やり直しの初夜
熱が絡み合う。布団の上で、月明かりだけが二人を見ていた。もう泣き止む必要もなかった。息を殺す必要もなかった。ウルの大きな手が、真珠の背を抱きしめる。指先は乱暴で、不器用で、でも必死だった。真珠はそれが堪らなく嬉しかった。
声が喉の奥で震えるたびに、ウルはキスを落とした。肩に、首筋に、鎖骨に。どこにも逃がさないと刻みつけるみたいに。それを真珠は目を閉じて受け入れる。頬を濡らす涙を指先で拭われるたびに、息が詰まった。
「……怖いか?」
低く響く声が耳を打つ。どこか硬い彼の声に、怖がっているのは彼の方だとわかった。
「…嬉しくて、堪らないの」
喉が掠れて出る声。真珠は自分の気持ちを包み隠さず伝える。そう決めたから。
「泣いてもいい?」
ウルは顔を近づけ、真珠の涙を舌先で掬った。
「泣け」
吐息混じりに言った。
「俺がいる、ずっとな」
真珠の胸がひくついた。もう我慢できなくて、声を上げて泣いた。でも逃げなかった。腕を回して、ウルを抱きしめ返した。全身で、離さないように。
布団が大きく沈む。重みが心地よかった。大きな体に覆われて、身動きが取れないのに、怖くなかった。彼の息が荒くなっても、むしろ嬉しかった。ウルの喉が鳴る音が近い。額を寄せ合うと、互いの涙が混ざった。
「真珠」
名前を呼ぶ声が、泣きそうに震えていた。真珠は頬を擦りつけると、唇がまた触れた。長く、深く、何度も。息を吐くたびに熱が混じっている。ウルの手が背を撫で下ろし、指先が肌を滑るたびに真珠の身体が小さく震えた。でも震えを止めなかった。
「…あなたが欲しい」
小さく、掠れた声で囁いた。
「全部、欲しいの」
ウルが喉を震わせて息を飲む音が聞こえる。
「……本当か」
声が割れていた。
「俺は……もう止められない」
「いいよ」
涙目で微笑んだ。
「止めないで」
ウルの手が真珠の腰を抱えた。力がこもって、引き寄せられる。息が詰まって声が漏れたが、痛くはなかった。ウルの熱が伝わって、真珠の呼吸が乱れる。目を見開くと、ウルも息を荒げていた。額に汗が滲んで、睫毛が濡れていた。
それを見た瞬間、胸がきゅうっと締め付けられた。愛おしさが爆発しそうで、喉が詰まって「好き」が言えなくなる。代わりに涙が零れた。ウルがそれを舌先で掬い、唇を重ねた。深く、強く、でも震えるほど優しく。もう何も隠せなかった。
肌が触れ合い、足が絡まる。ウルの手が真珠の髪を梳いた。肩を抱きしめ、背を撫でる。荒い呼吸が耳元で熱を吐いた。
「真珠……可愛い」
小さな声が吐息とともにこぼれ落ちる。
「全部、可愛い」
涙がまた滲んだ。
「言わないで」
「言う」
「恥ずかしい」
「聞け」
ウルが喉を鳴らして噛み殺した声で言った。
「全部、俺だけのものだ」
「……うん」
声を絞り出して、掠れて、泣き笑いになった。
「ウルだけのものだよ」
それを聞いたウルが、小さく震えた。そしてもう躊躇わなかった。熱が重なった。身体の奥まで、ウルを感じた。声が漏れ、押し殺せない。ウルの手が指先まで強張って、真珠の背を抱きしめた。
「痛くないか」
息が乱れて絞り出すような声。真珠は首を振った。
「大丈夫」
ウルは優しく、慎重に涙を拭った。
「ウルと、こうなりたかった」
ウルは喉を震わせて呻く。
「……俺もだ」
「うん」
「何度も……思った」
「私も」
「お前を壊すくらい抱きたいと」
涙が滲んだ。
「いいよ」
声がかすれた。
「ウルに、全部あげる」
その言葉が落ちた瞬間、ウルの身体が大きく震えた。そして深く、強く抱きしめる。二人は声を殺さず名を呼び合った。喉が枯れるまで、名前を呼び続けた。ウルの指先が肌を滑るたび、次から次へと涙が滲んだ。でも、今度は幸せの涙だった。痛みも、震えも、その全部が愛しい。
夜が深くなるまで、二人は離れなかった。何度も確かめ合い、泣いて、笑って、また泣いて。それでも、どちらも手を離さなかった。息が落ち着くころ、ウルが真珠を抱きしめたまま頬を寄せた。
「……もう絶対に、離さない」
低い声が震えていた。真珠は小さく笑う。
「うん。私も」
指先でウルの頬を撫でた。
「ずっとそばにいるから」
ウルが目を閉じて、額を寄せた。
「愛してる」
「私もだよ」
涙を零したまま、唇を重ねた。もう二度と声を失わないように。この夜を、絶対に忘れないように。




