心を開くとき
夜の旧図書館⎯⎯。
闇の中で黒い霧が渦を巻き、影喰いがその巨大な姿を現していた。
その姿はこれまでの影喰いとは桁違いの規模と力を持ち、無数の赤い瞳が空間を睨みつけている。
夏陽がその場に駆けつけたとき、そこには玲が立っていた。
背中まで流れる栗色の髪が風になびき、赤く輝く瞳が影喰いを真っ直ぐに睨んでいる。
「……玲!」
夏陽が鋭く呼びかけるが、玲は振り返らず、静かに両手を前にかざした。
「……誰も、もう傷つけさせない……!」
玲の瞳が赤く輝きを強め、周囲に強烈な風が巻き起こる。
影喰いの霧が一瞬で動きを封じられた。
だが⎯⎯。
玲の顔には明らかに苦痛の色が浮かび、その体が小刻みに震えている。
額には冷たい汗が浮かび、膝がわずかに揺れ始めた。
「玲!やめろ!」
夏陽が叫びながら駆け寄ろうとするが、影喰いの触手が玲を狙って次々と襲いかかる。
夏陽は「明銀」を抜き、触手を斬り払いながら玲へと進んだ。
「玲!力を緩めろ!お前の体が持たない!」
だが、玲は振り返らない。
「僕がやらなきゃ……僕が止めなきゃ……!」
声は震えているが、瞳は赤く輝いたままだ。
影喰いの霧が玲の力に抵抗し、再び動き始める。
それに対抗しようと、玲はさらに力を放出した。
その瞬間、玲の体が大きく揺れる。
赤い光が強まりすぎ、力が暴走寸前まで高まっているのだ。
「玲、やめろ!」夏陽が低い声で叫ぶ。
「お前一人で背負うな!聞こえてるのか!」
夏陽の声は届かず、玲はなおも霧を縛りつけようと力を込める。
「……お願いだ……止まってくれ……!」
その呟きとともに、玲の体がついに膝をつき、倒れ込むように地面へ崩れた。
だが、彼の力は止まらない。
気絶した玲の体から、暴走した力があふれ出し、赤い光が影喰いと融合し始める。
玲を覆う赤い光と影喰いの霧が渦を巻き、爆発寸前の状況が迫る。
「……玲……。」
夏陽は無言で「明銀」を握り直し、霧の中心に向かって鋭く踏み込む。
無数の触手を正確に斬り払いながら、夏陽は玲に向かって叫ぶ。
「お前がどれだけ無茶しても、俺はここにいる!」
玲の体に迫る影喰いの力を斬り裂きながら、夏陽は彼の肩を掴む。
「一人で全部抱え込むな!」
その瞬間、玲の瞳がわずかに揺らぎ、赤い光がほんの少しだけ弱まった。
だが、霧の力が再び玲を包み込もうとする。
夏陽は「明銀」を高く振り上げ、最後の一閃を影喰いの中心へ叩き込んだ。
銀色の光が霧を貫き、赤い光が完全に消え去った。