553話 開国祭10
「やっぱええなぁ。男同士の真剣勝負言うんは。」
決勝戦を見終わった翠鷹がポツリと呟く。
「こう言うの好きだったのか?」
思わず聞き返すと
「だって、飛び散る汗、流れる汗、汗に濡れた髪、汗で貼り付く着衣。どれも青春って感じやないの。」
「青春ねぇ。」
「黒猫はんはお嫌いですか?」
「いや、俺の場合はどうやって相手の息の根を止めるかを考えてしまうからな。正々堂々とってのはあまり、な。」
「そうかぁ。元殺し屋やったっけか。戦い方がちゃうってことやね。」
「あぁ。俺は基本的に奇襲だったからな。」
「うちも軍師として暗殺者には気をつけてたんやけど、黒猫はんみたいなんが来なくて良かったわ。」
「俺は凄腕だったからな。そうそう同じレベルはいないさ。」
決勝戦を終えて観客達もちらほら帰り支度を初めている。
壇上では優勝を決めた紫鬼が賞金を受け取って歓声を浴びている。
「さて、ワイらも帰りまひょか。」
朱鮫が言うので俺達も帰り支度を始める。
出場選手だった金獅子と銀狼、紫鬼とは闘技場外で待ち合わせだ。
俺達が外に出るとすでに金獅子達の姿があった。
観客達がはけるのを待ってから席を立った為、俺達の方が時間がかかったらしい。
「銀狼殿、決勝戦のダメージはもう大丈夫なんか?」
「あぁ。完璧に意識を刈り取られたけどな。倒れ方が良かったらしい。そこまでダメージは残ってない。」
朱鮫の質問に銀狼が答える。
「金獅子さんも銀狼さんも惜しかったですね。」
白狐が2人を労う。
「なぁに、あのまま続けておったら俺様の勝ちもあったさ。ただ祭りで大怪我というのも笑えないからな。ほどほどで切り上げたまでよ。」
「オレは完全に負けだな。今後はローキック対策を考えておく必要があるな。」
「その辺りは紫鬼さんに教えて貰うといいですよ。」
「だな。」
そう話していると賞金を受け取っていた為に1番帰りが遅かった紫鬼が外に出てきた。
「おぉ。みんな。待たせたか?」
「紫鬼様、優勝おめでとうございます。」
「優勝おめでとさん。」
紫鬼に早速緑鳥と翠鷹が祝いの言葉をかける。
「なに。たまたまじゃな。金獅子との戦いで魔剣の能力を見せてなければワシもあれでやられておったわ。」
そう言うと優勝賞金の入った革袋を俺に手渡してきた紫鬼。
「少ないがいつも世話になっとるからな。足しにしてくれ。」
「あぁ。わかった。皆の活動資金として預かるよ。」
俺は革袋を影収納に収めた。
「にしても疲れたな。今日はステーキの気分じゃわい。クロよ、夕飯は頼むぞ。」
紫鬼からの要望だ。
「任せておけ。蒼龍達も借家で食べて行くか?」
「いや我等は屋台の飯でいい。お気に入りのヤキソバを見つけたのだ。ソース味ではなく塩レモン味でな。機会があれば皆も食べてみるといい。」
「塩レモン味のヤキソバですか。珍しいですね。興味あります。」
「では帰り道に買って帰れば良い。屋台まで一緒に行こう。」
白狐が食いつき、みんなでゾロゾロとヤキソバの露店まで移動することになった。
道すがらの話題は明日のミスコンについてだ。
「明日はいよいよ緑鳥さんの出番ですね。僕今から楽しみです。」
「儂も楽しみにしとるだぁよぉ。」
藍鷲と茶牛が緑鳥に話しかける。
「今更ながら本当にわたしなんかがミスコンに出ても良いのでしょうか。」
不安になっている様子の緑鳥。
「何言うてんねん。緑鳥はんなら優勝間違いなしやわ。胸張っていきや。」
「せやで。緑鳥殿なら他に引けを取らないで。自身持っていきなはれ。」
翠鷹と朱鮫が励ますように言う。
そんな会話をしていたら目的の露店に到着したようだ。
「ここだ。この塩レモン味のヤキソバが絶品でな。紺馬とも2日連続で食べているが飽きがこないのだ。」
「初めて食べた時は衝撃だったぞ。」
とは蒼龍と紺馬の台詞。そこまで言わしめる1品なら興味あるな。
ひとまず全員分のヤキソバを購入し、蒼龍達とはここで別れた。
紺馬と2人で宿屋に戻るようだ。
「じゃあ俺達も帰ろうか。」
「ですね。」
こうして武術大会は無事に終わり、夕飯は盛大にドラゴン肉のステーキを焼いた。
みんなよく食べよく飲んだ。
蒼龍達が勧めた塩レモンのヤキソバも基本的な味付けは塩コショウであっさりとしていながらもレモンの酸味でサッパリとしており、食べやすく美味しかった。シンプルな味付けだから真似できるかもしれないな。具材もキャベツにモヤシ、ニンジンと豚肉と手に入らないようなものはない。ヤキソバはソース味だと言う固定概念を引っくり返された一品だった。近々自分でも作って見ようと決心して、味を覚える為によく味わって食べた。
明日は開国祭も最終日だ。
1番の見物は緑鳥が参加するミスコンか。昼頃から開催らしいので、朝から祭りを見て回って昼にミスコン会場に向かうことにしようか。
出場者である緑鳥は少し早く会場入りする必要があると言うので、藍鷲と2人で先に向かって貰うことにした。
武術大会で疲れたと言う金獅子、銀狼、紫鬼は先に寝たが、残りのメンバーは祭りの最後の夜を楽しもうと遅くまで酒を飲み交わしたのだった。




