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止まらない新幹線

誤字脱字など有れば指摘していただけると幸いです。

 「おい、これ動いてないか」

 「サプライズかしら?」

 車内の乗客も気づき始めた。

 「父さん、どうなってるんだろう?」

 「何だろうな。サプライズだとすれば、これ以上嬉しいことはないなあ。事故だとしても私たちにできることはないし、今はじっと席に座っておこう」

 

 私は懐かしい加速感に身を預ける。ヤマトビットを使いだしてからはすっかり忘れていた記憶が蘇る。

 まあ仮に事故だったとしても日本に残された最後の線路が下関まで敷かれているから、しばしこの走行を満喫しよう。

 


 ー旧東京駅新幹線管理室内ー


 「大変ですッ!新幹線が!」

 扉を勢いよく開け、駅員を模した制服を着た男が入ってくる。

 「分かってる!今止めようとしてるところだ!」

 部屋には長机と椅子があるだけで物理的な制御装置はない。非常に殺風景な風景だ。

 「緊急停止信号は出してるのか?」

 「発車直後から出しているんですが、拒否されています」

 室長と書かれた名札を付けた男が部下らしき人物に指示する。名札にはムサシと書かれている。

 部下らしき男も名札を首から下げており、こちらはサガミと呼ぶらしい。

 ムサシ室長は何もない机に向かってタイピングしている。いや、正確に言えば周りの人間には何も見えていないだけだ。通信革命の後では、ディスプレイに相当する画面は直接本人の視界に表示されるようになっている。


 「運転席に侵入者は?」

 「人感センサーに反応はありますが、映像を確認できません。それにこれは…」

 「どうした?」

 「はい、新幹線自動走行AIが起動しています」

 「何?それはとっくに削除されたんだろ」

 そこで何かに気づいたような顔で、報告に来てから一言も発していなかった男がやっと割って入る。そうそう、その男の名札にはミカワと書いてある。

 「そういえば先月、新幹線事務局の本部にサイバー攻撃がありまたけどそのときにもしかして…」

 「ああ、そうか!デジタルアーカイブとして保存してたバックアップをコピーされたのか」

 室長が目を閉じ、眉間に皺を寄せる。数秒の思案の後、目を開く。

 「とにかく、今は停止させることに集中しよう。それにこれは事故じゃなくて事件の可能性がある。通報を頼む」


 ミカワは返事をすると腕の端末を操作して、電話をかけ始めた。

 あとの2人で対応を急ぐ。

 「と言っても、緊急停止信号が効かないとなると残された手段は一つしかないですよ」

 「やっぱり電力供給を断つか」

 「はい。犯人、と呼びますけどどうやって電力供給を再開させたか分かりませんが、電力会社に供給を中止してもらえば確実に停止できます」

 「分かった。東海道電力と…念のために山陽電力にも供給中止要請を出す」


 「ええ、よろしくお願いします」

 室長が腕の端末を操作して通話を終了する。 

 「1分後に供給を中止してもらえるそうだ」

 サガミは頷き、安堵のため息をつく。

 「警察の方到着します」

 ミカワも通報を終えたようで、室長に報告する。

 それから1秒くらいして部屋の入口のドア付近でブワッと光が点滅すると、身長が高くスーツにコートを羽織った男が表れた。

 

 「ご苦労さまです、カガ刑事」

 ムサシ室長が立ち上がって挨拶をする。先月のサイバー攻撃捜査で両者は顔を合わせている。

 今回の暴走も関連性があるとして、警官ではなく刑事が直接出向いていたようだ。

 「また会いましたな。状況はどうですか?」

 「1分後に電力を遮断して強制的に停止させる予定です」

 「うん、何とか最悪の事態は避けられそうですね。停車後すぐに機動隊が突入して犯人とおぼしき人物を取り押さえます」

 「ありがとうございます。おい、刑事にも画面を共有してくれないか」


 そうこうしている内に1分経過する。

 「5秒前、4、3、2、1」

 次の瞬間、全員が見ている新幹線管理画面にはエラーが表示される。

 同時に、速度がみるみる下がっていく。

 「電力供給完全に中止しました」

 サガミの報告を受けて、刑事が手元の端末で指示を出す。

 「よし、機動隊は突撃準備に入ってくれ」

 

 その場にいる誰もが、これで一件落着だと思っていた。

 部屋に張り詰めていた緊張感が解かれようとしていた。

 室長が汗を拭おうと帽子に手をかけたとき、異変が起きた。

 

 「ん?どうなってるんだ!」

 「室長さん、速度が上がっていませんか」

 室長の手が帽子から離れる。

 すぐさま管理画面で操作を試みる。他の2人も右に倣えで続く。

 「今走ってるの800系だろ?」

 「いや、今日のイベントは900系だったはずですけど」

 サガミの返答を聞いた室長が振り返る。

 「それは本当か!」

 「は、ハイ!」

 サガミは室長の勢いに押され、声が上ずってしまう。

 「やられた。この管理システム自体が改ざんされてたんだ。管理画面の表示上じゃ800系になってる」

 うなだれるように椅子に座り込んでしまう。 


 カガ刑事は機動隊突撃の指示を出す直前の体勢で固まっていた。今すぐにでも突撃させたい意思とそれを抑える理性で手が震えていた。

 「900系だと何の問題があるんですか?」

 うなだれる室長に問う。

 「J900系は現在残ってる車両の最新型なんです。この車両にはそれまで搭載されていなかった緊急走行用電源が積んであります」

 「それが今の事象とどう関係が?」

 「今の電力遮断でAIが緊急事態と判断して、その電源が起動してしまったせいで停止に失敗しました」

 「こうなると外部から停車させる手段はありません」

 室長の横に座るサガミが言葉を補う。

 「でも、電源と言っても電池のようなものでしょう。じゃ、いつかは電池切れになる訳だ。この新幹線の電源の持続時間はどれぐらいなんです?」

 

 カガ刑事が自分に言い聞かせるように言葉を紡ぎながら問う。

 「2時間強は最高速度を維持して走れます」

 室長がそう答えると、刑事の視界に日本列島の地図が共有される

 「もう関門海峡は通れませんから、手前の新下関駅までがここから約1000キロ、J900系の最高速度が約500キロなので…」

 さすがの刑事でも単純な算数くらいはできる。

 「このままだと新下関駅で停車できずに、新関門トンネル内の封鎖壁に激突します」

 しかし、そこから導き出される結果は最悪なものであった。

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