影を纏う少年
月光の下、静かな学園の中庭を歩く一人の少年がいた。
深紅の衣を纏い、無造作に流した黒髪が風になびく。
その切れ長の瞳は、闇を見据えていた。
「夏陽」⎯⎯天界から遣わされた剣士。
彼の使命は、影を斬り、学園を覆う異形の存在を討つことだった。
だが、それだけではない。
天界から告げられたもう一つの命令。
「学園には影を引き寄せる存在がいる。それを見極め、保護せよ。しかし、決してその力を暴走させるな。」
夏陽は静かに中庭を歩いていたが、ふと立ち止まった。
背中まで届く茶色い髪をなびかせた少年が、月明かりの中で立っていたのだ。
「……君、何をしている。」
声をかけると、振り返ったその少年は微笑んだ。
栗色の髪が月光を反射して淡く輝く。
「少し、月を眺めていただけだよ。」
その笑顔は柔らかいが、瞳の奥には深い影が見え隠れしていた。
「ここは危険だ。」夏陽は冷静に告げる。
少年は肩をすくめるようにして言った。
「君は優しいんだね。でも、大丈夫。僕なら平気だから。」
「君の名前は?」夏陽が問いかける。
「篠宮玲。」少年は微笑みながら答えた。
「君は?」
「夏陽だ。」
そのとき、夏陽の胸に小さな違和感が生まれた。
⎯⎯この少年だ。彼こそ、影を引き寄せる存在なのかもしれない。