何を見てきた新幹線
誤字脱字など有れば指摘していただけると幸いです。
父親と別れ、車内を捜索する。
捜索とは言っても、乗客に声をかけ母親らしき人物を見たかと聞いたり、トイレに入ったまま倒れた可能性も考えて目視で確認したりするくらいだ。
(もう7号車か。1号車からトイレに行くとしても、こんなに後ろの車両まで行くとは考えづらいな)
すぐに見つかるだろうと楽観視していたが、見つからなかったときにどうするか、それを考えていなかった。
その可能性を振り払うかのように、後ろから彼がちゃんと付いてきてるか確認する。手を握って歩くのも変だから、少し歩いて後ろを確認するのを繰り返すくらいしかできなかった。
焦りというのが最も適切な感情かもしれない。そんな感情を抱えて7号車を抜けると、それまでの車両にはなかった大きな部屋を見つけた。
ー乗務員室ー
部屋のドアにはそう印字されていた。そのすぐ下には関係者以外立入禁止とも書かれている。
乗務員…が何を示すのかは分からないが、部屋の大きさや堅牢さから乗客のための部屋ではないはずだ。もしかしたら母親が誤って入ってしまい、鍵がかかって閉じ込められているかもしれない。
「ここも調べておいた方が良いよね?」
自分が安心したいがために、子供に同意を求めてしまった。彼はキョトンとした顔で、訳も分からず頷いた。
中に人がいれば謝ればいい。確認するだけで悪いことはしていなんだから。
ドアの取っ手に手をかけた瞬間ー
「ダメよ!勝手に入っちゃ!」
声の方を向くと、上はパーカーに下はジーンズの同年代らしき女性が仁王立ちで立っていた。
「立入禁止の文字が見えないの?あなたが弟の悪い手本になってどうすんのよ」
呆れた口調でたしなめられる。どうやら年の離れた兄弟に勘違いされてしまったらしい。
そのまま二人まとめて説教を喰らいそうだ。
話の主導権を握られる前に、弁明した方が良さそうだ。
「あの、勝手に入ろうとしたことは悪いと思ってます。でも、この子は関係ないです。そもそも兄弟じゃないですから」
伝えたいことをまとめて言い切る。女性は驚いた顔になる。
「兄弟じゃない?ますます怪しいわね、ちょっと話を聞かせてもらおうかしら」
ーJ900系新幹線ヤマト号運転室ー
「分かりましたよ。協力しましょう。しかし、あの乗務員室にまた別の誰かが入る可能性がありますよ。いちいち人質に取っていたら、あなたでも抱えきれないのでは?」
無意味な確認にも思えたが、期待をしたかったのだ。
犯人がバカであることを。
しかし、現実はそんなに甘くない。
「バカにされてるのかな?まあ、その点は問題ない。君と一緒に退室したとき施錠しておいたから」
そして目の前の犯人は、私が予想だにしなかった言葉を続けた。
「まあ君が乗務員室に行かなくても、人質にはなってただろうね」
「それはどういうことですか?」
「この新幹線で無停電電源装置の取り外し方を知っているのは、君だけだろう」
少しだけ見える犯人の目は、何もかもお見通しだと言っているようだった。
「言ってる意味が理解できませんな」
私は当惑してしまった。精神的に追い詰められているのは確かだが、そこにこの狭い運転室が閉塞感を与えてくる。
「別に隠すことでもないでしょ。それに重要なのは君の過去じゃなくて、無停電電源装置の取り外し方の方だ。そうだろう?」
銃を下ろしたことから警戒心を少し解いていた。しかし、また嫌な汗が吹き出してきた。
どうやら犯人は私のことを知っているようだ。新幹線を動かそうとする奴だ。やはりただ者じゃない。
しかし、こんなところで言い合っている余裕はない。
「たしかに過去よりも命でしょうな。教えますよ、取り外し方を」
私は犯人の要求を受け入れた。
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