序章
私はずっと前から彼のことが好きだった。
いつから、と尋ねられれば、初めから、という他ない。多分、幼稚園くらいの頃からだと思う。
彼はとても優しかった。
彼はたくましかった。
彼はかっこよかった。
彼といるとき、私は人生の素晴らしさを痛感せずにはいられなかった。世界が薔薇色のように見えて、仕方がなかった。
私は、彼のことが好きだった。いや、そんな生温い物ではない。子供だからといって恋に恋していた訳でもない。
確かに、愛していた。
しかし、思いは伝えられなかった。どうしても伝えられなかった。どうしてだろう、わからない。死んでしまった私は、生前のことは覚えていない。ただ、彼に対する恋慕、それだけが私を支えていた。
想像するに、恥ずかしかったのだろう。ずっと傍にいたから、今更だと思ったのかもしれない。
そして、そんな心の奥底に芽生え、静かに根底を焦がしていた片思の気持ちを伝える前に、私は死んだ。
それでも、私は彼の傍にいたい。彼に思いを告げたい。
思い残したことがあると、人は霊として留まるらしい。生きていた時は鼻で笑っていたと思うけど、真実だった。
気付いたら私は彼の後ろにいた。




