58話 死人3
一番にドラゴンゾンビの前に着いたのは金獅子だった。
「喰らえ!断頭斬!」
跳躍からの全体重を乗せた大剣の振り下ろし攻撃だ。
しかし腐っててもドラゴン。
その竜鱗に弾かれてしまう。
「むむ。こいつら生きてるドラゴンと相違ない硬さだぞ。気をつけろ!」
金獅子が回りに向かって注意する。
もう1体には蒼龍と白狐が向かっている。
「水撃・龍翔閃!」
突き出された槍の先端から高圧の水撃が放たれ、ドラゴンゾンビの顎を直撃する。
ドラゴンゾンビはやや後退したが倒れる事はなかった。
「確かに硬いままだな。」
蒼龍も言う。
「飛剣・鎌鼬」
高速の抜刀術により発生した真空の刃がドラゴンゾンビに当たるが微動だにしない。
「ドラゴンと戦うのは初めてじゃないですが、ゾンビ化してるのは初めてです。」
白狐も言うのであった。
ジャイアントゾンビに対するのは紫鬼、紅猿、黄豹、ヨルの4人だ。
紫鬼と紅猿は5m級を1体ずつ、黄豹とヨルで7m級を1体を相手にするようだ。
「鬼拳!」
紫鬼が必殺の拳をジャイアントゾンビの膝目掛けてお見舞いする。
脚が逆方向に曲がるもまだ倒れず耐えている。
ゾンビ化したことで通常の身体構造と若干異なるのかもしれない。
「猿炎蹴牙突!」
燃え盛る棒を手にジャイアントゾンビへと突貫する紅猿。
その突きは見事にジャイアントゾンビの脇腹を抉る。
が、脇腹を抉られ、臓物がこぼれ出してもジャイアントゾンビは止まらない。
後ろに抜けた紅猿目掛けて拳を振り上げる。
「ゾンビ化したことでちょっとやそっとじゃ倒れなくなっておるわ!」
紅猿がヨル達にも聞こえる声で言う。
一方7m級と一番大きなジャイアントゾンビを相手取っている黄豹とヨルに関しては通常運転である。
つまり跳躍して首元を狙い、首の切断を目論んでいるのだ。
だがその攻撃も普通の巨人相手にしているかのようになかなか肉に入り込まない。
「ん。腐ってるのは皮膚だけ。筋肉は厚いまま。」
「そうだな。まぁどれだけ厚かろうがやる事は変わらん。首を落とせば勝ちだ。いくぞ。」
「ん。僕も頑張る。」
「親愛なる聖神様、その比護により彷徨う魂を救い給え、そのお力で彼らに慈悲を与え給え。ターンアンデッド!」
緑鳥の聖術が7m級のジャイアントゾンビに当たる。
が、1撃では浄化することは叶わず僅かに弱体化しただけだった。
それでも術行使前に比べて刃が通りやすくなった。
「いいぞ。聖王よ。浄化は出来なくとも弱体化はしておる。他のジャイアントゾンビ、ドラゴンゾンビにも頼む。」
「はい!」
ヨルが言い、緑鳥が返事をする。
まだ普通のゾンビも残っており、銀狼と灰虎がそれらを排除しながら聖術の圏内に他のジャイアントゾンビが入る位置まで移動する緑鳥達。
「親愛なる聖神様、その比護により彷徨う魂を救い給え、そのお力で彼らに慈悲を与え給え。ターンアンデッド!」
紫鬼が対峙していたジャイアントゾンビに聖術が当たる。
「お?助かるぞ。緑鳥。」
紫鬼が礼を言う。
「親愛なる聖神様、その比護により彷徨う魂を救い給え、そのお力で彼らに慈悲を与え給え。ターンアンデッド!」
紅猿が対峙していたジャイアントゾンビに聖術が当たる。
「うむ。助かる。」
紅猿が礼を言う。
緑鳥達がドラゴンゾンビの方へ移動し、聖術を使おうとした時、戦場に声が響いた。
「ミーの領域内で清浄なる力を行使するとはいい度胸だねぇーえ。」
そちらを向くと黒髪ロングの女が蝙蝠の翼を広げ空中に浮んでいた。
「ミーは不死族を纏める第九魔将が一人、ヴァンパイアの五身の五木といいまぁーす。」
蝙蝠の翼をはためかせながら女は言う。
遠くからでもわかるくらいにプロポーションがいい。
むしろ良すぎる。
出るところは出て引っ込むところは引っ込む、まさにボンキュッボンだった。
女の肌は青白く、その口元には長い犬歯が覗く。
瞳は血のような赤だった。
その女、五身の五木は続ける。
「不死族の長としてこれ以上、同族をやらせはしませんよぉーお」
「ちっ吸血鬼か。厄介な相手だな。」
「ん。魔法使う?」
「あぁ。やつらは魔法のスペシャリストだ。」
ヨルと黄豹が話す。
「ん。ならあいつの相手は僕がするよ。魔法使いには僕が対処する話になってたからね。ここ任せていい?」
「あぁ。問題ない。儂もとっととこいつを倒して加勢に向かう。気をつけろよ。」
ヨルはそう言って黄豹を送り出す。
「ミーの眷属達を紹介しましょーう。いでよ。五大貴族衆!」
女が言うと新たにヴァンパイアが5体現れた。
1体は髪の長い女、1体は髪の短い女、1体は長髪の男、1体は短髪の男、1体は坊主頭の男である。
女ヴァンパイアはそれぞれドレスを、男ヴァンパイアはタクシードを着込んでいる。
いかにも貴族のような佇まいである。
5体すべての口元には長い犬歯が覗き、瞳の色は血のような赤。
「純血種であるミーに比べればその力は半減しますが貴族階級の5名ですからねぇーえ。貴方方の相手をするには十分でしょーう。行け!眷属達よーお!」
その声に合わせて5体のヴァンパイアが戦場に乗り込んできた。
2体の女は帝国軍兵士の元へ、長髪の男と短髪の男、坊主頭の男はヨル達の方へと向かってくる。
そこでちょうど紫鬼と紅猿がジャイアントゾンビを倒し終えた。
聖術により弱体化した為、思っていたよりもすんなりと倒すことが出来たようだ。
紫鬼と紅猿は近づいてくるヴァンパイアに対峙する。
一方、黄豹も空に浮かんだまま動かない九大魔将の一人に向かって駆けていく。
戦場はさらなる混乱へと突入した。
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勇者バッシュは調子に乗っていた。
向かってくる敵がスケルトンやゾンビから、その上位種であるスケルトンソルジャー、スケルトンナイトになったところで所詮はEランクにDランク、勇者の手にかかれば一撃で仕留める事が出来た。
遠くにジャイアントゾンビとドラゴンゾンビが出現したことには気づいたがそれらはあの怪しい鎧の一団が向かった。
自分はこの雑魚どもを相手にすればいい。
そう思っていた。
しかし突如としてヴァンパイアが出現、2体もの貴族階級のヴァンパイアが襲ってきたのだ。




