596話 エルスガルド商国2
湯町エルスワンダに到着した俺達を待っていたのは町の規模とは不釣り合いな門と検問所だった。
門の前には沢山の人が並んでいる為、俺達もその後ろについた。
30分もすると俺達の順番が回ってきたのだが、ここで信じられない事が起こった。
「湯あみ料金として1人辺り銀貨1枚だって?」
驚きすぎて思わず声が大きくなった。
「そうだ。誰でも彼でも入れてしまうと温泉が人で溢れてしまう。だから領主様がこの湯あみ料金としての入町料を設定されたのだ。払えないなら帰ってくれて構わないぞ。」
「いや、払うよ。4人分で銀貨4枚な。」
「うむ。確かに。ではこちらの湯手形を4枚渡しておく。この町の温泉に入る際には必ず提示する必要があるから忘れずに携行するように。はい
、次の方。」
警備兵は湯手形とやらを渡すとすぐに後ろの人達の対応を始めた。
門番なら良い温泉宿でも知っているかと思ったのだが、聞いている余裕はなさそうだ。
仕方ない。町の中で情報収集しよう。
「まさか町に入るのに銀貨1枚もかかるとはな。驚きじゃ。」
俺が皆に湯手形を渡しながら歩いていると紫鬼が呟いた。
「前に話聞いた時にはそんなシステムなかってんけどなぁ。領主が変わって出来たルールなんかもしれんな。」
「どっかの誰かが何かやらかしたんでしょう。だから町に入る人間を厳選し始めたと。源泉があるだけに。」
「上手くないぞ。湯手形は絶対無くすなよな。」
白狐のダジャレは無視して俺達はまず宿屋を探した。
町の区画は大きく4つに分かれており、宿屋の多くあるエリア、日帰りの入浴場のあるエリア、土産物を取り扱うエリア、町の住民の住まうエリアに分かれていた。
俺達は宿屋について聞き込みするために日帰り温泉が多いエリアに足を向けた。
到着したのはひっきりなしに人が入ったり出たりしている浴場。
「ほな、ワイはひとっ風呂浴びながら宿屋について聞いてみるわ。」
そう言い残すと朱鮫は早速温泉に浸かりに行った。
「あ、ズルいですよ。私も温泉の中で聞き込みしてきますっ!」
それに釣られて白狐も温泉へと向かう。
仕方ないので俺と紫鬼の2人で入湯後の人達に話を聞くことにした。
俺は今まさに湯から上がったばかりと見える身体から湯気を立ち上らせる坊主頭の中年男性に声をかけた。
「なんや、あんちゃん。この湯町初めてかいな?ほな温泉マスターのワテが色々教えたるわ。」
なんか面倒くさそうな人に声を掛けてしまったかもしれないと少し後悔している中、坊主頭の説明が始まった。
「まずは旅館やけど、これは1番人気はなんと言っても高級旅館の『志賀の里』やな。高級旅館言うだけあって飯も美味いし、併設されとる温泉も湯治の湯として有名や。ただここは部屋に温泉はない。そうなるとワテのお薦めは『浜野宿』やね。こっちは中堅処の旅館やけど、部屋に温泉がついとる。各部屋についとるからもちろん貸し切り風呂や。女と泊まった際には混浴も出来る。周りの目もないし、やりたい放題やで。」
「なるほど。部屋に風呂があるのは良いな。」
「せやろ?んで何処に泊まろうと1回入っておいた方がええのんが『美人の湯』や。ここは他の追随を許さんくらいに美肌効果に特化した温泉でな。切り傷くらいなら跡形もなく消えてまう。昔の大剣豪の頬についた刀傷を一晩で治してしもうたって話があるくらいやわ。あれは男でも入っておくべきやな。翌日の肌の張りがちゃう。んで別の意味でお薦めなんが『白樺の湯』や。ここはこの温泉地で唯一の混浴温泉や。しかも湯治に良いって言うんで老若男女見境なく入ってくる。独り身の目の保養には最適やで。ただ混浴やからってジロジロ見るのはマナー違反やからな。見てないようでコッソリ見るのが礼儀ってもんやから注意せんといかんよ。」
一気にまくし立てられて情報過多である。取り敢えず『白樺の湯』は避けた方がトラブルにはならなそうだな。
んで本題の宿の方は『浜野宿』がいいかな。殺し屋時代にも色々と傷を負っている為、俺の身体は傷だらけだ。すべて完治している傷とは言え、見者からすれば恐怖の対象だろう。部屋に風呂があった方がその辺も気にならないし、何より時間を気にしなくて済む。仕事明けの早朝でも入れるのはちょうどいいだろう。
「ありがとう。参考になったよ。」
「おう。なんかあったらまたこの温泉マスターに聞いてや。基本的にどっかの日帰り温泉に入っとるから。」
「あぁ。その時は頼む。」
当たり障りない回答を返して俺は温泉マスターから離れた。
1時間後、紫鬼と一緒に暫し待つと温泉から出てきた白狐、朱鮫とも合流した。
「聞いてきましたよー!結構な頻度で『浜野宿』ってところを紹介されました。部屋に温泉がついてるそうですよ。」
「あ、それワイも聞いたわ。あとは価格の割りに良い宿って話の『松田屋』って旅館の話題も出たわ。」
「ワシが聞いた相手も『浜野宿』を薦めて来たぞ。部屋に風呂があるから好きな時間に好きなだけ入っていられるから人気なんだとか。」
「俺も自称温泉マスターに聞いたよ。んじゃ宿は『浜野宿』でいいかな?」
「「「異議なし。」」」
と言う事で早速『浜野宿』に移動した俺達はちょうどキャンセルが出て空いたと言う部屋を3部屋確保することに成功したのだった。




