルの目が細くなる。青が暗い夜の底のように沈む。理性なんて一瞬で吹き飛ぶ。
「そうだ」
吐息混じりの声が、狂気じみて低い。ウルは指先で真珠の顎を上げさせる。その顔は涙の跡で汚れて、唇は腫れ、頬には咬み痕が赤黒く刻まれていた。それを見て、ウルの下腹が疼いた。
――美しい。
――俺のもの。
――誰にも渡さない。
――壊れてもいい。
――俺のものとして死ぬなら。
ゆっくりと口角を歪めて笑った。その笑みは、救いのない独占と狂気の結晶だった。
「可愛い女だ」
ウルの指先が、真珠の髪を梳いた。汗と涙で張り付く髪を無造作に撫でながら、囁く。
「こんなに俺に縋って。泣きながら“俺だけ”って。……他に言えないようにしてやった」
真珠は声を失い、ただ荒い息を吐く。涙はもう出ない。それでも喉の奥でかすれた声が漏れる。
「……ウル……だけ……」
ウルはその言葉を聞いて、瞳を細めた。獣が獲物を味わうように。冷たい夜のように静かに、そして炎のように熱く。
「いい子だ」
その声は甘く、優しく、残酷だった。血だらけの頬に口づけを落とし、唇を噛んだ。そして低く、呟いた。
「死ぬまで、俺だけを見ろ」
そうしてもう一度、真珠を抱き潰すように覆いかぶさった。歪んだ愛と欲望が、部屋の中で重く満ちた香と混ざり合い、吐き気がするほど濃厚に漂った。




