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黒猫と12人の王  作者: 病床の翁


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66話 都市2

 門の横には門番が2名立っていた。

「お?見ない顔だね。旅の人達かい?」

 門番は気さくに声をかけてくる。

「良く見れば人間のようだが、南門からって事は墓地を抜けてきたのかい?」

 こちらが人間だとわかっても襲ってくるような事はない。

 対話出来そうな相手である。

 これには金獅子が代表して答える。

「あぁ。我々は人間だ。ここは魔人の街か?」

「なに言ってんだい。魔族領にあるんだから魔人の街に決まってるだろ。ようこそ。無能の街へ。」

「無能の街?」

 これには金獅子も頭を捻る。

「すまないが少し教えてくれ。無能の街とはどういう事だ?」

 銀狼が代わりに聞く。

「無能の街ってのは魔力はあっても魔法も使えない中途半端な魔人達の街さ。そう言うおれ達も魔法も使えない。普通の人間と何ら変わらんのさ。」

「人間と変わらない…。」

 今度は銀狼が黙りこむ。

 確かに門番たちは鎧に身を包んではいるが、見た目は人間の様だ。

 ただ若干肌が青白いかな程度である。

「って事はここには戦えない魔人が集まっているって事か?」

 俺が代わりに問う。

「あぁ。人族領侵攻がどうのって話には聞いてたがおれ達には関係ないね。」

「むしろこうして人間が来てるって事は人族領侵攻は失敗したって事なんだろう?」

「ん?あぁ。こうして魔族領に侵攻している。」

「なに?じゃあこの街にも侵攻を?」

「あ。いや。普通の街には用はない。あくまで人族領侵攻しようとしてくる魔族軍に用があるだけだ。」

「なんだ。そういう事か。なら別にいいか。この街に入っていくかい?」

 こちらが人間だとわかった上で入るかと問うてくる。罠か。

「中に入ってから皆で取り囲むつもりか?」

「なに言ってんだい。あんたら有能魔人を倒してここまで来たんだろう?そんな相手に我々無能が敵うわけないじゃないか。」

「そうだぞ。さっきも言ったが我々は身体強化の魔法も使えない無能な集まりだ。あんたらが攻め込むってんならすぐにでも白旗をあげるさ。」

 門番達が言う。

「おれ達はこの街で平和に過ごしたいだけだ。魔物にも魔獣にも襲われる事なくな。だから防御壁をこさえた。でも人間が攻め込んでくる想定はしてなかったからな。防備もなにもあったもんじゃない。」

「だからあんたらが侵攻者としてこの街に入るならまず街長を訪ねて欲しい。きっと白旗振って投降するだろうさ。」

 俺も状況がいまいちつかめないがここには無能と言われる魔人が住んでおり、人間と戦うだけの力はないと言う。攻め入るならすぐに白旗振るから街長を訪ねて投降させろって事だろうか。

「うむ。とりあえず中に入ってみるしかあるまい。例え罠だったとしてもな。」

 蒼龍が言う。

「そうだよ。こんな所に突っ立ってても何にもならないさ。その人達が言う街長に会いに行こうじゃないか。」

 灰虎も言ってくる。

「よし。街に入るんだな?今門を開けさせるからちょっと待っててくれ。」

 門番は言うと門を3回叩いて声を張り上げる。

「かいもーん。かいもーん。」

 その声を合図に門が開いていく。縦に動く仕組みらしく、だんだんと上に上がっていき通行できるスペースが空いてくる。

 ゴゴン。っと音がして門の動きが止まった。

「はいよ。お待たせ。んじゃ改めて無能の街へようこそ。」

「門をくぐって通りを真っすぐ言ったところにあるちょっと大き目の屋敷が街長の家だ。」


 門番に言われ俺達は門をくぐった。

 もちろんいつ襲われてもいいように緑鳥を守るように円になり周囲への警戒も忘れない。

「油断するなよ。俺様達をいつ襲ってくるかわからんからな。」

 金獅子がみんなに注意を呼び掛ける。

 しかし、門をくぐった俺達が目にしたのは、普通の人間の街と寸分変わりない街並みだった。

 街の中には煉瓦造りの家屋が並び、待ちゆく人も多少顔色が青白いだけで普通の人間となんら変わらない。角もないし羽もない、尻尾も生えていないし、巨人のようにデカくもない。

『確かにこいつら魔力は持っているようだな。』

 俺の外套のフードにいたヨルが言う。

「えぇ。あ。私達は妖気を操るので同じような性質の魔力有無も感じとれるんですよ。」

 白狐が補足してくれる。

「うむ。でも微々たるものじゃ。今まで対峙してきた魔物や魔人と比べるべくもない。無能の街ってのもあながち嘘ではないじゃろう。この魔力量ではなんの魔法を使っても大した威力は出せんだろう。」

 紫鬼も言う。

 妖気持ちの3人(2人と1匹)がそう言うのだ。間違いはないのだろう。

 それにしても。

 待ちゆく人といい、道の左右に立ち並ぶ商店といい、本当に普通の人間の街と変わらないように見える。

 この光景だけ見ればここが魔族領だと言う事すら忘れてしまいそうだ。

「ひとまずは街長の家ってのに向かうか。通りを真っすぐとの事だったが。」

「いかにも。ただ本当に行くのか?行った途端に囲まれる可能性も捨てきれんぞ。」

 銀狼の言葉に紅猿が疑問を呈する。

「でも灰虎の言う通りここで待機しててもなにも変わらないでしょう。大丈夫ですよ。もし囲まれたりしたら私の愛刀、白刃・白百合の出番が来るだけです。」

 本当に白狐は刀を振るいたがる。困ったもんだ。

 だが、言う事は正論だ。

 街に入ってすぐ囲まれないと言う事は街長の街に行ってから何かしらが起きると考えるべきだろう。

 俺達は周囲への計画を怠らず、街の中を真っすぐ進む。

 途中待ちゆく魔人にもすれ違うし、店を切り盛りしている店主の魔人にも出会うが何もしてこない。

 むしろ固まってゆっくり歩く俺達を興味深そうに見ていた。

「やたらジロジロ見られている気がするな。」

「やっぱり人間だから襲う機会を伺っているんじゃないか?」

「それにしては殺気もないな。」

 金獅子と銀狼が会話しながらもじりじりと街長の屋敷まで進んでいく。

 30分も進んだだろうか。

 確かに回りの家より少し大きめな家があった。

 俺達はドアノッカーで訪問を伝える。

 しばらくするとドアが開く。少しくたびれた感じのおっさんが顔を覗かせる。

「どちら様?って人間ですか?もしかして本当にこの街に侵攻して来たので?すいません。すいません。我々は戦闘能力のないただの魔人に過ぎません。どうか命だけは。」

 唐突にその場に土下座し始める街長らしき男。

「いやいきなり襲う気はない。少し会話させて貰えないだろうか。我々も状況があまりわかっていないのだ。話を聞かせて欲しい。」

「わたしを殺しに来たのではないと?では立ち上がってもよろしいでしょうか?」

「あぁ立ち上がってくれ。で、こちらは10名いるのだが中に通して貰えるだろうか?」

「えぇ。どうぞ。中はそれなに広さがありますから。」

「ワシと灰虎は出口で待機させて貰う。中で会話中に村人達が集まってくる可能性もある。見張りは必要だろう。」

 紫鬼が言うので2人を見張りとして外に残した。

 俺達8人は街長の家に上がらせて貰う。

「それでここはどういう街なんだ?門番からは無能の街と聞いたが。」

 代表して俺が尋ねる。

「えぇ。その名の通り無能が集まって出来た街です。そもそも皆さん魔人には有能種と無能種がいるのはご存じで?」

「いや。初めて聞いた。」

「そうですか。ではまずそこから説明を。まず有能種ですが近くで言えば墓地に住まうヴァンパイア等の魔法を使う者、もしくは岩山に住まう巨人達のように身体能力向上の魔法を使える者達を言います。魔力を持ち、それを魔法に出来る者達です。一方無能種とは我々のようにただの人間に魔力が伴っているだけで魔法など一切使えない者達です。」

「魔力があれば魔法が使えるんじゃないのか?」

「魔法を使うには一定量の魔力が必要になります。我々無能種はその最低量にも至らないだけの魔力しか持ち合わせておりません。」

「そもそもあんたらは本当に魔人なのか?魔人って言ったら魔物が知力をつけたものだろう?あんたら見た目は普通の人間と変わらないじゃないか?」

 銀狼が疑問を投げかける。

「魔力を持つ者はすべて魔人と分類されます。ですから200年前の聖邪戦争でも我々無能者は戦闘に参加していませんが、魔人には変わりありません。」

「魔力があれば魔人って言っても戦う力はないんだろう?」

「えぇ。食料調達の為にホーンラビットやジャイアントボアなどを狩る事はありますが、それ以上の魔物となると歯が立ちません。ですからこうして外壁のある街に逃げ込んでいるわけです。」

「じゃあここからが本題だ。オレ達は人間で魔族領へ侵攻して来た傭兵団だ。いままで九大魔将を4体も討伐してきた。そんな俺達をこの街はどうする?」

「どうすると言われましても九大魔将を打ち破るような方達に我々がかなう道理がありませんのでな。お手上げです。白旗振りますので、どうか街の人々に危害を加えるのだけはご勘弁願えませんか?」

「ふむ。本当に戦う意思はないように見える。それならば俺様達も危害を加えるつもりはない。あくまで今回魔族領侵攻しているのは人族領侵攻してくる敵を討つ為だ。敵にならないのであれば我らが敵対する必要もない。」

 金獅子がまとめる。

「では我々は見逃がして頂けるのですね。ありがとうございます。それではそこまで大きな街ではありませんが、滞在していって下さい。ここまで戦闘続きでお疲れでしょう?宿を用意させますので。少々お待ちを。」

 そう言って街長は家を出て言った。俺達ももし街長が魔人達を連れて襲ってきてもいいように家から出て警戒態勢を取っておく。

 しばらく待つと、

「お待たせしました。この街で一番の宿をご準備致しました。本来は1人あたり銀貨1枚ですが、今回はわたしの方でご準備致しましたのでお代は結構です。ささ。こちらです。」

 街長は魔人を連れたつ事もせず1人で戻ってきた。

 俺達を宿まで案内してくれるらしい。

 ひとまず俺達は街長に言われるがままに街を歩く事にした。


 一応移動中も警戒態勢を取っていたが何も起きず、俺達は街長が手配したと言う宿屋に到着した。

「あぁ。そう言えば申し遅れました。わたし、ルイチェンと言います。この街の街長をしておりますので、街に滞在中になにかありましたがお声がけください。基本的にあの家におりますので。」

 そう言って街長は帰っていった。

 俺達はひとまず宿屋に入る。

 通された部屋は普通の人族領の街で入る宿屋と寸分変わらず、1人部屋で全10室、3階の奥から連続して準備してくれていた。

 部屋の中も普通だ。ベットに簡易テーブルに椅子がある、普通の部屋だった。

「どうなってんだ?本当に普通の宿屋だぞ?」

「うむ。これも罠の1つだと考えるには無理がありそうである。」

「ひとまずベットがあるんじゃ。休ませて貰おうや。」

 銀狼、紅猿、紫鬼が言う。

 俺達は一応、襲われても対処出来るよう、野営の時同様に2人組になって部屋の前で待機する事にした。

 それにしても久しぶりのベットだ。

 あまり深々と眠らないように注意が必要だろう。

 宿屋では夕食も提供されると言われたが、毒でも入れられたら困る。

 俺達は俺特製のカレーを皆で食べて就寝する事にした。


 夜の間に襲撃される事もなく、俺達は久々のベットで十分な睡眠をとる事が出来たのであった。


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