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とんでもない夜(※医師の指導に従いましょう)

産後三日目の夜。

月光が白絹のカーテンをなぞり、寝台の上には二人の影が重なる。穏やかな静けさなど、とうにこの部屋には存在しなかった。


「……っ、また……ッ、やだ……ウル……それ、そこ……ッ」


「黙れ。ここに、俺の印がある。そうだろう?」


低くささやく声。その吐息は、真珠のうなじに宿る刻印をなぞり、そっと舌先を這わせた。


──ビクン。


痺れるような感覚が、脊椎を駆け上がる。理性が砕けそうになるのを、真珠は必死に堪えた。


「やだって……言ってるのに……ッ、なんで、いつも……こんな……ッ、ずるい……の……」


「ずるくて、いい。お前は俺のだ。全部、俺のための身体だ」


「ちがっ……!」


反論は、再び刻印を吸われた瞬間に消えた。体が勝手に、ウルを求めてしまう。皮肉にも、刻印が反応していることが、何よりも彼に愛されているという証明のようで──それが悔しくて、切なくて、どうしようもない。


「……ッ、や……あ……そんな、ゆっくり、しないで……!」


「ゆっくりが、いいんだろう?」


ウルの指先が、震える真珠の太ももをなぞる。まるで聖なる器に触れるような丁寧さで。それが却って恐ろしく、ぞっとするほど淫靡だった。


「ちがっ……やさしくって意味じゃないの……っ、これ……こんな……!」


「わかってる。だから、長く抱いてやる」


彼はそう言った。本当に、一晩中かけて、ゆっくりと、真珠の身体を味わう気でいるのだと。


──押し倒されていない。

──暴力はない。

──ただ、執着と狂気が、愛という名を纏って優しく触れてくる。


「お前の中、まだ熱い。……出産したばかりなのに……この深さで、吸い付いてくる」


「う……うそ、言わないで……っ、そういうの……もう、ほんとに無理……!」


「無理じゃない」


何もかもが、静かだった。ただ、耳元で甘やかすような声と、粘つくような熱の波が、何度も何度も、優しく──けれど容赦なく、真珠を飲み込んでいく。


「ウル……お願い……っ、もう、やめて……!」


「なら、孕め。次の命を、その身体に刻め……俺が与えてやる」


「さ、産後三日目で次のこと考えないでよ……っ!!!」


叫んだ瞬間、また刻印を舐められる。疼く。熱い。どうして。どうして、こんなに。


「お前が産んだ証を、次の命でもう一度焼きつけてやる」


「ちが……ちがう……違うのに……! でも、でも……ッ!」


泣きながら、感じてしまう。赤ん坊を産んだ後の身体なのに、どうしてこんなに──


「……ウル……、私、ほんとに、おかしくなっちゃ……!」


「それでいい。おかしくなっても、俺が全部引き受ける。お前の声も、涙も、身体も……この俺が、全部抱きしめる」


まるで呪いのような愛。けれど、それは確かに、真珠の奥底に溶け込んでいく。この夜、何度も絶頂しながら、彼女は泣き続けた。


──これが、全然穏やかじゃないスローセックス。

狂気と快楽と、執着が渦巻く夜の、長い、長い抱擁。


疲れた身体に、愛しい重みを感じながら眠りかけていた真珠の静寂は、低く囁くような声で破られた。


「……おい、寝るな」


瞼が重たくて、反応が遅れる。うつろな意識のまま、ぬくもりを確かめるように胸元の赤子へ手を伸ばそうとすると、その手を掴まれて押し返された。


「さあ……今から本番だ」


その一言に、目が覚めた。


「……ちょ、ちょっと待って、ウル……まだ、私、身体が……っ」


「知ってる。だから、ゆっくりする。穏やかに、優しく」


彼の言う穏やかが、世間一般と致命的に乖離していることを、真珠は身をもって知らされた。あの夜、孕ませると決めたあのときも、優しくすると言いながら一晩中離してくれなかった。


けれどウルは、いつもどこか理性をまとっている。それが今夜は――なかった。真珠の脚の間に膝を差し込み、乱暴ではないのに、有無を言わせぬ重みがかかる。


「なに、して……」


「俺の真珠」


耳元に吐息がかかり、硬質な指先が産後の敏感な肌に、慣れた動きで触れてくる。もう、嫌というほど彼を知っている身体は、戸惑いながらも彼の指の軌跡を覚えていて、逃げられない。


「まだ、駄目……だって、ほんとに、産後で……っ」


「医者の指示は聞いた……だから、深くまでは入れてない。けど……触れたい」


「…………」


この男は。どうして毎回、ギリギリを突いてくるのか。唇にそっと触れられたと思ったら、そのまま顎を引き上げるようにして深く口付けられる。真珠の抗議の声はすべて、湿った舌とともに喉奥に押し込まれた。


「お前は、俺のものだろう……だから、触れる」


淡々と、言い切る。


乳房は授乳で張っているというのに、彼の手は容赦なく滑り込んでくる。その指先に吸いつくような刺激が走るたび、真珠の身体が勝手に震えた。


「……っ、だ、め……赤ちゃん、隣に……」


「聞こえない。あれは乳母の部屋にいる」


ウルは真珠のうなじを指先でなぞった。ぞくり、とする。あの終誓の聖針の刻印は、いまだ鮮やかに残っていて、触れられるたびに脳が焼けるような熱を走らせる。


「……ッあ、や……っ」


「反応するな。まだ挿れてない」


冷たく言いながら、彼の指は恥ずかしいほど的確に弱点ばかりを撫でてくる。産後の身体は過敏で、快感の閾値が狂っているのか、すぐに涙が滲む。


「なんで……そんな、余裕なの……っ」


「三日我慢した。俺にとっては一生分だ」


真珠が震える脚を閉じようとすると、それを軽く開いて固定される。優しい口づけが、だんだん熱を帯び、皮膚を焼くような愛撫に変わっていく。


「産後の癖に……可愛い顔、するな」


息が詰まる。


目の前の男は、ただ甘えているのではない。独占欲を燃やし、愛を執着に変え、手加減を甘さに変換することで、支配しようとしている。


「お前の全部を、俺だけのものにする。それは……これからも、ずっとだ」


真珠は、泣きそうな顔で彼を見上げながら、小さく震える唇で返した。


「……せめて、ゆっくりして……」


「当然だ」


そう言って、彼は真珠の脚を持ち上げて――その先は、夜が深く静かに、けれど濃密にふたりを呑みこんでいった。







朝の陽光が差し込む後宮の回廊。


その中心を、ぎこちない足取りで歩く一人の女性がいた。王太子妃。新たに母となった后妃。――真珠。


見目麗しいその姿には、神聖さすら漂っている……が、今朝に限っては違った。


「……ッ、いった……」


彼女は腰に手を当て、ほんの少しでも傾いた床に出くわすと、ぴくりと眉をひそめてよろめく。女官が駆け寄るが、手を振って制止。


(ああもう……なんであんなにされて……っ)


産後三日目で穏やかな触れ合いどころか、ゆっくり時間をかけて解かれるように、気づけば朝まで――その余波は、全身に来ていた。


「……動けるのが不思議って、医師に言われたわけだわ……」


息を整えるように壁際に寄りかかる。その横を、まさに王のごときオーラをまとって歩いてくる男がいた。


「……お前、また具合が悪いのか?」


それは、今朝に限ってやたらと機嫌のいい――王太子ウルシュガ。普段から威厳ある立ち居振る舞いの彼だが、今朝はさらに表情が柔らかく、なんなら珍しく鼻歌まで口ずさみそうな勢いだった。


真珠が鋭く睨む。


「ウル……原因は、あなたよ」


「俺は知らん。夜の儀式に応じたのはお前だろう?」


「選択肢なかったじゃない……!」


小声の言い合いを、女官たちは耳に入れぬふりをしながら後ろに控えている。だがその顔色からは、全員が「わかってる」ことが明らかだった。


「おはようございます、殿下、妃殿下。今朝は……ずいぶんお元気でいらっしゃいますね」


そう声をかけたのは側近の一人。心なしか今朝もという言葉を飲み込んでいた気がする。


ウルは満足げに言った。


「当然だ。子も無事に産まれた。妃も元気……なら、祝うのは当然だろう?」


「お祝いにしては……随分と濃密なご様子だったと、お側付きの方々から伺っておりますが」


「なに?」


「いえ、何でもございません」


側近は目を伏せたが、ちらりと真珠の腰に当てられた手を見て、思った。


(今朝もまた……真珠様、ご愁傷様です)


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