追い込まれる新幹線
誤字脱字など有れば指摘していただけると幸いです。
委員長に促され、俺も席に着く。
説明していくうちに、冷静になっていく。
チヨダ委員長は静かに報告を聞いていた。
「そんな報告は私まで上がっていない。きっと君の古巣が止めたのかもしれないな」
古巣か…。彼らならやりかねない。
「もし、委員長の予想通りだとしたら、これは単なるテロではないかもしれませんね」
「敵の正体は大方見当がつく。それは君もだろう」
ただ頷く。
この事件が始まって以来、眉間にシワが寄り続けているが、敵の正体が見えてくるとされに深くなる。
「しかし、これからどうするかだな。乗客の命はつまり国民の命。新幹線を攻撃すれば内閣が吹き飛ぶどころか、防衛隊の存廃にすら議論が及びかねない。そんな馬鹿なマネを彼らがするか?」
そのとおりだ。防衛隊が崩壊しても誰の得にもならない。まさに自殺行為だ。
「委員長。私は防衛隊の新幹線処理部隊の指揮所に行こうと思います。部隊長を説得して攻撃を中止させます」
「攻撃は中止できても、新幹線は暴走したままだぞ。さっき言ってた電力吸収作戦は成功するんだな」
「新幹線を電池切れにさせてやりますよ」
意気込んだ私に対して、委員長は簡単には頷かない。
ほんの少し考える素振りを見せたが、すぐに決断を下した。
「君を…また信じてみよう。このあと臨時閣議がある。総理の決断を先送りさせるよう時間を稼いでやる。その間にケリをつけてもらおう」
俺は立ち上がって、その場で敬礼をした。
「新幹線処理部隊の指揮所は旧広島駅だ。急げ!」
ー旧広島駅新幹線ホームー
ホーム上にいくつものテントが設置されている。
階下の改札口とホームをつなぐ階段を迷彩服を着た隊員たちが行き来する。
物々しい雰囲気と表現するのがぴったりだ。
テントの最奥に一つの会議机が置かれている。上座に部隊長が座り、下座に2人の部下が座っている。
「新幹線は今どこにいるんだ?」
部隊長の問いには、メガネをかけた隊員が答える。
「先ほど旧名古屋駅を通過し、旧京都駅に向けて走行中です」
3人とも日本地図を表示しながら話している。
「部隊の展開速度を考慮すると、実際に処理ができるのは旧山陽新幹線の区間でしょうな」
それまで話を聞いていたもう1人の部下も加わる。体格は3人の中で一番大きい。
「加えて人口密集地を避けるとなると、山口県に入ってからでないと難しくないか?」
「そんなに待っていたら、失敗したときに立て直す暇がない。岡山か広島で何らかの作戦を実施すべきでしょう」
メガネをかけた隊員は反論しつつ、部隊長にも話を振った。
「イタカ部隊長はどうお考えなんですか?」
「山口県で止めるぞ」
どうやら部隊長の中で答えは決まっていたらしい。
「しかし、トンネル区間が非常に多いです。通常の装備では満足に対処できないかと」
隊員が食い下がると、部隊長は身を乗り出し話し始める。
「さきほど大臣より車体の損傷を最低限にするよう厳命を受けた。よって、通常装備で直接新幹線を攻撃することはしない」
「損傷を最低限になんて無茶だ」
大柄な隊員がボソリと呟いた。
それを無視して、部隊長は話を続ける。
「作戦はこうだ。山口県内の全トンネル上部に火薬を設置し、新幹線通過と同時に爆破。意図的に崩落を発生させ、新幹線を埋める。客車部分はつぶれるかもしれないが、爆破するよりも部品を残すことはできる」
部隊長の目つきが鋭くなる。
「それと一つ言っておく。我々は無茶なことをやらなきゃいけないし、それでいて失敗することは許されない。そういう組織にいることを忘れるな」
言い終わる頃に駆け足で隊員がテントに入ってきた。
「失礼します。警視庁の刑事を名乗る者が部隊長と会いたいと申しております」
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