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生粋の支配者(ウルside)

白々とした朝の光が、窓から部屋の中を静かに満たしていた。夜の余熱を孕んだ寝具は、まだ湿り気を帯びていて、重たく絡みついていた。



真珠はその真ん中で、小さく丸まっていた。汗で張り付いた髪が頬にかかっていて、昨夜の涙の跡が乾ききらずに残っている。喉が時折、弱々しく鳴った。夢の中でも泣いているのかもしれない。それでも、寝息は深かった。荒い呼吸を落ち着けた後の、限界まで泣いて眠った人間だけが見せる安らかさ。


ウルはその隣にいた。半身を起こして、乱れたシーツを真珠の肩口までしっかり引き寄せる。彼女の身体を冷たい空気から隠すように。そのシーツを撫でる手は大きいのに、不器用で、でもとても慎重だった。


指先で彼女の髪をゆっくりと梳く。寝返りを打った拍子に頬に張り付いた髪を、そっと耳にかけた。ほんの少し触れただけで、真珠が小さく呻く。途端にウルの喉は詰まり、指が震えた。


「……すまない」


声にならないほど小さく呟いて、自分の額を彼女の額に当てた。息を合わせるように深く呼吸をする。寝息がかすかに震えるのを感じて、胸が痛んだ。夜が明けてもなお、彼女は夢の中で自分に縋っていた。


その時、扉の向こうでわずかな気配が動いた。衣擦れが僅かに響いてくる。女官たちが息を潜め、囁き合う声。


「……そろそろお声がけを……」「殿下のお支度を……」「真珠様の……お身体を拭き上げ……」


音を殺しても漏れてくる会話が、耳に突き刺さる。その音を聞いたウルは、ゆっくりと目を細めた。さっきまでの慈しむような目が、鋭利な刃に変わった瞬間だった。


腕の中の真珠をもう一度引き寄せる。白い肩をシーツごと抱き込んで、自分の胸に押し当てた。すると真珠の喉が小さく鳴った。だがそれでも起きない。泣き疲れて、何も分からずに眠っている。その弱さを、決して他人に晒させるものか。


扉の隙間がきしりと鳴った。誰かがそっと開けようとした音。その瞬間、ウルの声が落ちた。底冷えするような低音だった。


「下がれ」


女官たちの息が止まったのが分かった。音も気配も、一瞬で凍りついた。ウルは目を細めたまま、扉の向こうを睨む。真珠の頭を抱え込みながら、その髪に唇を落とした。真珠には慈しみを込めて口づけるのに、目は殺気を宿していた。


「今は必要ない」


さらに低い声で繰り返す。その声を聞いた女官の一人が、小さく息を呑む音がした。足音が揺れて、一歩後退した気配。でもまだ完全には退かない。彼女たちも職務を理解していた。後宮の主と王太子の世話をするのは当然の義務。だが、それを踏み越えた先にあるものを、想像するのもまた彼女たちだった。


ウルはゆっくりと息を吐いた。真珠の頬に額を当てたまま、声を潜める。今度は呪詛にも似た声だった。


「……近づくな」


まるで蛇が囁くように低く、鋭く。その声を聞いた真珠が小さく呻き、喉を震わせる。でもまだ目を覚まさない。ウルはその声を聞いて、さらに腕を強くした。


「起こすな」


決定的な命令を落とす。次の瞬間、外の気配が完全に引いた。女官たちが全員、一歩、二歩と後退した音がした。息を詰めて、誰も声を出さない。それは、恐怖だった。王太子の命令は絶対だ。でもそれ以上に、その声には人を震え上がらせる獣の気配があった。


「手を出すな」

「奪うな」

「俺のものだ」


全員にそう言っているような声だった。


部屋の中は再び静寂に包まれた。ウルはベッドの中で息を吐く。目を閉じて、真珠の髪に顔を埋めた。肩を抱え込み、シーツごと包み込むように。


「……大丈夫だ」


今度は限界まで落とした声で、喉を震わせた。


「誰も入れない。誰も起こさない」


真珠は何も知らずに寝息を立てていた。泣きはらした目を隠して、額を自分の胸に押しつけて眠っていた。その髪を撫でる指が、今にも壊しそうに強張った。


「……誰にも渡さない」


唇を額に落とすと、微かに真珠の身体がびくっと震えた。


それでも目は開かない。


「お前は俺の女だ」


喉の奥で震えた声は、執着と愛情の境界をなくしていた。


「もう二度と離さない」


その宣言を、誰にも聞かせないように、でも真珠の耳元に落とした。額を擦りつけるたびに、心臓が痛むほど高鳴る。眠る彼女の吐息に合わせて、自分の呼吸を合わせた。まるで自分も縛られているように。いや、もうとっくに縛られていた。ウルは目を閉じて、苦しげに眉を寄せた。


「……愛してる」


呟く声は、誰にも届かないように掠れていた。


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