68話 都市4
金獅子達は朝から街長の家に行って昨日の話のおさらいなど、色々と話しを聞いていた。
「つまりこの街に住む魔人達にとっては人族領侵攻は関係のない話と言う事か?」
金獅子が確認の為にルイチェンに問う。
「えぇ。わたし達はここで今まで通りゆったり過ごせればいいのです。人族領に侵攻しようがそれは変わりませんからね。特に興味もありませんでした。と言っても魔将様達からしても無能の我々なんて興味はないようでしたけどね。進軍の兵士にも選ばれないような無能者ばかりですから、この街の住人は。」
「そうか。無能者ってのはこの街にいるだけなのか?」
「いえ。ここから東に行ったところと西に行ったところに小さい村がありますよ。東には鉱山があって鍛冶職人達が多く住んでいます。この街で売っている武具は東の村で作成されたものなんですよ。で、西の村には大きな畑がありましてね。この街で売っている作物はその多くが西の村で取れた物なんですよ。」
「他にも集落が。その集落の住人にも人族を襲う気はないのか?」
「えぇ。先程も言いましたが我々無能者は戦う力なんてほぼ皆無です。精々がジャイアントボアを討伐するくらいなもんです。そもそも人族領へのあこがれも恨みもありませんからね。人族領に侵攻してなんになるのかって思ってたくらいです。」
「大魔王とやらもそれでいいと言っているのか?」
「大魔王様なんて我々の事など眼中にないですよ。戦えない者なんか気にされていません。出兵準備なんかで武具を買いにこの街に来られた有能者の魔人達もおりましたが、特に我々に一緒に出兵せよだなんていいませんでした。わかってるんですよ。みなさん。我々が戦闘では役に立たないってね。」
ルイチェンは続ける。
「有能者達は聖邪結界がなければ人族領に攻め込めるのにって言ってましたがね。我々からすれば200年以上前からこの地に住んで街を作っていたんです。別に人族領に行けたからなんだって思ってましたよ。」
「200年前から?この地に?お前さん達は本当に魔族なのか?」
紅猿が尋ねる。
「祖先は人間らしいですけどね。ほらこの北の地って魔素が濃いじゃないですか?だから段々と魔素が体に溜まって魔力を帯びるようになったらしいです。晴れて魔人の仲間入りって訳です。わっはっは。」
なにがおかしかったのかルイチェンは笑い出す。
「そんなに昔から。本当にこの街の住民は皆、魔法が使えんのか?」
「うーん。正確には生活魔術と言われる攻撃には全く応用出来ない魔法を使える者も中にはいます。わたしもプチファイアだけは使えます。」
そう言うとルイチェンは右手人差し指を目の前に持ってきて言った。
「プチファイア」
するとルイチェンの右手人差し指の先端に僅かな炎が灯った。マッチの火くらいだ。
「ふう。魔法を使うと疲れるんですよ。」
ルイチェンは言って右手人差し指の炎を消した。
「生活魔術ってのは他にどんなのがあるんだ?」
金獅子が問う。
「そうですね。コップ1杯分くらいの水が出せるプチウォーター、手のひらサイズの砂を出せるプチサンド、親指サイズの氷が作れるアイス、息を吹きかけるくらいの微風を吹かかせるプチウィンド、ですかね。」
ルイチェンは答えるが皆微妙な顔で聞いていた。
「確かに戦闘向きの魔法じゃなさそうだな。」
「えぇ。正直なくても問題ないくらいです。プチウォーターくらいですかね。喉渇いた時に水場まで行かずに水が飲める。あとプチファイアはマッチがきれた時に使うか。その他は実際使う場面を見た事がありませんね。」
ルイチェンが言った時、扉がノックされたのだった。
「大変です!街の外に人間の大軍が来てます!街に攻め込んでくるかもしれません!」
家に駆け込んできた青年が言う。
「あぁそれなら大丈夫だ。我々の仲間が話をしに向かっている。」
銀狼が言うと青年は落ち着いてきたのだった。
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帝国軍の将軍バルバドスを連れて街長ルイチェンの家にやって来た。
先に来ていた金獅子達との話は一段落したらしい。
俺はルイチェンにバルバドスを、バルバドスにルイチェンを紹介する。
「ルイチェン、こちらは人族領にある帝国ってところの軍の将軍でバルバドス。バルバドス、こちらはこの無能の街の街長でルイチェンだ。」
「どうも。ルイチェンと言います。」
「うむ。俺は帝国軍将軍バルバドスだ。」
紹介も済んだところで俺達も椅子に座る。
帝国軍兵士達はバルバドスの後ろを守るように立っているが。
「それでここの街には人族に敵意のない戦えない魔人と聞いたが本当か?」
「えぇ。今もちょうどその話をしていたところです。」
「しかし魔族は200年前の聖邪戦争に敗れてこの北の地に追いやられたと聞く。それなのに人族に恨みはないのか?」
「えぇ。先ほども話していたのですが、我々の祖先がこの地に住むようになったのは200年以上前からです。別に聖邪戦争を機にここに住み始めた分けでもないので特に人族に対する悪感情はないんですよ。」
ルイチェンは言う。
「それこそ200年以上前は人族とも行き来があったらしく、この街で使われている魔道具なんかは全て人族領から買ってきたものらしいですよ。」
「それでは人族領に行けなくなった事を恨みに思う者はいるのか?」
「いえ。そもそも我々世代はすでに聖邪戦争の影響で人族領にはいけないのが当たり前でしたしね。なんで行けないんだって声もあがりません。我々はこの街で普通に過ごせればいいのです。」
それを聞いたバルバドスは呻る。
「むむむ。人族に悪感情は一切ないと?」
「えぇ。むしろ人族の方が我々に害意があるのではないかとビクビクしているくらいでして。今も街の外に大軍が押し寄せて来たって話は聞きました。この街は攻め滅ぼされてしまうのでしょうか?」
「むむ?そうだと言ったらどうする?」
「そうですね。若い衆は抵抗するかもしれませんが我々親父世代は素直に投降しますね。勝てるはずありませんから。」
ルイチェンは笑いながら言う。
「むむむ。害意はないが攻めてくるなら抗う者もいると?」
「まぁそれはいないとは言えませんね。皆今の暮らしを壊されたくはない。それにどうせ殺されるなら少しくらい抵抗してみようと思うのが人ってもんでしょう?」
「むむ。確かに言っている事はわかる。」
そこでばの後ろに立っていた女兵士、確か名前はフェリオサだったか。が、バルバドスに向かって言った。
「将軍、少しの間この街に滞在するのは如何でしょうか?そこの傭兵が言うには宿で快適に過ごせたとの事。であれば兵士達を交代で宿に泊めて鋭気を養わせるのも1つかと思いますわ。もしその間に攻められる事があれば外の軍を動かすと言うのでは如何でしょうか?」
「むむ。そうだな。それもありか。」
「ちなみに軍の方々はどのくらいの人数でいらつしゃるので?」
「むむ。今は9000名程度か。」
「あらー。さすがにその数を泊めきれる宿はないですね。そちらのお嬢さんの言うとおり交代で宿に泊まって頂く分には問題ありませんが。」
「むむ。1度に泊まれる人数はどの程度だ?」
「相部屋で宜しければ100名程度は可能かと。」
「むむ。全員1泊させるとなると90日もかかるな。」
「将軍、そこは上級兵士達だけに絞って宜しいかと思いますわ。」
「むむ。それなら10日程度で済むな。よしそうしよう。街長よ。すまんが100名が泊まれるだけの宿の準備をお願い出来るかな?」
「はい。畏まりました。」
ルイチェンはそう言うと近くにいた青年に声をかける。
声をかけられた青年はそのまま家を出て行く。
宿の準備に向かったのだろう。
「街長よ。ひとまずはそちらが害意はないと言う事を信じるが、滞在中何かあればすぐさま軍を動かすからな。くれぐれもその点は忘れるなよ。」
「はい。心得ております。」
そうして帝国軍将軍バルバドスと街長ルイチェンの話し合いは終わったのだった。
街長の家を出たところでバルバドスが俺に話しかけてきた。
「先程お借りしたこの水晶だがもう少し借りていても良いだろうか?」
「あぁ構わないよ。そうだ。その水晶は俺も持ってる。何かあれば俺を呼んでくれ。俺の名は黒猫だ。」
「む。黒猫殿だな。すまん。助かる。」
そう言うとバルバドスは一旦街の外で待機している兵士達に状況説明に行くと言って街を出て行ったのだった。




