真珠を選んだ理由
王宮の夜は深い静寂に包まれている。后専用居室のランプが、二人をぼんやりと照らしていた。真珠はウルの腕に抱かれたまま、胸元に顔を預けている。ウルの手は彼女の背中をゆっくりと撫でていた。
長い一日だった。
神官長との話し合いを終え、正式に神前婚約式を受けられることが決まった。安堵感と少しの興奮が落ち着き、今は二人だけの穏やかな時間だった。
真珠はウルの胸に耳を当てたまま、ぽつりと呟いた。
「ねぇ、ウル」
「なんだ」
「……なんで私を選んだの?」
ウルの手が背中で止まった。すぐに呼吸が深くなる。でも声はなかなか返ってこなかった。真珠は小さく笑って首を動かした。
「……やっぱり、答えたくない?」
茶化すように聞いてみる。ウルは低く鼻を鳴らした。
「……聞きたいのか」
「うん」
「……正直に言うぞ」
その声は低く、普段よりずっと真剣だった。
「最初は興味だった」
低い声が、真珠の耳元を震わせる。
「後宮に閉じ込めても泣いて叫ぶだけの女は多い。お前も最初は同じだと思った。でも、違った」
低く、でも迷いのない声だった。
「……お前を初めて見た時から、こうなる予感はしていた。全部、こうして抱き潰す未来を」
真珠は驚いたように顔を上げる。ウルはその瞳を真っ直ぐ見つめていた。紺碧の瞳が、夜の光を吸い込むように深い。
「ハワイの海で初めてお前を見た時。浮き輪に揺られて、誰にも媚びず、何も欲しがらない目をしていた。俺を見ても、興味の欠片もなかった」
ウルの声が低く濁った。
「……その時、自分の世界が初めて色付いた気がした。初めて、手に入れたいと思った。どうしても欲しいと」
真珠は息を呑む。ウルは目を逸らさず、言葉を続けた。
「話しかけても、本気で関わりたくないと顔に出す女だった。警戒心丸出しで、壁を作り、詰めても詰めても、するりと逃げる女だった」
次の瞬間、喉の奥で低く笑った。
「そんなの、気になるしかないだろ。俺だけを、見させたくなるだろ」
真珠は頬を赤くして、目を逸らす。
「……そんな風に思ってたの?最初から……?」
ウルは腕を強め、真珠を引き寄せた。
「最初からだ。お前を見た瞬間から、逃がさないと決めていた。俺のものにすると」
真珠は喉を鳴らした。
「……嘘でしょ」
ウルは笑わなかった。
「本当だ。でもお前も、そんな俺を選んだ。拒絶しきれず、泣いても、逃げても、最後は俺を見た」
髪を撫でていたウルの手が、次第にゆっくり下がってくる。肩、背中、腰へと。その手つきは優しく、なんだかいやらしい感じがした。
「お前じゃなきゃダメだった。お前以外じゃ、何も色がつかなかった」
腰を撫でていた手が。ゆっくりとあがり真珠の胸を優しく撫でる。
「お前以外を抱く気にもならなかった。お前が泣くのも、笑うのも、全部見たかった。全部、俺だけに向けさせたかった」
「…ウ、ルッ」
ウルは真珠の額に自分の額を押し当てた。
「お前は、俺を狂わせた女だ。お前のせいで、もう後戻りできなくなった」
吐息が近く、あとちょっとで触れそうなくらい唇が近い。
「……責任を取れ」
真珠は頬を紅潮させ、小さく笑う。
「私も、もう戻れない。あなたのせいよ」
ウルの呼吸が乱れ、腕がきしむほど真珠を抱きしめた。喉奥で低く、でもはっきりと囁いた。
「……いい女だ。全部、全部、全部俺のだ」
ゆっくり近づく唇。どちらからともなく、唇を重ねた。熱い唇に、口の中で暴れる舌に、溢れる唾液に、まるで媚薬にように侵されていった。




