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アメニア王室からの発表

それは、突如として公開された。


アメニア王室の広報部が「新王子誕生を祝し、王太子ご一家の記念写真を公式発表いたします」とSNSに投稿した一枚の画像。


王宮の黄金装飾が輝く広間を背景に、真珠が新生児を優しく胸に抱き、その身に寄せるように立つのは、アメニア王太子──シン・ラーマダ・ウルシュガ・アメニア。


その写真が公開された瞬間、世界中のネットワークが軽く息を呑んだ。


スマートフォンの画面に映し出されたのは、まるで異世界の聖画を切り取ったような三人の姿だった。


中心にいるのは、一人の女性。

白銀に輝くような柔らかなローブを纏い、細い腕で大事そうに赤子を抱きかかえている。その表情は穏やかで、柔らかで、神聖ですらあった。少し疲れたような目の下には影があるものの、それを包み込むように微笑むその姿は、見る者に強い印象を残した。


彼女の腕の中にいる小さな命――新生児の顔は白い紗に包まれており、はっきりと見えはしない。

けれど、ちいさな指、ふっくらとした頬、母の胸に静かに寄り添うその様子だけで、どれほど大切にされているかが伝わってくる。


そのすぐ隣、ぴたりと彼女の肩に身を寄せて立つ男の姿がある。

漆黒の髪に、氷のような紺碧の瞳。まるで彫刻のように整った横顔に、一切の感情を見せぬまま、静かに視線をカメラの外へ向けている。だが、その手は確かに妻の腰を支え、その瞳には言葉にできない想いが滲んでいた。


アメニア王太子。かつて「神より与えられた美貌」とまで称された若き継承者は、今、愛する妻とその間に生まれた新たな命を前にして、氷のような表情を崩すことなく、しかし確かな「在るべき姿」として、その場に立っていた。


中でも注目されたのは、あくまで自然体の真珠の姿だった。元は一般市民でありながら、今や異国の王太子妃として確かな存在感を放っている。彼女が抱くその赤子に――王家の未来が託されていることを、人々は否応なく認識した。


写真一枚で国の格が伝わることがあるとすれば、それはまさにこの一枚だった。


美と静けさと、圧倒的な支配力と。全てが詰まった、アメニア王室の“奇跡の三人”による、世界発信の肖像。それは神話ではなく、今まさにここに在る現実として、世界を震わせた。


まるで絵画。いや、絵画ですら届かない。世界は、ただ、言葉を失った。


報道各社の速報は、予告もなく、雪崩のようにネット上を駆け巡る。


メディアはどこも「芸術的」「神聖」「伝説級」という表現を繰り返しながら、明らかに言語の限界を迎えていた。


アメリカのメディアは、速報バナーのまま数時間写真をトップに据え、文章はたった一言「A royal portrait, unlike anything before(前代未聞の王室肖像)」のみ。


イギリスの国内大手メディアは、慎重に解説文を添えながらも、最終的に「この写真が撮られた瞬間、神が存在すると信じた」と締めた。


ドイツの国内メディアは冷静に見えて、特集記事のサブタイトルに「あのアメニアの王太子が、微笑んだ」と感嘆詞を入れ、感情を抑えきれていない。


フランスのメディアは「ラファエロをも嫉妬させる構図と光。これは王家というより、神話の家族」と評し、芸術論の専門家を呼び寄せて討論番組まで開いた。


アラブ諸国の放送局では、ウルの衣装と真珠の抱く王子の姿が「新しい預言的象徴ではないか」という宗教的側面からの解釈すら現れ、一部地域では特番に差し替えられるほどの騒ぎとなった。


中国では「仙人のような美しさ」「絵巻の中の皇族」と熱狂的に称され、中国国内のSNSでは「これは写真ではない、天界からの祝福」とバズった。


日本では、テレビ局が緊急テロップで「アメニア王太子一家のお写真公開」と流しただけでSNSが炎上。SNSではトレンドが「真珠さん美しすぎ」「赤子なのに国宝」「王太子の顔面力」と軒並み埋まった。


特に注目されたのは、真珠が抱く新生児の瞳。まだわずかしか開いていないその瞼の奥に、一瞬だけ映った紺碧の光。


「ウルシュガ王太子と同じ……いや、それ以上に深く、濃い、青だった」


そう報じたアルゼンチンの記者のコラムは、翻訳されて世界中を駆け巡る。


インドのニュース番組では「伝説の転生が起きた」とまで言われ、アフリカではアメニア王家の存在を知らなかった層までもが、SNSに写真をリポストし始めた。


南米では「アメニア王室の“新しい時代の象徴”」として写真が拡散し、名前も公開されていない時点で「#RoyalBaby」のタグが20万回以上使われた。


いずれの国も、言葉は違えど共通していたのは──

「これが現実なのか」「なぜ、これほどまでに完璧なのか」という、感情の混乱。


まさに視覚の暴力と評された一枚の写真。それは、王権の威厳でもなく、純粋な神性でもなく、ただ一つの「家族の愛」が滲んでいた。


そして全世界が理解してしまった。これは、歴史の始まりだと。


アメニア王太子一家、ついにその姿を現す──。その日を境に、世界の王室報道は、明らかに次元が変わったのである。







アメニア王太子夫妻の第一子――正式名「エル=ザラディア=ナーム=ランレイズ・アメニア」が誕生したという報せは、王宮発表と同時に世界のネットを焼き尽くした。


だが、ただの王族の出産では終わらなかった。なぜなら当の父親、アメニア王太子ウルシュガ――彼はSNS界隈において、すでに世界が認めたヤンデレ王太子として、神格化された存在だったからである。




【#世界が震えた #王太子の遺伝子】


写真が公開されるや否や、まずトレンドに上がったのはこのタグ群だった。


#王太子の血統強すぎ問題

#美貌の暴力遺伝子

#真珠さんよく耐えた

#王太子の執着が形になった瞬間


SNSでは、記者会見もないのに解説スレッドが乱立する。


「第一王子爆誕と聞いて、真っ先に思ったのは“王太子、種付け完了したんだ…”だった私を許してほしい」


「赤子が寝てるベッドの隣に椅子持ち込んで監視してそう」


「第一王子、お前は将来、お前の母は俺のものだって言われて育つのか……強く生きろ……」




【#王太子は裏切らない #愛が重すぎる】


動画共有サイトでは、投稿欄にこんなテキストが登場した。


「真珠さんを孕ませて、抱いて、世界に晒して、守ってる……王太子は、一貫して真珠だけなの、知ってたけど、赤子が生まれて、より重くて尊いものになってる」


投稿には真珠とランを抱くウルの横顔――その目が、静かに、深く、狂っていて。


「この人はこの先一生、この家族を囲って離さないんだろうな」


そんな未来が確定しているかのような狂気的美しさが、見る者の背筋を凍らせ、そして沼に突き落とした。


最終的に流行った迷言集には以下のようなものがある。


・「王太子は真珠しか見ていない。世界に女が何人いようと」

・「後宮で愛された女の末路:幸せそうで腰砕け」

・「生まれた瞬間から世界に“愛された証”を見せられる王子が気の毒で尊い」

・「王太子、何もかもやりすぎ(もっとやれ)」

・「この王家、正気はとっくに王宮に置いてきた」


そしてこの一文が、世界を締めくくった。


「アメニア王太子ウルシュガ。“世界一のヤンデレ”として、その愛の深さと重さを、今日、新たな命とともに刻んだ」


それは祝福。

それは畏怖。

それは、愛という名の狂気。


世界は――そのすべてを、歓喜して受け入れたのだった。







そして隣国、ヒースグランにも第一王子誕生の報が入る。


「救いたいと思っていた――いつの間にか、恋をしていたんだな」


レオンは、画面の中で微笑む彼女と、その腕に抱かれた幼子を見つめた。隣には、彼女をこの世の何よりも愛していると語るような男の姿。


そこに、自分の居場所はなかった。


静かに拳を握りしめ、レオンは目を逸らした。それが、終わりだった。


その背に、誰かがそっと肩を叩いた。


「……殿下、次に行きましょう。まだ王子は独身です」


「……黙れ」


「選び放題です」


「黙れと言ってる!!!」


部屋の片隅で、執務机にすでに第二王子用の、次なる嫁候補リストが山積みになっていたのは──まだ、本人は知らない。


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