6話 試験2
倒したゴブリンの死体はそのままにして、もう少し森の奥まで進んでいると、岸壁にぽっかりと空いた洞窟があった。
しかもその洞窟の前にはゴブリンが4体ほどたむろしている。
これはもしかしたらゴブリンコミュニティーに遭遇したかもしれない。
ゴブリンコミュニティーとはその名の通りゴブリン達の集落である。
主にゴブリンキングを頂点としてゴブリンジェネラルやゴブリンソルジャーなどが数多くいる可能性がある。
危惧したのは洞窟の中に光源がない事だ。
俺はヨルに憑依されたおかげでかなりの暗闇でも見通すことができるようになった。
しかしブロリーはそうはいかないだろう。
だからといって松明などを持って一緒に侵入するとゴブリン達に侵入者の情報を伝えることになり、不利になる事が想定できる。
俺はブロリーに話しかける。
「恐らくあそこはゴブリンコミュニティーだと思う。ただ洞窟ないは暗闇っぽい。俺は夜目が効くから暗闇でも見えるがあんたはどうだ?」
「俺はさすがに暗闇の中では見えないな。松明が必要だ。」
「なら先に俺一人で先行して中のゴブリン達を一掃してくる。終わり次第あんたを呼んで松明持ってその状況を確認してもらうってのでどうだ?」
「あぁ。わかった。それでいこう。」
ということになった。
俺は一人見張りと思しき4体のゴブリンに一気に近づき、すべて首筋を切り裂いて絶命させる。
そして洞窟の中に入り込んだ。
思った通り洞窟内部は光源がなかったが暗闇すら見通すことができる俺の目には、はっきりとその内部が見えた。
思ったより奥深くはなさそうだが脇道がそれなりに多かった。
俺はまず直進して一番強いであろうゴブリンキングを倒すことにした。
途中何体かゴブリンに遭遇したが声を出される前に喉を切り裂き絶命させていった。
そして思った通り洞窟の奥には土で出来た玉座に座る王冠を被ったゴブリンキングがいた。
ただしその前には金属鎧に身を包み、大き目な斧を携えたゴブリンジェネラルが2体、王を守るように立っていた。
そこまでくるとゴブリン達も侵入者に気付き、前にも後ろにもゴブリン、ゴブリンソルジャーがうじゃうじゃ表れていた。
だが何体来ようが俺のやることは変わらない。
近づいてくるゴブリンの首筋を狙ってばったばったとその数を減らしていく。
兜をかぶったゴブリンソルジャーも首元を突いて一撃で仕留めていく。
何十体かのゴブリン、ゴブリンソルジャーを倒したところでやっとゴブリンジェネラルが動き出した。
思い斧を振り被り俺に襲いかかる。
ただ俺はいつも通り左手のナイフで振り下ろされた斧を受け流すと右手のナイフで目元を突いた。
流石に金属鎧を纏っているため、心臓を狙うことが難しかったのだ。
それでも目から脳に達したナイフは一撃でゴブリンジェネラルの命を奪った。
残る1体のゴブリンジェネラルは横薙ぎに斧を振るってきたため、俺は跳躍してその一撃を避けると、一体目と同じく目を狙って右のナイフを突き出す。
見事左目に刺さったナイフは脳まで達し、ゴブリンジェネラルの命を奪った。
最後に残ったのはゴブリンキングだ。
こいつは魔法を使うらしい。
手にした杖を俺に向け、なにやら口ずさむ。
すると杖の先から火球が現れ俺に向かってくる。
ファイアボールというやつだ。初めて目にするが親父から聞いていたので知っていた。
俺は右に転がりながら迫ってくる火球を避ける。
周りに散乱したゴブリン達の死骸が回避するのを邪魔する。
続いて2発目の火球が飛んでくる。
俺はスライディングすることをその火球を避けるとゴブリンキングに肉迫する。
慌てたようにゴブリンキングは手にした杖で俺を殴りに来るが、さすがにそんな一撃は食らわない。
俺は左手のナイフを一閃し、ゴブリンキングの首元を切断する。
数こそ多かったが何の問題もなくゴブリン達を一掃出来た。
俺は洞窟の入り口に向かいながら脇道1本1本に入り、うち漏らしがないことを確認していく。
一番奥の脇道に10体のゴブリンの赤ン坊がいたが、生かしておいても害になるだけだ。
一体ずつ首を落としていった。
そして俺は洞窟から出たのだった。
「2時間近くかかったな。敵は多かったのか?」
「まぁまぁってところかな。やっぱりゴブリンキングがいた。確認してきてくれ。」
「わかった。入口付近で待っていてくれ。」
そういうとブロリーは背中に背負ったリュックから松明を取り出し、洞窟の中に入っていく。
しばらくして少し興奮気味な口調でブロリーが言う。
「あの数を一気に相手取ったのか?かなりの数だったじゃないか」
「そうか?特に問題なかったぞ?それよりゴブリンキングを倒したのを確認したか?これでCランクは確定だよな?」
「あぁ。確かにゴブリンキングがいた。王冠も持ってきたぞ。唯一ゴブリン種で売れば金になるものだからな。」
「そうか。ありがとう。」
俺はそう言って王冠を受け取り、腰にぶら下げた巾着に仕舞う。
「できればオーガを狩ってBランクになりたいところだが、あんたオーガの生息地を知らないか?」
試しに聞いてみた。
「オーガだったらこの先の森でよく確認報告が上がっていたはずだ」
聞いてみるものである。早速俺達はさらに森の奥へと入っていった。
が、オーガに出会うことはなく、遭遇したのはジャイアントボア1体だけ。
ちょうどいいからそいつは今晩の夕飯にすることにした。
日も暮れ始めたため、俺達は水源を探して川にたどり着くと野営の準備を始めた。
と言っても俺は特にテントなどは持ってきていない。木の上で休むつもりだった。
対してブロリーはしっかりと準備してきたらしい。
背負った大き目のリックから簡易テントを取り出し設営する。
「手慣れたもんだな?」
「あぁ。傭兵時代から使ってるテントだ。今じゃ片手でも楽に設営できる。」
「なぁ。あんたの左手どうしたんだ?話したくなければ話さなくてもいいが。」
「これはクリムゾンベアに喰われたんだ。クリムゾンベアのランクはAランク。対する俺はBランクだったからな。全く太刀打ち出来なかった。襲われて無我夢中で逃げてる間に気が付いたら左腕がなくなってたのさ。」
「そうか。クリムゾンベア。この辺にも生息しているのか?」
「いや。やつは暑い気候を好む。もっと南にいかないと出てこないだろう。」
「そうか。いないのか。」
俺は少し残念に思いながら狩ったジャイアントボアの肉を焼き、夕食にする。
結構量があったのでブロリーにもおすそ分けした。
そして俺は手頃な木を見つけると上に上り眠りについた。
試験2日目。今日こそオーガを倒したい。
ランクが上がっていた方が街の行き来にも有効だと白狐から聞いている。
ちなみに見せてもらった白狐のランクはAランクだった。
さすがに100年も傭兵やってれば実績も信頼も得ることができると本人は言っていた。
だが一気にAランクにはなれない以上、Bランクを狙うべきだろう。
そう思いながら今日もまた森の奥へと入っていく。
しばらく進むとなにものかが木に体をこすりつけるような音が聞こえてきた。
これはベア種などがよく行う臭い付けの動作だと思われた。
匂いをつけて自分のテリトリーだと強調するのだと親父から聞いていた。
慎重に音を立てないように音のする方向に向かうとやはりいた。レッドベアだ。
レッドベアはジャイアントベアの上位種でレッドボア同様に全身を火達磨にして突っ込んでくる性質がある。
下手に相手取ると火事になる厄介な相手だ。
ちなみにクリムゾンベアはレッドベアの上位種に当たり、全身を火達磨にするだけでなく、口から火を噴くらしい。
その違いは体毛の赤さ加減で決まるらしい。
レッドベアの方が薄い赤色の体毛に対し、クリムゾンベアは深い紅色の体毛をしているらしい。
しかし俺には都合がいい。
レッドベアはオーガに並ぶBランクの魔獣だ。 俺はこいつを獲物とすることにした。
まずは先制攻撃だ。木に背中をこすりつけているところ、木の後ろに回り込み、首元を狙って左手のナイフを突き出した。
刺さったが浅い。
強靭な筋肉に阻まれて動脈切断には至らなかった。
と、攻撃を受けたレッドベアは
「ウウ。ガー」
と痛そうなそぶりも見せつつ両手を広げこちらに向き直った。
レッドベアが左腕を振り被る。
しかし俺は木の後ろに陣取っていたため、その攻撃は木にぶつかり、匂い付けしていた気をなぎ倒した。想像以上の怪力だ。
続いて右腕を振り上げるレッドベア。
俺は左手の逆手に持ったナイフで受け止める。
こちらも強靭な筋肉に阻まれて刃が通らない。
筋肉が高くて刃が通りにくいとなれば狙うは目だ。
だがレッドベアは身長2m越えの巨体だ。
簡単に目線の位置までは届かない。
そこで肩に乗ったヨルが言う。
『苦戦中だな。儂に代われ。久々に体を動かすにはもってこいの相手だ。』
出来れば自身の手で倒したいところだが、早く結果を出して試験を終わらせたい気持ちもある。
悩んだ俺はヨルに代わることにした。
「王化!夜王!!」
すると左耳にしたピアスにはまる漆黒の石から真っ黒い霧が噴出し、俺の体を覆う。
次の瞬間、霧は体に吸い込まれるように晴れ、残ったのは王鎧に身を包んだ俺だ。
そして俺の感覚はフィルム越しのように鈍くなる
「久しぶりの儂の出番だー!」
俺の声音とは別の声が俺の口から洩れる。
そして影収納から黒刃・右月と黒刃・左月を取り出すと左手は逆手、右手は順手と俺と同じファイティングポーズを取る。
「よし。レッドベアよ。思う存分かかってくるがよい!」
レッドベアが再び左腕を振り上げた。
ヨルは右手のナイフでその左腕を受け止めた。
すると先ほどは止まった腕が振りぬかれた。
と何かが下に落ちる音がする。
ちらっとそちらを見るとレッドベアの左手手首から先が切り放されて下に落ちていた。
左腕の先を失いまたしても唸るレッドベア。
しかし間髪入れず今度は右腕を振り上げてきた。
ヨルは左手のナイフでその右腕を受け止め、
またしても手首から先を切断することに成功。
両手を失ったレッドベアは呻きつつ噛みつこうとしてくる。
ヨルは冷静にレッドベアの下に入り込み、左右のナイフを交差させる。
するとドサっとレッドベアの首が落ちたのだった。
影収納に黒刃・右月と黒刃・左月を格納しつつ。
「王化。解除。」
王化を解除して少し離れた位置に待機していたブロリーに話かける。
「レッドベアを倒したぞ。これで俺もBランクだよな?」
「確かにレッベベア討伐を確認した。しかし先ほどの全身鎧姿はどういう?」
「まぁ俺の切り札さ。あまり詮索はしないでくれ。」
「あぁ。すまない。とにかくBランク魔獣の討伐を確認した。以上で試験を終わりとする。この結果はギルドに戻って報告させてもらう。」
「よろしく頼むよ。」
俺はレッドベアを解体しながら言う。
「あ。レッドベアの皮は高い炎耐性がある為、高額で取引されるぞ。」
「そうなんだ。んじゃ回収した方がいいな。」
俺は内臓だけを残して肉、皮を回収した。
それから俺達は街へと戻っていった。
ギルドに戻り、俺は無事にBランクの傭兵証明書を手に入れたのだった。