77話 悪魔5
爆風に乗って飛んだ紅猿の上半身は、その近くで戦っていた龍王のそばに落ちた。
「ごふっ」
なんとこの状態でも紅猿は生きていた。
すぐに紅猿の上半身に駆け寄りその上半身を支える龍王。
「紅猿!死ぬな!」
「拙者はもう駄目である。…やつの…爆炎魔法には気をつけよ。…お主の…水ならば…爆炎をも軽減…できる…やもしれ…ん。」
そう言い残して紅猿は死んだ。
「紅ぉー猿ーん!」
長く旅を共にしてきた紅猿が殺された事で龍王の怒りのボルテージは最高潮である。
今まで戦っていた上位悪魔人が龍王に襲い掛かる。
しかし、
「水撃・龍翔閃!」
突き出された槍の先端から高圧の水撃が放たれ上位悪魔人の心臓部を突き抜ける。
「紅猿。仇は取ってやるぞ。」
そう言って六翼の六路に向かっていく龍王。
「水流防壁!」
そう叫ぶ龍王の体の周りを薄い水の膜が張った。
これで火炎魔法も防いできた。
準備は出来た。
六翼の六路に向けて駆けていく龍王であった。
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ヨル達は上位悪魔人達に苦戦していた。
決して倒せない相手ではない。
しかし上位魔法を操る事と言い、心臓部を狙わないと死なない不死性と言い、なんともやり辛いのだ。
それに数が多い。
緑鳥達の護衛に銀狼と紫鬼が抜けており、残りの7人で30体を相手にしなければならない。
1体の相手にそれなりの時間がかかる為、その間に帝国軍兵士達の消耗が激しいのだ。
そして今は紅猿が魔将の相手に向かってしまった。
6人で上位悪魔人を相手にしなければならなくなった。
ヨルが3体目の上位悪魔人を倒した時、魔将と戦っている紅猿の方から爆発音が響いた。
まだ見知らぬ魔法があるらしい。
紅猿は大丈夫なのか?それを確認するだけの余裕はない。
ヨルは次の上位悪魔人を相手にし始める。
「アイスピラー。」
5m超えの氷の大柱が上位悪魔人との間に立ちのぼる。
氷の大柱を右に迂回すると首筋に向けて左手に逆手で持った黒刃・左月を振るう。
首を狙った一撃だったが首を引かれた事でその角に当たり火花を散らす。
あの上位悪魔人の角はかなりの強度があるらしかった。
「アイスランス」
バランスを崩しながらも上位悪魔人が両手を突き出して魔法を放つ。
上位悪魔人の左を抜けて背を向けたヨルに巨大な氷の槍が迫る。
巨大な槍がヨルの左肩に当たってしまう。
か、王鎧によってその氷の槍は鎧を貫通しつつも突き抜ける事無く止まる。
が、ここに来て初めてヨルがしっかりとしたダメージを受けるのを見た。
氷の槍は肩の肉を裂き血が流れる。
しかし左腕が動かなくなる程のダメージではない。
すぐさま振り返り上位悪魔人に向かって1歩踏み出して右手に握った黒刃・右月を突き出した。
刃は突き出していた上位悪魔人の左手に突き刺さりその手首から抜ける。
それを気にもせず上位悪魔人は魔法を放ってくる。
「アイスショット!」
無数の氷塊がヨルを襲う。
顔を庇うように両腕を上げて氷塊を受けるヨル。
氷塊は王鎧によって弾かれるが王鎧に窪みを作る。
「いってぇーなぁー!」
ヨルが叫ぶと両手をクロスさせたまま上位悪魔人に迫るとその両腕を広げた。
両手に持ったナイフは上位悪魔人の首を刎ね飛ばす。
しかし飛んだ首が呪文を唱える。
「アイスランス。」
まだヨルの方を向いていた両手から巨大な氷の槍が発生し、ヨルに迫る。
「なにくそっ!」
ヨルは両手のナイフを高速で動かし氷の槍を削っていく。
もちろんその速度に間に合う訳もなく氷の槍はヨルの腹部に突き刺さった。
がナイフの連撃によりその威力がそがれていた氷の槍は王鎧を越え微かにヨルの腹部に突き刺さるにとどまった。
「ふう。ダメージ受けちまったな。」
ヨルは呟く。
すると魔将と戦っている紅猿の方からまた爆発音が響いた。
紅猿は無事だろうか。
胸騒ぎがらする。
一刻も早く上位悪魔人を倒して紅猿のフォローに入りたい。
次のターゲットを探して戦場を駆けるのだった。
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牙王と鬼王に守られている聖王も戦っていた。
杖を掲げて呪文を唱える。
「親愛なる聖神様、その庇護により目の前の傷つきし者達に癒しの奇跡を起こし給え。エリアヒーリング!」
魔法を受けた帝国軍兵士達を優しい光が包み込みその身体を癒す。
「おい。緑鳥あんまり前に出るな。混戦に巻き込まれるぞ。」
「しかし!目の前で傷を受けた人々がいるのです。黙って見ている訳にはまいりません!」
牙王が忠告するが、聖王は前に前にと進んでしまう。
「親愛なる聖神様、その庇護により目の前の傷つきし者達に癒しの奇跡を起こし給え。エリアヒーリング!」
聖王の持つ杖の先端が光り輝き傷ついた帝国軍兵士達を癒す。
「緑鳥止まれ。これ以上は流石に近づけられん。」
鬼王が前に出て聖王を止める。
「この位置からで十分じゃ。これ以上前線に向かったらお前達4人を守り切れん。桃犬達をも危険に晒す事になる。」
鬼王に言われて聖王は思いとどまる。
「すみません。桃犬さんにワンリンチャンさん、それにシュウカイワンさんまで危険に晒す所でした。」
「うむ。ここからでも十分、帝国軍兵士達の癒やしにはなっとる。」
「そうですね。親愛なる聖神様、その庇護により目の前の傷つきし者達に癒しの奇跡を起こし給え。エリアヒーリング!」
超広範囲の癒やしの聖術を連発する聖王。
「そんなに連発して体の方は大丈夫なのか?」
「はい。聖気が多い事だけが取り柄ですから。」
「親愛なる聖神様、その庇護により目の前の傷つきし者達に癒しの奇跡を起こし給え。エリアヒーリング!」
時たま帝国軍兵士達の間を抜けて悪魔人がやってくる事もあったが
「孤狼剣!」
「鬼拳!」
牙王と鬼王は見事に4人を守っていた。
緑鳥達もまた戦っていたのだった。
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六翼の六路に向けて駆け寄る龍王。
「水撃・龍翔閃!」
突き出した槍の先端から高圧の水撃が放たれ六翼の六路へと向かうも左腕で弾かれてしまう。
「またしても吾輩に挑む愚者か。」
六翼の六路はそう言うと、3対の翼をはためかせて上空へとその身を持ち上げた。
「面倒だ。燃やし尽くしてやろう。ヘルフレア。」
上空の六翼の六路が下方に向けて手を突き出す。
すると3m超えの火柱が至る所に生まれ辺り一面炎に包まれる。
「ふっ。燃え尽きよ。」
六翼の六路が余裕を見せたところだった。
炎の海から龍王が飛びだし三つ叉の槍を六翼の六路に向けて放つ。
これには意表を突かれた六翼の六路。
その腹部に三つ叉の槍が突き刺さる。
「水撃・龍翔閃!」
突き刺した槍の先端から高圧の水撃が放たれ六翼の六路の腹部を貫通させる。
「ぐふっ。貴様も火炎耐性持ちか?ならばフレイムボム。」
槍に突き刺されながらも、魔法を放つ六翼の六路。
龍王の槍を持つ左腕付近で大爆発が起こる。
爆炎が龍王を襲う。
か、水流防壁のおかげで炎熱効果は低い。更に爆発は王鎧を突き破る程ではなく、前腕の中程で折れる程度に収まった。
龍王は折れた左腕を気にせず槍を引く抜くと再び突く。
「龍覇連突!」
幾度も突きを繰り出す龍王。
その突きは六翼の六路の両腕を弾きがら空きになった胸部に突き刺さる。
が、浅い。
心臓部を破壊するには至らなかった。
ここで龍王の跳躍も限界が来た。
炎の海へと落ちてゆく龍王。
だが手応えはあった。
槍で突いた感触から言って胸部の骨が折れている。
紅猿が繰り出した攻撃によるものだろう。
「水流防壁!」
落ちながらも全身に水の膜を張る龍王。
しかしそのまま炎の海へと落ちていくのだった。
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ヨルが5体目の上位悪魔人と戦っている時にまたしても爆発音が響いた。
咄嗟に音の方を見るヨル。
そして目撃した。
紅猿の王化が解け、その上半身が宙を浮いていた。
「ロックバレット!」
巨大な岩石がヨルを襲う。
ヨルは極限まで体勢を低くしてこれを回避。
「うぉーおぉぉぉお!」
今まで以上に素早いナイフの連撃により上位悪魔人の両腕が斬り裂かれて飛ぶ。そのまま左手に持った黒刃・左月で上位悪魔人の心臓部を突き刺す。
1度では1/3程度しか刺さらない。
ヨルは黒刃・右月の柄を使って黒刃・左月の柄の後ろを殴りつける。
1発目で黒刃・左月は2/3潜り込む。
2発目で黒刃・左月の刃がすべて突き刺さる。
その頃には上位悪魔人も力が抜けてぐったりしていた。
「やったか?!次はどいつだ!」
ヨルの前に6体目の上位悪魔人が現れる。
早く紅猿の元に駆け寄りたいのをぐっと堪えて6体目の上位悪魔人と戦い始めるヨルであった。
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3m超えの火柱の数々が消えた後、そこには龍王が立っていた。
水流防壁のおかけで火炎にその身を焼かれる事はなかったが龍王の心は燃えていた。
再び跳び上がると上空の六翼の六路の元へと到達する。
「また貴様か。燃え尽きていればいいものを。」
六翼の六路は苦虫をかみつぶしたような表情だ。
そんな六翼の六路に再度槍を突き出す龍王。
「龍覇連突!」
幾度も突きを繰り出す龍王。
再び両腕を弾いてがら空きになった胸部を突く。
先程よりは深く入ったがまだ心臓部には届かない。
「ぐっ。えぇい!さっきから邪魔ばかりしおって!燃えよ!フレイムボム!」
龍王の槍を持つ折れた左腕を狙って魔法を放ってきた。
飛び散る鮮血。
龍王の左腕前腕が吹き飛んでいた。
「くっ。いいさ。片腕くらいくれてやる。水撃・龍翔閃!」
胸部2突き刺さった三つ叉の槍から高圧の水が飛び出し六翼の六路の胸部を貫通し後方に抜ける。
その攻撃を受け、六翼の六路は地に落ちる。
「ぐはぁっ。そんな…吾輩が…人間なぞに…やられ…ぐふっ!」
六翼の六路はまだ生きていた。
「フレイムショット。」
六翼の六路が龍王に向けて炎の散弾を発した。
龍王はそんな火の散弾を気にするでもなく、落下の威力と体重を乗せて六翼の六路へと落ちていく。
水流防壁のおかけで火炎耐性が上がっていたのだ。
全体重を乗せた落下の威力そのままに再度胸部を槍で突いた。
今度は深々と刺さる槍。
紅猿が胸部の骨を砕いていた事が勝因となった。
今度こそ、六翼の六路は力尽きたのだった。
こうして龍王は左腕前腕を失いながらも六翼の六路を打ち倒したのだった。




