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でも本当はやっぱり囲いたい

財務院を出て、長い廊下を護衛に囲まれながら歩き抜けた二人は、真珠の専用居室の前に着いた。重い扉を護衛が開くと、柔らかな光のランプが灯る広い部屋が広がっている。


「お后様」


護衛長が深く頭を下げる。ウルが僅かに顎を動かすと、護衛たちは無言で後ろへ下がった。そっと扉が静かに閉まる。その音が、二人きりになったことを強調した。


真珠はそっと吐息を漏らす。


「……はあ」


張り詰めた背筋を少しだけ緩める。アメニア王宮の空気はひんやりしているのに、額に汗が滲んでいた。ゆっくりと振り返ると、すぐそこにウルがいる。紺碧の瞳は変わらず鋭い。だが今は役人を黙らせる王太子ではなく、ただ一人の男の目だった。


「座れ」


短く言った声が低く響く。真珠は微かに笑って、従う。大きなソファに腰を下ろすと、自分の身体の重みを感じる。ウルはすぐ隣に座った。背もたれに深くもたれ、肘を肘掛けに置き長い足を組む。もうそれだけで、王の威厳が溢れていた。


室内を照らすランプの柔らかい光が、二人の間に落ちる。


ウルはゆっくりと真珠の方を向く。大きな影が真珠を覆い、その気配に真珠は瞬きを繰り返した。そして、ウルの手がそっと肩に置かれる。


「後ろを向け」


小さな命令。真珠は驚きながらも、ゆっくりと身体を反転させた。背中を向けた瞬間、ウルの腕が伸びてきた。肩を引き寄せ、後ろから深く抱きしめられる。ウルの胸に、真珠の背がぴたりと当たった。背中越しに硬い心音が聞こえ、安心するように真珠は目を閉じた。


「……お前は后だ」


ウルの声が低く、耳元を震わせた。


「俺が選んだ女だ。誰にも触れさせない。誰にも渡さない。だから、強くいろ」


その言葉は、自分のすべてを認めてくれているようで。真珠は唇を噛み、でも頷いた。


「うん……ウルがいるなら、強くなる。私、もう泣かないよ」


彼のこのぶっきらぼうな言い方。でも今では何より安心する。


「絶対に」


ウルの腕の力が増した。背中を大きな腕で包まれ、顎がそっと真珠の肩に落ち、荒い呼吸が耳にかかる。


「……ここでは泣いたっていい。外でだけ后でいろ」


ドキッとした。プレッシャーに押しつぶされそうな自分の気持ちを、理解してくれていたのだ。小さく震える肩を、ウルが優しく押さえる。


「俺が受け止める」


それから、ウルは何も言わず、真珠が落ち着くまで抱きしめ続けた。ウルは背後から抱きしめたまま、じっと動かない。大きな手が、肩から鎖骨、腕を包むように滑り、まるで逃がさないと言っているかのようだった。


「……俺の、真珠」


その声は低く、くぐもっていた。真珠はびっくりして振り返ろうとしたが、ウルの腕に阻まれた。


「動くな」


言われた真珠は、肩を震わせながら、でも少しだけ笑った。


「……ウル」


「なんだ」


「すごい顔してたよ。さっき」


ウルが眉を寄せたのが分かった。


「……当然だ。俺の后の命令を聞けない愚か者はいらない。命があって感謝するべきだ」


物騒な物言いだが、その中には真珠への愛が溢れている。ウルは髪をゆっくりと撫でる。その手つきはとても優しい。次に彼は髪に唇を落とした。


「お前は、泣いても可愛い。……全部、俺の」


真珠は目をぎゅっと閉じて、息を飲む。


「……ウル」


「なんだ」


「ありがとう」


その声は震えたけれど、真珠自身の声だった。ウルは喉の奥で小さく唸る。


「礼はいらない、当たり前のことだ。お前を守るのは俺の役目であり、俺しかお前を守れない」


そう言うと、腕の力がさらに強くなる。真珠が苦しそうに肩を上げたが、ウルは緩めなかった。


「俺がいる」


愛されてるな、そう感じてきて胸が温かくなる。強まる腕に力に、なんだか可笑しくなって少し笑ってしまう。


「……ウル、大丈夫だよ。私はあなたの后、だから」


小さな笑い声を聞いたウルは、呼吸が少し詰まる。腕は真珠の腰を抱きしめ、ビクともしない


「……わかってる」


真珠はまた、小さく笑った。


「……うん。ウルだけ」


ウルは眉を寄せ、目を閉じる。そのまま真珠の肩に額を押し当てた。


「……よく頑張った。世界で一番尊い女だ」


「……ひどい。そんなこと言われたら、ほんとに泣いちゃうじゃない」


ウルは低く、だがはっきりと囁く。


「泣けばいい。全部、俺が受け止める」


部屋の中は二人の声しかなかった。重い石壁に囲まれた空間が、今ただ二人だけの世界。泣き声と、低い囁き。そして、互いを確かめ合うような温もり。


ウルは、真珠の髪を撫で続ける。濡れた頬に触れた指先が、震えるように優しかった。


「……俺の。全部、俺のだ」


真珠は目を閉じ笑いながら頷く。


「ふふ、全部、ウルの」


ランプの明かりが二人を柔らかく照らしていた。ウルの大きな腕の中で、真珠はまだ涙を拭き終えたばかり。でもその抱擁は少しも弱まらない。むしろ、心音が速くなっているのが分かった。


真珠が小さく身じろぐ。


「……ウル」


「ん」


「……もう、大丈夫だよ」


それを聞いても、ウルは腕を解こうとしなかった。


「まだ泣けるだろ」


低い声が耳元を撫でる。


「泣いてるお前も、可愛い」


真珠は顔を赤らめて小さく抗議する。


「……さっきから可愛いって、泣いてるのに」


ウルは鼻を鳴らした。


「泣いてるお前が欲しい。お前しかいらない」


その声があまりに真っ直ぐで、真珠は息を呑んだ。胸の奥がじんわり熱くなる。でも同時に、どうしようもなく恥ずかしくなった。


「……っ、やめて……」


「やめない」


ウルはすぐに被せた。


「もっと言え」


真珠は息を詰めて、視線を泳がせる。


「……な、にを……」


「分かってるだろ」


ウルの声が低く、喉の奥で響いた。


「言え。お前が欲しいのは誰だ」


毒のように耳の中を這い回る美声。


「お前以外じゃ、俺はどうなる」


真珠は顔を真っ赤にして首を振った。


「……いや…」


ウルは耳元を噛むように近づけた。


「言え、言わなきゃ離さない」


熱い舌が真珠の耳を這い出す。初めは輪郭から、ゆっくりねっとり。


「一日中抱き潰すぞ。さあ、お前の声で聞かせろ」


真珠は唇を噛んだ。でも、ウルの熱と匂いが耳元をくすぐり、抵抗できなくなる。喉が詰まって、やっと掠れる声を絞り出した。


「……ウル、しか、だめ……」


「他の女は?」


ウルの声が低くせせら笑う。真珠は顔を背けようとしたが、腕に阻まれた。意地悪スイッチの入ったウルは、とことん真珠を追い詰める。それはそれは楽しそうに。


悔しくなった真珠は、ちょっとした意趣返しを思いついた。少し恥ずかしいが、やられてばっかりもなんだか悔しいから、言ってやる。


「……私、以外じゃ……勃たない……くせにッ」


その瞬間、ウルの呼吸が止まった。紺碧の瞳が鋭く細まる。そして喉奥でくぐもった笑いが漏れた。


「……そうだ。分かってるなら言え。お前が俺をどうしてるか、言え」


真珠は顔を真っ赤にして、今にも泣きそうに震えた。あんまりダメージを受けていないウルに、またもやり返される。でも、ウルの腕の中で逃げられない。真珠は羞恥に悶えながら、でも言わない限り解放されないことを知っているため、声を絞った。


「……私、が……ウルを……勃たせてる」


もう恥ずかしくて死んでしまいそう。


「ウルは、私でしか……だめ」


やっと言い終わった。その告白を聞いたウルの目が暗く光り、次第に呼吸が乱れる。


「そうだ、お前だけだ」


妖艶な笑みを浮かべ、赤い真珠の耳を更に甚振る。


「お前が泣いても、怒っても、もう俺はお前でしか勃たない」


「あ、あぁっ」


熱い舌が耳に中に入ってくる。卑猥な水音が耳の中で大きく反響した。


「他の女は吐き気がする。お前じゃなきゃ、俺は抱けない」


「あ、んっ あぁっ」


真珠は涙がまた滲んだ。でもそれは怖さじゃない。ウルにしか向けられない熱だった。


「……わ、たしも、ウル、だけ」


ウルはそれを聞いて、深く吐息を落とす。顎を真珠の肩に預け、その耳元で囁いた。


「よく言った」


そして唇が首筋を這い、低く濡れた声で呟いた。


俺だけの后だ

全部、俺が奪う

全部、俺が与える

そして、俺の女だ


「……本当は誰にも見せたくない。口も利かせたくない」


「私もだよ、あなたを誰にも見せたくないんだから」


二人は小さく笑い、そっとソファに横になった。二つの影が重なり、翌日の昼過ぎまで、部屋から誰も出てこなかった。


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