襲撃の真実
ウルはしばらく黙っていた。言葉を選ぶように、何かを思案するように。重い空気が寝室を満たしていく。真珠はその沈黙に耐えきれず、小さく唇を噛んだ。その仕草を見て、ウルはようやく声を絞り出す。
「……後宮を襲ったのは、外の賊だけじゃない」
声は低く、くぐもっていた。思わず真珠の眉が寄る。
「どういうこと?」
ウルは彼女から目を逸らさず、冷たい紺碧の瞳が、真っ直ぐに捉えていた。
「王国の内部の人間が関わっていた」
言い切る声の硬さに、真珠は息を呑んだ。いつも端的に話す彼の口ぶりが、今日は異常なまでに重く沈んでいる。嫌な予感がムクムクと膨れ上がり、胸がざわついた。
「内部って……?」
「保守派だ」
真珠が小さく喉を鳴らす。ウルは一度だけ深く息を吐いた。そして、吐き捨てるように言葉を落とす。
「異国の女を王妃に据えることが、連中には我慢ならなかったようだ」
「そんな…」
真珠は目を見開く。ここに閉じ込められてから、彼女の耳に届くのはウルが選別した情報のみ。王国の次期王位継承者の伴侶として、自分は不適格ではないかとは思っていた。だが聞こえてこない噂に、すっかり頭から抜けていた。自分はやはり、ここでは異質なんだと。そっと顔を伏せる真珠を見ながら、それでもウルは冷酷に続けた。
「“王太子を操る魔女”だの、“王家の血を汚す異物”だのと吹聴していた連中だ」
「なんで、そんなこと……」
予想以上の悪評に震えてしまった声に、ウルの目が細められた。
「馬鹿だろう」
声は低く、切り裂くようだった。
「だが奴らは本気だった」
真珠は言葉を失い、ただウルの瞳を見つめる。紺碧のその奥には、燃えるような憎悪があった。
「……誰が、指示を出したの?」
震える声で問う。ウルの喉が動き、吐く息は砂漠の夜風のように冷たかった。
「保守派の有力大臣だ」
真珠の胸が締めつけられる。口から小さな嗚咽が漏れ、細い肩は震えた。
「その娘も絡んでいる。……お前を排除すれば、自分が正妃になれると信じ込んでいた」
「……ウル……」
真珠は言葉を失い、顔色が蒼白になっている。ウルは感情を押し殺したように続きを告げた。
「お前を捕らえて……二度と俺が見つけられないようにする計画だった」
「やめて……」
真珠は耳を塞ぎたかった。けれど、ウルはそれを止めるように手を添える。真珠の手を包み込み、逃がさなかった。
「聞け」
低く、命令する声。
「お前が知っておくべきだ」
「……ウル」
「お前をそういう目に遭わせようとした。お前を俺から奪おうとした」
怒りで声が途切れそうになりながらも、それでも最後まで言い切る。
「だから……全部潰す」
真珠は涙を流す。声もなく、ただ震えて泣いた。その頬をウルが指で拭った。拭っても拭っても止まらなかった。
「俺の唯一を、あんな目に遭わせようとした奴らを……俺は許さない」
ウルの声も震えていた。
「俺の檻から逃げられないと言っただろう。お前は俺のだ。どんな手を使ってでも守る」
真珠は嗚咽した。
「ウル……」
「泣くな」
それでも泣き続ける真珠の頭を、ウルは抱き寄せた。抱きしめて、額を寄せた。
「もう、二度と離さない」
低い声が、決意のように震えていた。




