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黒猫と12人の王  作者: 病床の翁


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64話 死人9

 ヨル達が魔将を打ち破る頃にはスケルトンやゾンビの数も随分と減っていた。

 見渡す限りを埋め尽くしていたスケルトン達だったが今はまばらに帝国軍兵士と戦っている。

 ヨル達は緑鳥達と合流する。

 緑鳥は銀狼と灰虎、それに紫鬼に守られながらなおも浄化の聖術を使い続けていた。

「親愛なる聖神様、その比護により彷徨う魂を救い給え、そのお力で彼らに慈悲を与え給え。ターンアンデッド!」

 今も緑鳥の正面にいたスケルトンソルジャーが操り人形の糸が切れたかのようにその場に崩れ落ちる。

「そんなに聖術を使い続けて大丈夫なのか?」

 ヨルが問うが緑鳥は、

「まだ聖気には余力があります。大丈夫です。皆さんを癒す力は残しておきますので。」

 そう答えた。

「いや。あとはオレ達だけでもなんとか出来る量だ。緑鳥は帝国兵士達も癒せるように聖気を温存してくれ。」

 銀狼が言う。

「わかりました。では残りはよろしくお願い致します。」

「あぁ。任された。」

 そう言うと銀狼は片腕にも関わらず近寄ってきたスケルトンソルジャーを切って捨てた。


「儂達もばらけて残りの殲滅に向かう。」

「ん。僕も行く。」

 そう言う黄豹は先程まで胸に大穴を開け右の肩先が吹っ飛んでいたとは思えないくらいに普通の状態だった。

 右腕から先も生えており、きちんと王鎧に包まれている。

「お前は大丈夫なのか?さっきは大怪我だったが?」

 ヨルが問うが黄豹は答える。

「大丈夫。僕は不死王だから。王化している間は何があっても死なないよ。」

「いや。そうではなくて。回復するのに多くの神通力を使ったりはしていないのか?」

「んー?そのあたりはよくわからない。」

 とにかく王化状態を維持している限りはどんな怪我も治るし、死にはしないのだと言う。

「死神の加護も凄まじいものよな。」

 ヨルは言ってスケルトン達が蠢く場所へと駆け出した。


 それからほどなくして、あたり一面にはスケルトンだった骨とゾンビだった肉片が散らばっているが動く魔物の姿はなくなった。

 ヨル達は王化を解いた。

 俺は体の制御を取り戻し、ヨルは子猫の姿となって俺の外套のフードの中に収まった。

 帝国軍兵士達には少なくない犠牲が出ているようで、今も負傷者達を衛生兵が治療している。

 その状況を前に緑鳥が立ち上がった。

 帝国軍兵士達が固まる一角へと足を運ぶと呪文を唱え始める。

「親愛なる聖神様、その庇護により目の前の傷つきし者達に癒しの奇跡を起こし給え。エリアヒーリング!」

 緑鳥の持つ錫杖にはまる魔石が輝き出し、1万近い兵士達全体を包みこむ。

 するとさきほどまで傷にうなされていた者達が静かになる。

 傷が塞がっているのだ。

 これには帝国兵士全員が驚いた。


 帝国軍バルバドスが緑鳥に駆け寄る。

「今の奇跡は貴方が?」

「はい。わたしは聖都で聖王をしております。緑鳥と申します。」

「なんと!?あの聖王様で?なぜこんなところに?」

「はい。聖王です。仲間の皆さんと一緒に旅をしているのですよ。」

「なんと傭兵集団の中に聖王様がおられたとは。これは大変失礼致しました。先程の奇跡、ありがとうございます。」

「いいえ。わたしには皆さんを癒す事しか出来ませんから。」

「なにをおっしゃいますか。一度の聖術で全員を癒してしまうなど聖王様にしかできない神の御業でございます。」

 相手が聖王だと聞いて言葉遣いが変わるバルバドス。

 確かに相手が一国の王ともなれば敬語にもなるだろう。

 一国の王と言えば金獅子もだがここは黙っておく。

「それではあの傭兵集団は聖王様のお供として一緒にいるのですね。」

「いえ。別にお供と言う訳ではなく。あくまで仲間です。」

「なるほど。聖王様のお仲間と言う事であればそれなりの対応が必要でしたね。今までのご無礼、失礼致しました。」

「いえ。そこまで畏まらなくても良いですよ。あくまで今のわたしは傭兵団の一員と言う事で。」

「わかりました。ではそう言う事で。」

 バルバドスは緑鳥との会話を終えると蒼龍の元へとやってきた。

「先程はヴァンパイアの討伐を手伝って頂き、ありがとうございました。」

 あくまでこちらが討伐の手伝いをしたという事になるらしい。

「いや。我は敵を倒しただけの事。礼を言われる事ではない。」

「そうか。でも貴殿のおかげで我々は助かったのだ。改めて礼を言う。」

「む。わかった。素直に受け取っておこう。」

 蒼龍は答えた。


「貴様!先程は俺達をバカにしたな!ヴァンパイア相手に戦えないだとか抜かしやがって!」

 こっちでは白狐が勇者パーティーの戦士、ライオネルにいちゃもんを付けられていた。

「ヴァンパイア相手に攻めあぐねていたのは事実でしょう?」

 白狐は冷静に答える。

 その態度がまた気に食わなかったようでライオネルはさらに激高する。

「なんだと!?俺達は奴の腕を切り落としたんだぞ。もう少しで倒せるところだったんだ!それを貴様が横取りしたんだぞ!」

「横取りって。私はただ目の前の敵を倒しただけです。」

「だからその目の前の敵にはすでに俺達が向かっていただろうが!」

「なんなんですか?さっきから。私にどうしろって言うんです?」

「謝れ。俺達がヴァンパイア相手に戦えないと言った事を謝れ。」

 相手にするのが面倒になったのか白狐は淡々と言う。

「はいはい。すみませんでした。これで満足ですか?」

「誠意が足りん!きちんと謝れ!」

 ライオネルがなおも言い募る。

 さすがにこれはと思った俺はライオネルに近づき言う。

「おい!そのぐらいにしておけよ。」

「なんだ貴様は?関係ない奴は黙ってろ!」

「関係なくはない。こいつは俺の妻だ。妻が攻められているのだから夫が出るのは当たり前だろう。」

「クロさん。初めて私の事を妻って言ってくれましたね。」

「あ。いや。それはその。夫なんだから当たり前だろう。」

「クロさん。照れちゃって可愛いですね。」

「なにイチャついてやがる!」

 俺と白狐のやり取りを見てさらに激高するライオネル。

 そこで勇者バッシュが声を上げた。

「ライオネル。もういいだろう。そのぐらいにしておきなさい。」

「いや。でも勇者様。」

「ライオネル。僕の言う事が聞けないのかい?」

「わ、わかりました。すいません。」

 ライオネルが静かになる。

 そして捨て台詞を吐いて帝国軍兵士達の方へと戻っていった。

「今回はこのぐらいにしてやる!次はないからな!」

 毎度騒がしい奴である。


 なんにせよ、長かった戦いが終わった。

 数は多かったがランクの低い魔物ばかりであった為、俺達に被害はなし。

 王化を解いた黄豹も特に問題ないようだ。

 あれほどの傷を受けながらも回復してしまうとはやはり死神の加護は凄いな。

 紫鬼と灰虎も互いの無事を確認し合っている。

 やっぱりあの2人、なんかあるな。

 休憩したいところだったが、流石に骨や肉片があちこちに散らばっているそこで休み気にはならず、少し北に移動して墓地を抜けてから休息をとる事にした。


 九大魔将は強いかった。

 黄豹がいなかったらヨルだけでは倒しきれなかったかもしれない。

 俺は影収納から作り置きのカレーを取り出して皆に配りながら思う。

 相性も重要だなとつくづく思った戦いだった。

 皆にカレーが回ったところで銀狼が言う。

「頂きます。」

 それを合図に皆が言う。

「「「「「「「頂きます。」」」」」」」

「ます。」

 黄豹だけは語尾しか言わなかったが。

『頂きます。』

 珍しくヨルも言ってから食べ始める。

 またこうして皆で食事を囲むことが出来て良かった。

 次の戦いの後もこうして皆で食事がとれるといいな。

 と思いながら俺も食べ始めるのであった。


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