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黒猫と12人の王  作者: 病床の翁


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98話 海魔5

 爪王対八足の八戸の初手は爪王の渾身の爪擊だったが、易々と四叉の槍で受け止め、さらに反撃までしてきた八足の八戸。

 膂力は八足の八戸の方が上かと思われた。

 そうなると爪王はスピードで攻めるしかないのだが、岸壁に張りつく八足の八戸を狙うにはどうしても跳躍する必要があり、思ったように攻め込めないでいた。

「おいおい。いつまで高みの見物かましてんだい?アンタの前に敵が来てるんだ。さっさと降りてきなさいよ。」

 ひとまず挑発してみる事にした。

「うん?確かにそうね。いつまでも見下してるのは失礼ね。今降りるわ。」

 存外素直に岸壁から降りてくる八足の八戸。

 8本の蛸の足がうねるように蠢き、岸壁から水の浅い地表へと降りてきた。

「あら。これでもアタシの方が背が高いから見下してしまうわね。オッホッホッホ。」

 身長2m程と思われた八足の八戸だったが、1本1本の足の長さが数mにもなる為、地上に降りてきても爪王の遙か上空から声が聞こえる。

「ちっ。顔を狙うにゃまずはその足を何とかしなきゃだね。」

 爪王は高速で八足の八戸の周りを回り始める。

「あらまぁ。ちょこまかと。動き回ればアタシの槍から逃れられるとでも?」

 そう言うなり頭上から放たれる四叉の槍を灰虎は紙一重で避ける。

 そしてそのまま、流れるように両手の籠手に付いた4本の鉤爪で足の根元を斬り裂く。

 深く斬った感触はあったものも切断には至っていないと感覚でわかる。


 事実、八足の八戸のそれぞれの足はその根元が直径60cm程もあり、細身の女性のウエストほどもある極太なのだった。

 爪王の籠手から伸びる鉤爪は40cm程度であり、その足の根本を切断するには長さが足りない。

 爪王は足の根元からの切断を諦めてその途中から切り分ける事にした。

 1本の足に狙いを定め、敵の周りを回りながら両手の鉤爪を振るう。

 と、狙っていた足の両隣の足が伸びてきて爪王を激しく蹴り飛ばす。

 盛大な水飛沫を上げながら転がる爪王。

 なんとか浅瀬にその身を残し、海底に沈む事は避けられた。


 実は爪王、泳げないのである。

 水の深い所に落ちたら最後、沈むだけである。

 その為、小島とそこに伸びる細い浅瀬の道が動ける範囲となってしまい、なかなかに戦い辛い。

「ちっ。やり辛いったらありゃしないね。」

 爪王は立ち上がると八足の八戸に向かって駆けだす。

 八足の八戸は2本の足を伸ばして迎撃する。

 近付いてくる足を鉤爪で切り裂く。先端部分は細い為、40cmの鉤爪でも余裕で切断出来る。

 迫り来る2本の足を切り刻む爪王。

 そして八足の八戸へと肉迫すると跳躍して顔面を狙って両腕の鉤爪を振り下ろす。

「風刃・虎空斬!」

 爪擊から繰り出された風の刃が八足の八戸へと向かう。

 しかし、その刃は四叉の槍で受けられ霧散してしまう。

「また跳び上がってくるなんて、アータ学習能力がないのかしら?」

 そう言うなり八足の八戸は四叉の槍で灰虎の胸部を突く。

 なんとか両腕をクロスさせ、その突きをガードする爪王。

 しかし、また後方に押し出され距離を取られてしまう。

「ちっ。槍も面倒だね。やっぱり速度勝負か。」

 また八足の八戸の周りを回りはじめる灰虎。


 8本の足が襲い来る為、先端から切り刻む。

 8本?

 すでに何度か迫り来る足を切り刻んでいるはずであるにも関わらず相変わらず八足の八戸には8本の足が生えている。

 怪訝に思った爪王はたった今切り刻んだ足を注視する。

 すると切り刻んだ足の肉が盛り上がり回復している事がわかった。

「なんだい。アンタ回復持ちかい?」

「あら。今頃気付いたの?アータが何度アタシの足を切り刻もうとアタシの魔力が尽きない限りは再生するのよ。オッホッホッホ。」

「ちっ。ますます面倒だね。」

 そんな会話を繰り広げながらも蛸の足が爪王に迫り、それを切り刻もうと両腕の鉤爪を振り回す攻防が続く。

 そんな中、八足の八戸の背後に回り込んだ爪王が跳躍してその背に向けて鉤爪を振り抜く。

「ぐっ。やってくれたわね。」

 ここに来て初めて八足の八戸にダメージらしいダメージが入る。


 ひとまず距離を取る爪王。

「ホントちょこまかと小魚みたいに動き回って。小賢しいわ。」

 そう言う八足の八戸の周りに数十の水球が浮かぶ。

 1つ1つは10cm程度だが、その数は膨大だ。

「ウォーターショット!」

 その数十の水球が水弾となって爪王を襲う。

「くっ!」

 顔を両腕でガードしつつ、避ける爪王。しかしその水弾の密度は高く全てを躱すことは出来ずに胸部や腹部に当たってしまい、最後の方は避ける事も叶わず十数の水弾が腹部に突き刺さる。

 水弾は王鎧を削る程ではなかったが、しっかりと浸透し肉体にダメージが蓄積する。

「くぅ。効いたねぇ。魔法まで使ってくるのかよ。」

「オッホッホッホ。アタシの攻撃手段が足と槍だけだなんて言ってないわよ。」

 余裕の表情で上から見下ろす八足の八戸。


 複数の蛸足を伸ばし、爪王を絡め取ろうとするも鉤爪を振り乱し、ことごとくを切り刻む爪王。

 そしてまた八足の八戸の周りを回りはじめる。

 向かってくる蛸足は切り刻み、背後に回り込んだ所で再度跳躍する。

 しかし、八足の八戸も振り向いて四叉の槍を向けてくる。

 槍の突きを左手の鉤爪で下方に弾くと右手の鉤爪で前に出ていた右腕に斬りかかる。

 八足の八戸は咄嗟に槍を手放してその斬撃を避ける。

 左手1本で支える槍を戻す事が出来ないうちに爪王が跳躍したまま回りはじめる。

「風刃・虎々回転斬!」

 左右の腕を広げてその場で回り鉤爪を振り回す。

 槍を戻せずにいた八足の八戸は胸部に切り傷を受ける。

「ぎゃー!なにすんのよ!」

 咄嗟に蛸足を上げて爪王の足を絡めとると、地面に叩き付ける。

 盛大な水飛沫を上げながら浅瀬に叩き付けられる爪王。

 その勢いは止まらず2回、3回とバウンドする。


「アータ、アタシの方がおっぱい大きいからっておっぱい狙う事ないじゃないのさ!」

 爪王は叩き付けられたダメージをしっかりと受けながら、よろめきながらも立ち上がり答える。

「はっ!だから胸の話はすんじゃねぇーっての。」

 ダメージは大きく足元がふらつく。

「もー怒ったわよ!もう一度行くわよ。ウォーターショット!」

 数十の水弾が爪王を襲う。

「風刃・虎空連斬!」

 我武者羅に腕を振るう爪王。その鉤爪から無数の風の刃が出現し、前面を覆い尽くす。

 水弾は全て風の刃に当たり霧散していく。

「はんっ!そう何度も同じ技が通じると思わない事だね!」

 これを聞いて顔を真っ赤にする八足の八戸。

「きー!なんなのアータ!むかつくんですけど。むかつくんですけど!」

 丸で茹で蛸のように顔を赤くして憤慨する八足の八戸。

「いいわよ、アータなんか魔法がなくても仕留められるんだから!」

 そう言うと爪王までの距離を詰め、四叉の槍で爪王の頭上から突きを放つ。

 その槍を右腕の鉤爪で大きく上に弾き返し、跳躍しながら左手の鉤爪を振り上げる爪王。

「風刃・昇風拳!」

 突き上げた左手の鉤爪から風の刃が発生し、上空へと向かう。

 その風の刃が向かった先には八足の八戸の顔面があった。

「うわっ!危ないわね。」

 そう言って首をかしげ、風の刃を避けた八足の八戸。

 しかし、その風の刃によって左頬を大きく切り裂かれた。

「あ。あぁぁぁぁあ!アタシの美しいお顔がぁぁぁぁあ!きゃーぁぁぁあ!」

 喚き散らす八足の八戸。

 これをチャンスと見た爪王は再度跳躍し、体を回転させると、

「風刃・虎々回転斬!」

 左右の腕を広げてその場で回り鉤爪を振り回す。風の刃が再び八足の八戸の顔面に迫る。

 しかし、

「調子に乗るなよ!くそガキがぁ!」

 さっきまでの口調とは異なる粗野な物言いで回転する爪王へと四叉の槍を突き出す。

 咄嗟にこれを左手にはめた籠手で防ぐ。

 だが、八足の八戸の攻撃は止まらない。

 連続で突き出される槍の猛襲に爪王の左腕が弾かれる。

 そこに8本の足のうち、再生が完全に済んでいる足が伸び、爪王の左腕を絡み捕る。

 左腕が弾かれた後は槍の猛襲を右腕で受けていた爪王だったが、右腕も同じく弾かれ、蛸足に絡め捕られてしまう。


 まるで宙に浮く十字架のように両手を蛸足に絡め捕られ、為す術なく体を振る爪王。

「ちっくしょ!離しやがれっ!」

「うるせぇーくそガキ!舐めた真似しやがって。女の顔に傷つけるとはどういう教育受けてんだい!」

 そう言うと宙に浮かせた爪王の腹部に向かって槍を繰り出す八足の八戸。

 宙に浮いている事が幸いしてその槍は突き刺さらずに王鎧の上を滑る。

 何度も何度も腹部に槍を突き出す八足の八戸。

 その度に爪王の体は前後に揺れる。

 腕を振り解こうと我武者羅に体を動かす爪王だったが、キツく絞められた蛸足はびくともしない。

 もう何度腹部を突かれ、体を揺らされたか分からないくらいになった頃、ようやく落ち着いてきたのか口調が戻った八足の八戸が言う。

「アータのその鎧、相当なものね。アタシの槍をこう何度も受けてるのに貫通しないで表面削るだけなんて。」

「ちっくしょ!離せよ!」

「じたばたするんじゃないの!もうこうなったらアータは終わりよ。さて、どう料理してあげようかしら。絞め殺す?それとも槍で貫かれたい?」

「くっそ!」

 必死に体を動かすも、蛸足はますます腕を締め付ける圧力が上げる。

 その圧力に耐えかねて王鎧に罅が入り始める。

「ぐっ…うあぁ…ぁぁあ!」

「無駄だって言ってるでしょ。引き際の分からない女は嫌われるわよ。」

 そう言うともう1本の蛸足が爪王の両足をも締め付ける。

 そしてそれぞれの蛸足は爪王の体を伸ばすように引っ張り始めた。

「う…がぁぁぁぁあ!」

 爪王の体が軋む。

「あら。ちょっと伸ばしただけでそんな大声だしちゃって。やっぱり軟体動物の方が優秀ね。ちょっとくらい伸びても問題ないんだから。」

「うぅ…うあぁ…ぁあ!」

 八足の八戸の言葉など聞こえていないかのようにうめき声を上げる爪王。

 締め付ける圧力と引っ張り上げる力によって王鎧の罅がどんどん広がっていく。


 その様子に最初に気付いたのは鬼王だった。相手にしていたクラーケンの事などさておき、爪王の元に向かおうとする。

「灰虎!今行く!」

 そう言うが鬼王と爪王の間にはまだ無数の人魚達が立ちはだかっていた。

「くそっ!邪魔じゃあぁぁぁぁ!」

 その剛腕で次々とマーメイドを殴り飛ばし、マーマンを叩き伏せながら灰虎の元へと向かう鬼王。


 そんな鬼王に気が付いた八足の八戸が言う。

「あら。アータの事、心配してくれる男がいるのね。でも残念。すぐには助けに来れないわよ。」

 そう言う通り、まだまだ2人の間には障害が存在した。

 すべての人魚達を倒して向かってくるには時間がかかり過ぎた。

「もうアータはいいわ。死んでちょうだい。」

 そう言うと四叉の槍で爪王の胸部を突く。

 1回、2回、3回、4回、5回目の突きで王鎧が砕け散る。

「灰虎ぁぁぁぁあ!」

「紫…鬼…」

「ハイ、サヨナラ。」

 鬼王の叫ぶ声を聞きながら、爪王は胸部を四叉の槍で貫かれたのだった。


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