表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒猫と12人の王  作者: 病床の翁


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/544

81話 義手3

 工房の奥へと連れて行かれた銀狼だったが、暫くすると痛みに耐えるような声が聞こえてきた。

「ぐっぎぎぎぎ。ぐぁ。ぐっ。」

 どんな事をされているのかは想像でしかないが、聖術により塞がった傷口を1度開けてそこには魔石を突っ込むと言う。

 聞いただけでも痛そうである。

 やがて銀色に鈍く輝く右腕を付けた銀狼が戻ってきた。

「もう動かせるのか?」

「いやまだ自分の腕だと言う感覚はない。次第に感覚が蘇ってくるらしいが。」

 俺が聞くと銀狼が答えた。

「次の方、やるぞ。付いてきな。」

 腕先の義手を持ったチョウリーがまた先導して工房の奥へと向かう。

 蒼龍もそれに続く。


「ぐっ。ぐぬぬぬっ。がが。ぐぁ。」

 銀狼の時と同じように痛みに耐える声が聞こえる。

 俺は自分の腕に魔石が食い込んで行くのを想像した。

 刃物で刺されるよりも、肉を潰す感じがして痛そうだ。

 やがて声がやみ、銀色に鈍く輝く左腕前腕を付けた蒼龍が戻ってきた。

 その指先が微かに動いている。

「もう動かせるのか?」

「微かにだがな。左手の指を動かそうとすると微かに義手の指先が動く。」

「義手を本物の腕だと思って動かしていけばじきに動くようになるさ。ようは失った腕を動かそうと出来るかどうかだな。」

 金獅子の質問に蒼龍が答え、チョウリーが補足してくれた。

 やはり銀狼の方が右腕を失って時間が経っている為、右腕を動かすと言う事を意識するのが難しいようだ。


「これから、毎日様子を見せてくれ。必要なら埋め込んだ魔石を替えなきゃならんのでな。」

 チョウリーに言われてひとまず工房を後にする俺達。

 村に宿泊施設でもあればいいなと思って村長に尋ねる事にした。

 ちなみにワンリンチャンは知り合いの家に泊まるらしい。

「あぁーすまんな。元々旅人が来るような村じゃないんでな。宿屋はないんじゃ。もしよかったらわしの家に泊まるか?」

 村長は長い顎髭を撫でながら言う。

「10人じゃろ?2人で1部屋で良ければ5部屋くらいは余っとるでな。土地だけはあるで、でかい家を建てたんじゃが使い道のない部屋が余ってしもうてな。泊まるか?」

「是非お願いします。」

 白狐が言った。

 と言う事で村長の家に連れて行って貰って5部屋借りる事になった。

 一応客人向けの布団もあると言うので借りる事にした。

 部屋割りはこうだ。

 女性同士と言う事で灰虎と緑鳥。白狐と黄豹がペア。

 後は適当に金獅子と銀狼。蒼龍と紫鬼。俺とヨルと桃犬でペアになる事にした。


 昼は皆で俺が作ったカレーライスを食べる。今日のカレーには別で焼いた兎肉を乗せてある。煮込んだ肉との食感の違いを楽しんで貰えたらと思ったのだ。

「カレーの中に入ってる肉と焼いた肉では歯応えが違うな。」

 銀狼が言う。こいつはわかってるな。

「あぁ、煮込まれた肉も良いが、焼いただけの肉の方が肉を喰らってる感じがするな。」

 金獅子も言う。こいつもわかってるな。

「アタイはカレーに入ってる方が好きだね。ホロホロ崩れてく感じがいい。」

 灰虎もちゃんと違いがわかってる。

「ん。美味しい。」

 黄豹はどうなんだろう?あんまり違いが感じられてないかもしれない。

「クロさんの料理は全部美味しいですからね。」

 白狐は相変わらず俺が作った料理ってだけで褒めてくれる。まぁ、これはこれで嬉しくもあるが。

「ホント黒猫さんのカレー最高っす。帝国でお店開いて欲しいくらいっす。」

 桃犬が言う。

 カレーの店か。そう言うのもありかもなっと思う。

 俺が調理して白狐がフロア担当して、食材は一緒に狩りに行ってジャイアントボアとか刈ってきてカレーの具材にする。

 そんな妄想を広げていると、皆カレーを食べ終わっていた。

 俺も急いで食べ終す。


 食事の片付けをしながら今後について会話した。

 ひとまずは3日間はこの村に滞在するのだ。

 武具職人の村と言う事もあり、村には沢山の工房があった。

 それらを見て回る事にしたのだ。

 まずは村長宅から1番近い工房を見てみる。

 店とは違ってそこまで多くの品が並んでいる訳ではない。

 精々が鎧一式が2つに各種大剣、長剣、短剣、斧などが壁に掛けてあった。

 どれも見本といった感じだ。

 ちなみに皆の装備だが、金獅子は国宝となっているアダマンタイト製の大剣、銀狼は同じく傭兵団時代に貯めた金で買ったと言うアダマンタイト製の長剣が2本。

 灰虎も先日買ったアダマンタイト製の鉤爪付きの籠手、黄豹も殺し屋稼業で貯めた金で発注したと言う特注のアダマンタイト製刃次トンファー。

 蒼龍も一族の秘宝だと言う三つ叉の槍、こちらは素材は不明との事。

 緑鳥の持つ杖も代々聖王が継承してきた由緒正しい杖らしい。

 白狐は希少な白鋼(しろがね)と言う鉱石製で白狐自身の妖気で変質した妖刀だ。

 で紫鬼は無手だから武器はなし。

 そして俺もアダマンタイト製のナイフが2本と武器の方は最高級品で揃えている。

 ヨルの持つ黒刃・右月と黒刃・左月はこれも希少な鉱石である黒鋼(くろがね)製らしい。もちろんヨルの妖気を浴び続けて妖刀化している。

 その為、あったらいいなと思うのは解体用のナイフと防具くらいなもんだった。

 1軒目の工房には全身鎧しかなく、俺達の戦闘スタイルには合わない。

 ナイフもあくまで戦闘向きであり解体に適しているものではない。

 俺達は1軒目の工房を後にする。


 その後2軒目、3軒目と見ていったが似たり寄ったりで特にこれと言った物はなかった。

 ただ次に行った4軒目は違った。

 ここは包丁などの家庭用品を取りそろえている工房で、解体用のナイフが売っていたのだ。

 しかも先端のみギザギザな刃になっており、肉と皮を切り分けるのに適していると言う。

 俺はこのナイフを3本購入した。ミスリル製で3本で大銀貨3枚とお買い得だ。

 ただし戦闘には向かないので注意するようにと、工房長に言われた。

 5軒目の工房では軽装備の防具が売られていた。

 手甲や臑当(すねあて)などだ。

 紫鬼に買ってあげた手甲もそろそろがたがきている。これを機に買い換えるのもありだろう。

 と言う事でアダマンタイト製の手甲と臑当を購入した。

 みんなの分も買おうかと思ったのだが基本これからの戦闘は王化する前提の為、何より防御力が高い王鎧を纏うので不要と言うことになった。

 そんな感じで買い物をして1日目は過ぎていった。


 2日目は緑鳥の指導の元、銀狼と蒼龍は義手の動かし方をレクチャーされていた。

 やはり自分の指を動かず感覚ってのが難しいようだ。

 1度失った腕を動かそうとするのは結構な集中力が必要なようで、2人とも難儀していたが、午前中が終わる頃には蒼龍はなんとか指が動かせるようになってきていた。

 対する銀狼の方はなかなか厳しいようだった。

 俺達は特にする事がないので、昨日回らなかった工房を見て回った。

 途中の工房で投げナイフと言う独特な形のナイフが売っていた。

 刃の部分に指で掴めるか程度の柄がついたものだ。

『あれは影縫いの時に使いやすそうだ。』

 とヨルが言うので10本だけ購入してみた。特に変わった素材でもなく、10本で銀貨5枚だった。


 夕方には1度、銀狼と蒼龍は技師のところに行って軽く調整を受けたらしく、夕飯の頃には銀狼も指を動かせる程度にはなっていた。

 夕飯は今日もみんなで俺が作ったオーク肉の生姜焼きを食べたが、中々に好評だった。


 3日目になると蒼龍はすでに物を掴めるようになっており、曰く肉体の時よりもがっちりと掴む感覚があり、なかなか力加減が難しいようだ。

 この日の夕方にはも技師の元へ調整しに行った2人。帰ってきた頃には銀狼も物を掴めるようになっていた。

 ただ力加減が難しくガラス製のコップなどを割ってしまっていた。

 調整と言うのがどんな事をするのか分からなかったので緑鳥にそれとなく聞いてみたら

「魔石を直接神経に繋ぐことで欠損部位を動かす神経の動きを魔石が感知し、各関節部分に伝達するのですが、あまりにその感度が弱い等あれば、僅かな神経伝達信号でも増幅して各魔石に送るようにするのですよ。」

 とほぼ意味が分からない説明を受けた。

 要するにちょっとしか動かそうと思わなくてもしっかり動くようになるとの事だったので、ひとまず納得したのだった。


 4日目にもなると蒼龍は1人、槍の訓練までこなしていた。

 すでにガラス製のコップも問題なく掴めるくらいには力加減の調整も出来るようになっていた。

 一応夕方には2人で技師の所へ行って調整は受けている。

 蒼龍に関してはもう問題なく運用出来るだろうとお墨付きを貰ったそうだ。


 5日目には銀狼もガラス製のコップを持てる様になり、剣の訓練も開始した。

 夕方には1人で技師の元に行き、問題ないとのお墨付きを貰ってきた。

 今から移動となると深夜に移動する事になってしまう為、無能の街へは明日朝に移動する事にした。

 その事を水晶を使ってバルバドスに伝えると、

『と、言うことは明日も1泊する事になるな?もちろんお前達の部屋は明け渡すさ。もう少し休ませたい兵士達もいるからな。助かるわい。』

 との事だった。

 そんな訳で鍛冶師の村での最後の夜は更けていった。


 翌朝俺達は鍛冶師の村を出て無能の街へと向かった。

 来るときも1日程度かかったので、到着は夕方か夜になるだろう。

 道中、ブレードラビットの群れに遭遇したのだが、銀狼も久々に双剣を握っての戦闘となり、蒼龍もなんの問題もなく槍を操っていた。

 まだ若干力加減が難しいと2人とも言っていたが見ているこっちからすると何も問題なさそうだった。

 まぁ言うても自分自身の腕ではないので微妙な力加減にまだ慣れないと言う事だろう。

 特段戦闘に問題はなさそうだ。

 20匹以上のブレードラビットを倒し、血抜きした所で早速買った解体用のナイフを試した。

 先端のギザギザが上手いこと皮と肉の線維を切り分けていつもよりスムーズに解体出来た。

 やはり専用ナイフと言うだけはあるなと思った。


 無能の街に着いたのはやはり夜になってからだった。

 バルバドスに到着の連絡を入れると、初日に俺達にあてがわれた部屋を空けてあると言うので、俺達はそれぞれの部屋に入る。

 夕飯は急ぎ移動した為、途中歩きながら携行食糧を皆で口にした。

 やっぱり何処か味気ない食事になった為、明日の朝は早く起きてきちんとした食事を用意しようと思った。

 ちなみにここまで来たら夜間寝てる間に襲われる心配もなさそうだと言う事で見張りは特に立てない事にした。

 何かあれば俺はもちろん、白狐も黄豹も起きるだろう。

 殺し屋稼業をしていた人間は感覚が鋭くなっているのだ。

 そんなこんなで無能の街での夜は過ぎていった。


 翌朝は昨日狩ったばかりの兎肉を生姜焼きにしてみた。

 獣臭が生姜で消えてとても食べやすかった。

 さて、今日は無能の街を出発する日だ。

 バルバドスにも昨日のうちに今日の朝出発する旨は伝えてある。

 今頃野営の支度をかたづけている頃だろう。

 今回もワンリンチャンとシュウカイワンは一緒に来てくれるらしい。やはり案内役がいるのは心強い。

 悪魔人族は強かった。

 ルイチェン曰く、これから出会うであろう獣魔人族は1000体はいるだろうとの事だった。

 これまで以上に激戦になるだろう。

 もうこれ以上犠牲者を出さずに済むように。

 それだけを胸に俺達は無能の街を出発したのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ