73話 悪魔1
無能の街を出てから4晩明けた次の日、俺達は異様な光景を目にする事となった。
ちらほら生えていた木々に頭蓋骨がいくつも連なってぶら下がっていたのだ。
まるでそこからは自分達のテリトリーだと示すようなマーキング。
シュウカイワン曰くやはりそこからが悪魔人族の領地らしい。
ワンリンチャンもそこから先へは行った事がないらしく少し緊張気味だ。
なにも用がなければこのまま立ち去りたくなるくらいには不気味な光景だった。
しかし俺達はこの先に用がある。引き返す訳には行かない。
後続の帝国軍兵士達もその光景に足が竦んでいる。
やはり人は本能的に骨に忌避感があるのかもしれない。
だから海賊船は髑髏のマークを掲げてたのか。
俺達が悪魔人族のテリトリーに入ると周りの木々にとまっていた烏が一斉に鳴き始めた。
これには桃犬がかなりビビっていた。
「ひー。これ大丈夫なんすかね?大丈夫なんですかね?」
「烏が鳴いてるだけじゃ。気にするな。」
紫鬼が宥めるが、
「いや。烏の声が侵入者を伝えてるのかもしれない。この先十分注意して進もう。」
冷静に銀狼が言う。
後続の帝国軍もテリトリーに入った。
後は悪魔人族が出てくるまで進むのみだ。
最初にそれに気付いたのは紅猿だった。
「む。あれを見よ。集落らしき建物があるぞ。」
言われてそちらの方角を見れば確かに人が住んでいそうな煉瓦造りの家が見えた。
「ここで潰しておかなければ後から合流されて挟撃される恐れがあるな。」
金獅子が言う。
確かに挟まれたら面倒な事になる。
住人が非戦闘員なら無視して進めばいい。
と言う事で俺達は集落らしき方向に向かう。
「人間だぁー!」
「殺せぇー!」
集落から武装した悪魔人が飛びだしてきた。
その数約30体。
「相手は魔人だ。全員王化して臨むぞ!銀狼と灰虎は緑鳥達の護衛を任せた。」
金獅子が言う。
「王化!獣王!」
金獅子が声を上げると、右手中指のリングにはまる金色の王玉から金色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると獅子を想起させる兜に金色に輝く王鎧を身に着けた獣王形態となり駆け出す。
「王化!牙王!」
銀狼が声を上げると、左手中指のリングにはまる王玉から銀色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると狼を象った兜に銀色に輝く王鎧を身に着けた牙王形態となる。
「王化!龍王!」
蒼龍が声を上げると、首から下げたネックレスにはまる王玉から蒼色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると龍の意匠が施された兜に蒼色の王鎧を身に着けた龍王形態となり駆け出す。
「王化!武王!」
紅猿が声を上げると、左手親指のリングにはまる王玉から紅色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると猿をイメージさせる兜に紅色の王鎧を身に着けた武王形態となり駆け出す。
「王化。不死王。」
黄豹が声を上げると、右足のアンクレットにはまる王玉から黄色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると豹を想わせる兜に黄色の王鎧を身に着けた不死王形態となり駆け出す。
「王化!破王!」
白狐が声を上げると、右耳のピアスにはまる王玉から真っ白な煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると狐を想起させる兜に真っ白な王鎧を身に着けた破王形態となり駆け出す。
「王化!鬼王!斬鬼!」
紫鬼が声を上げると、左足にしたアンクレットにはまる王玉から青紫色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると額に1本の角を持つ鬼を象った兜に青紫色の王鎧を身に着けた鬼王形態となり駆け出す。
「王化!爪王!!」
灰虎が声を上げると左腕にしたバングルにはまる王玉から灰色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると虎をイメージさせる兜に灰色の王鎧を身に着けた爪王形態となる。
「王化。聖王!」
緑鳥が王化し、額に輝くサークレットにはまる緑色の王玉から緑色の煙を吐き出しその身に纏い、その煙が晴れると鳥をイメージさせる兜に緑色の王鎧を身に着けた聖王形態となる。
最後に俺も王化する。
「任せたぞ。ヨル!」
『あぁ。ワシに任せておけ。』
「王化!夜王!!」
ヨルが俺の体の中に入り、左耳のピアスにはまる王玉から真っ黒な煙を吐き出しその身に纏う。
その後煙が晴れると猫を思わせる兜に真っ黒な全身鎧、王鎧を身に着けた夜王形態となる。
俺は体の制御権を手放した。
ヨルは影収納から主力武器である黒刃・右月と黒刃・左月を取り出すと皆に合わせて駆け出す。
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夜王達に続くように帝国軍兵士達も魔人に向かって駆けだす。
「人間なんて私の炎で燃やし尽くしてくれる!デスフレア!」
悪魔人の放った魔法により5人の兵士が1度に燃え上がる。
「「ぎゃー!」」
「「うわー!」」
「体が燃える?!」
その炎は武具すら溶かし、兵士達を骨も残らぬほどの高温を発していた。
「相手は魔法使いだ。一気に接近して攻撃せよ!」
バルバドスの声が響く。
シャラマンとフェリオサの2人組も敵に接近する。
相手は手のひらを帝国軍兵士に向けて開き、また魔法を放つ。
「デスフレア!」
魔人の手のひらに30cm程度の紅蓮の炎の玉が作り出され、帝国軍兵士達に向かう。
戦闘にいた重装兵士が大楯で防ぐ。
しかし炎は大楯に燃え移り、大楯を支える重装兵に燃え広がる。
デスフレアは鉄すら燃やす高温の炎。
咄嗟に後ろの歩兵、槍兵は重装兵から離れた為、被害者は1人で済んだ。
しかし楯でも防げないとなると避けるしかなくなる。
重装兵を失った組の歩兵、槍兵が魔人に殺到する。
一斉に歩兵が長剣で斬りかかり、槍兵は槍で突く。
「ぐふっ。」
攻撃が魔人に入った。
僅かではあるが、剣はその体を切り裂き、槍も先端部分が刺さっている。
「攻撃が通ったぞー!」
「攻撃しろ!」
歩兵と槍兵が叫ぶ。
前に金獅子が言っていたように魔法を放つ魔人は身体強化の魔法は使えない。だからその表皮も種族特有の高度しかない。
帝国軍兵士達が対峙している魔人は表皮の硬度はそれ程でもないようだ。
次々と帝国軍兵士達が殺到し、その体を斬りつける、槍で突く。
しかしやはり魔人。生命力が違う。
傷つきながらも魔法を放ち続ける。
「デスフレア!デスフレア!」
近付いたそばから燃やされる歩兵。
その近くにいた事で燃え広がった槍兵。
魔人の魔法は受けたら最後、骨まで焼き尽くす。
あちらこちらで魔法が放たれ帝国軍兵士が燃えていく。
それでも果敢に攻め続ける帝国軍兵士達。
シャラマンとフェリオサの2人組も魔人と対峙していた。
2人に手を向け魔法を放とうとする魔人に対してシャラマンがシールドバッシュで相手の体勢を崩し、その隙を付いてフェリオサが細剣での突きを放つ。
魔法を放つ隙を与えない。
それが2人の出した答えだった。
フェリオサの細剣が魔人の喉を貫く。
シャラマンの手斧が魔人の肩を切り裂く。
魔人は苦し紛れに拳を放ってきたが、それはフェリオサの持つ大楯に当たる。
「ファイアウォール!」
魔人とシャラマン・フェリオサの間に3m程の火柱が立ちのぼる。
これでは接近出来ない。
そんな中、魔人の魔法が火柱を抜けてやってくる。
シャラマンは咄嗟に手にしていた手斧を炎に向けて投げる。
炎と手斧がぶつかりその場で手斧が燃え上がる。
が、それ以上シャラマンには近づかない。
「炎が来たら装備を投げて相殺しろ!」
シャラマンが大音声で叫ぶ。
シャラマンは腰に差した予備の手斧を手にする。
その頃には火柱も落ち着いていた。
果敢に攻める帝国軍兵士達。
いくら生命力が高くともそう何度も切り裂かれ、突かれれば限界はくる。
やがて1体の魔人が力尽きてその場に倒れ込む。
歩兵は長剣を、槍兵は槍を倒れ込んだ魔人に突き入れる。
やがて魔人は動かなくなった。
「魔人を1体倒したぞー!」
長剣を持った片手を大きく上げて宣言する1人の歩兵。
次の瞬間には魔人の放った魔法により燃え上がる。
まだまだ敵の数は多い。




