78話 悪魔6
ヨルが6体目の上位悪魔人と戦っている時、また爆発音が響いた。
そちらを見れば蒼龍が魔将と戦っていた。
が地上は火の海だ。ちょうど蒼龍がその火の海に落ちるところだった。
ヨルは焦った。紅猿に続いて蒼龍までも失う事になるのか。
その焦りが隙を生んでしまった。
「フレイムランス。」
目の前の上位悪魔人が炎の槍を生成し放ってきたのだ。
躱せないと咄嗟に判断したヨルは、
「うぉぉぉぉお!」
猛烈な勢いで両手のナイフを振るい、炎の勢いを少しでも削ごうとした。
しかし炎の勢いは変わらず、腹部に槍が突き刺さる。
調度4体目のアイスランスによって空いた王鎧の隙間に入ってしまった。
一瞬で燃え上がるヨル。
しかしヨルはその燃え上がる体そのままに上位悪魔人に迫り、黒刃・右月を振るった。
上位悪魔人の突き出していた左腕を斬り飛ばす。
そのままの勢いで左手に持った黒刃・左月を上位悪魔人の胸部に当て、思い切りぶつかっていった。
全体重を乗せた一撃は半分ほど刃をめり込ませた。
まだ上位悪魔人は生きている。
ヨルは黒刃・左月の柄に黒刃・右月の柄をぶつける事で刃をぐいぐいと差し込んでいく。
やがて刃がすべて入った時、上位悪魔人は力尽きてその場に倒れ込んだ。
また爆発音がした。
再び焦りだすヨル。
しかし、
「九大魔将、六翼の六路を破ったぞ!」
戦場に響く蒼龍の声を聞き、一安心するのであった。
魔将が打たれたのであれば残りは上位悪魔人と悪魔人の討伐だけである。
ヨルはスピードを上げて7体目の上位悪魔人に向かっていったのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
左腕前腕が吹き飛んだ蒼龍は緑鳥の癒しの聖術を受けていた。
「親愛なる聖神様、その庇護により目の前の傷つきし者に最高の癒しの奇跡を起こし給え。ハイヒーリング!」
吹き飛んだ腕の肉が盛り上がり傷口を塞ぐ。
その頃には上位悪魔人も悪魔人もヨル達によってすべて倒されていた。
蒼龍は吹き飛んでいた紅猿の上半身と左腕の肘から先を持ってきていた。
残念ながら下半身は六翼の六路が放った火炎魔法によって燃え尽きていた。
魔将は討ち取った。
しかしこちらも死者を出す事となってしまった。
「おじいちゃん。」
ぽつりと黄豹が呟く。
その頬を一筋の涙が流れる。
紫鬼も声を上げて泣いていた。
銀狼は歯を食いしばっている。
王化を解除した俺は声を出さずに涙を流した。
いつでも知り合いが亡くなるのは悲しい事であると初めて認識した。
蒼龍が言う。
「紅猿が奴の胸骨を折っていなければ槍はそう簡単には刺さらなかっただろう。紅猿がいたからの勝利だ。」
「ん。おじいちゃん頑張った。」
「いつまでもこのままって訳にもいくまい。さすがにここから人族領に戻って埋葬するのは難しかろう。ここで火葬して後日、人族領に埋めてやるのはどうだ?」
金獅子が提案してくる。
誰も反対しなかった。さすがにこの地に埋葬する事は躊躇われたからだ。
俺は一応購入したあった薪を取り出すと地面に並べる。
横縦横と格子を作るように並べる。
金獅子達は近くの木の枝を折り、俺が作った格子の中に入れていく。
火をっと思ったらシュウカイワンが言ってくれた。
「わたし、プチファイア使えます。着火は問題ありません。」
との事だったので、集めた枝を燃やしてもらい、格子の中に入れる。
紅猿の体はたまたま買ってあった鉄板の上に乗せ、炎の上に置いた。
段々と強まる炎、炎の中で燃やされる紅猿。やがてその姿も見えなくなった。
火葬が終わり、そこには微かな灰と紅猿が左手の親指に着けていた紅色の王玉がついたリングが残った。
「これは我が預かっておこう。」
蒼龍はそう言うと右手の親指にリングをはめた。サイズはぴったりだったようだ。
遺灰は適度な大きさの入れ物がなく、俺がツリーハウスから持ち出した弁当箱に入れる事になった。
僅かに燃え残った骨も広い弁当箱に入れていく。
弁当箱にはしっかりと蓋を閉め、俺の影収納に格納した。
紅猿が使っていた棍も回収しておく。
俺達の中に棍棒使いはいないが、紅猿が大切に使っていた物だ。大切に保管しておこう。
帝国軍兵士達の消耗も激しく、8500人程度いたはずの兵士達は今回の戦い経て6000人を超えるくらいにまで減少していた。
その多くが戦闘に出ていた重装兵、歩兵、槍兵だったが一部の衛生兵や伝令兵も焼かれ、凍らされ、石で潰されその命を散らした。
緑鳥が広範囲の癒しの聖術をかけ続けた為、火傷や裂傷などの傷を負った者達は無事だ。しかし一度の魔法で命を
絶たれた者達は生き返りはしない。
ここに来て、魔法の恐ろしさを再確認する事となった。
ルイチェンに教えられた個体数は約100体。
これは今回の戦いで殲滅出来たと考えてよさそうだった。
しかしそれにしても帝国軍兵士達の消耗が激しい。
バルバドスにも相談の上、俺達は一度無能の街まで戻る事とした。
バルバドス達は再び兵の再編を行ったり、聖術でも治りきらなかった傷の手当など、やる事は山積みだ。
多大な被害者を出しながらも勝利を手にした俺達。
その足取りは決して軽いものではなかった。




