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誰のための新幹線

誤字脱字など有れば指摘していただけると幸いです。

 私は歳だから、膝を着いて箱を見つめる。

 犯人の方は若いからか、膝は着かずにしゃがんでいる。

 「素手で触ったら大変なことになりますよ。言わなくてもわかるでしょうが」

 真っ白な箱からは、美しさというよりも不気味さを感じる。

 きっとこの小さな箱が、16両も車両を時速500キロで動かしているという事実が、そう感じさせるのかもしれない。

 「ご忠告どうも」

 犯人は鬱陶しさを含んだ返事をする。

 「ついでにもう一つ付け加えると、これを取り外した瞬間に新幹線への電力供給は絶たれます。ただ、車体は慣性の法則で勢いそのまま突き進む。それだけならまだしも、AIが制御してくれないとなると、脱線する可能性が非常に高い」

 そこで話を遮られた。

 「だから、取り外すなと言いたいのかな?」

 顔が見えなくとも苛立っているのはわかる。

 「では、あなたは新幹線を運転した経験はありますか?」

 犯人は鼻で笑うと、嘲るように俯いた。

 「まあ、そんないじわるなこと言わないで。脱線せずに停車する可能性もあるじゃないか。それに…」

 また、顔を上げる。

 「我々2人だけなら脱出できるのでは」


 「こいつを工具かなにかで取り外す瞬間に、ヤマトビットを起動して供給が絶たれたと同時に、車外に転移する。これしか方法はないと思うんだけどなあ」

 私はため息まじりに答える。

 「あなただけ脱出すれば良い。ヤマトビットの利用記録から遅かれ早かれ、あなたは捕まりますよ。私まで共犯に思われたら、たまったもんじゃない」

 「言ってくれるじゃないか。しかし、君が本当に心配しているのは息子のことだろう?」

 犯人はゆっくりと立ち上がる。

 「私の端末は特殊だから一度に5人まで転移できる。君の息子とあの少年を合わせても、お釣りが返ってくる」

 私は顔を上げる。図らずも懇願するような姿勢になった。

 「息子と通話しても良いんですか」


 ー旧広島駅新幹線ホームー

 

 「ちょうど良かった。通してやってくれ」

 イタカ部隊長が部下に指示すると、1分も経たないうちに、テントにその男が現れた。

 「失礼しますよ。警視庁のカガです」

 刑事が淀みなく敬礼をする。それを受けて部隊長も立ち上がる。

 「防衛隊新幹線処理部隊部隊長のイタカです。まあ、お掛けください」

 促されたカガ刑事は、部隊長に最も近い席に遠慮なくドカッと座る。

 

 「単刀直入に言わしてもらえば、作戦を中止していただきたい」

 切り出したのは、やはり刑事の方だった。

 「では、我々も単刀直入に。機動隊を沿線から撤退するよう本庁に具申してもらいたい」

 部隊長も冷静に主張する。

 「今、東京では新幹線を止めるべく電力吸収作戦を実行するところなんだ。防衛隊に攻撃してもらわんくても、解決できる見込みがあるんだよ」

 カガ刑事は、なおも部隊長へ強気な姿勢を崩さない。対して、イタカ部隊長は終始冷静だ。

 「防衛隊と警察は協力関係であって主従関係ではない。防衛大臣からの命を受けて作戦立案、実行に移るだけですよ」

 「そうですな。警察と防衛隊は主従関係じゃない。じゃあ沿線から機動隊を撤退する道理もない」

 両者の言葉は、売り言葉に買い言葉で、交渉と呼べるものではなかった。

 部隊長は少し呆れたような表情で口を開く。

 「もう一度言いましょう。防衛大臣からの通達に基づいて動いているんです。私が命令を無視することはできないですし、したとしても解任されてす即新しい部隊長が選任される」

 刑事は腕を組み、部隊長から目を逸らさない。

 「私には国家公安委員長から、防衛隊に対応を一任するような通達は来てない。警察による捜査権は生きている」

 

 少しの沈黙が訪れた。

 

 刑事は足を組み直し、長期戦を覚悟したかのように見えた。そして、口を開く。

 「あなたも法律のお勉強くらいはしてるだろうから、大臣間に序列がないことは知ってるだろう。それにウチとあんたの大臣は仲が悪いって噂がある。お互い譲らないのは目に見えてる」

 部隊長はゆっくりと立ち上がった。しかし、視線をカガ刑事から逸らすことはしない。

 「何が言いたいのか分からないですな」

 それでも部隊長は立ち去らない。

 「本当は分かってるクセに。この国でこの話に決着をつけられるのは、ただ一人」

 それは、互いに言わずとも分かり合っている事実であった。しかし、それを口に出すことが必要なのだ。

 「あんたの最高指揮官でもある内閣総理大臣だ」

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