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黒猫と12人の王  作者: 病床の翁


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54話 休憩

 巨魔人との戦いを終え、皆王化を解いて緑鳥の元へと集まる。

 ヨルも黒刃・右月と黒刃・左月を影収納に仕舞いこみ王化を解く。

「王化、解除。」

 すると全身鎧は煙となって左耳のピアスにはまった真っ黒い王玉に吸い込まれていき、俺の胸元から真っ黒な子猫が飛び出し俺は自分の体の制御権を取り戻す。

 ヨルは2本の尻尾をゆらゆらさせながら俺の体を昇り定位置となる外套のフードの中に収まった。

『久々にいい運動になったわい。』

「あの戦いを運動とか言っちゃうお前が羨ましいよ。俺じゃ最初の棍棒の一撃でやられてた。」

『ふん。お前はまだまだだからな。』

 そんな事を言われた。


 緑鳥に近付くとちょうど灰虎に聖術をかけているところだった。

「親愛なる聖神様、その庇護により目の前の傷つきし者に最高の癒しの奇跡を起こし給え。ハイヒーリング!」

 王化を解いてボロボロに腫れ上がった顔をしていた灰虎だったが、聖術を受けてその顔の腫れも引いていく。

「いやー、緑鳥には何度も助けられちゃったなぁ。」

 灰虎が言うと、

「わたしには皆様を癒す力しかございません。むしろ役立てているのなら良かったです。」

 緑鳥が謙遜して言う。

 その後緑鳥を守っていた為、戦闘に参加しなかった銀狼を除く皆が緑鳥の聖術による治療を受けた。

 ホントに聖術って凄いよな。

 対象の治癒力を上げてるだけで実際聖術での治療はしてないって話だけど、戦闘中に折ってた蒼龍の左腕を直しちまった。

 骨折なんて普通全治何カ月かってところを一瞬にして治してしまうなんてホント軌跡って感じがするね。


 全員の治療が終わったところで雨が降り始めた為、俺達は巨魔人の住まいの1つに入った。

 帝国軍兵士達もばらけて巨魔人の家屋に入る。

 10000名弱の帝国軍兵士達が全員入れてしまうほどだ。

 どれだけその家屋がでかいかがわかるだろう。


 巨魔人の家屋は石造りになっていたが、その中も石造りの家具が揃っていた。

 テーブルにイス、ベッドなんかも石造りとなっている。

 が、何しろ5m級の奴が使っていたものだ。

 俺達にはでか過ぎた。

 時間的にも夜になる頃合いだった為、今日はここで1泊することにした。

 元々巨魔人が住んでいた事を考えれば魔物の襲撃も少ないだろうとの打算もあった。


 俺は影収納から魔術大国マジックヘブンで手に入れた二口コンロを取り出すと片方には鍋を、もう片方にはフライパンを用意した。

 もちろん鍋もフライパンも影収納から取り出している。

 鍋の方ではぶつ切りにしたレッドボアの肉をタマネギと一緒に炒める。

 片やフライパンの方では薄切りにしたジャイアントボアの肉を炒める。

 やっぱり同時に作業出来ると効率がいい。

 鍋の方には水を入れて煮込む。

 ニンジンやジャガイモなどのぶつ切りにしたものも鍋に投入する。

 フライパンの方は肉に火が通った事を確認して葉野菜を入れる。

 あまり火が通り過ぎてもへたるのでほどほどにしてフライパンの方の火は止める。

 あとは余熱で十分だ。

 鍋の方は出てきた灰汁を取り除くと、俺特製の秘伝のスパイスを投入し、焦げ付かないようによくかき混ぜる。

 とろみが出てきたところで今日は銀狼が知っていた隠し味を試してみる。

 俺は橙犬が残した荷物の中から奴のおやつが入ったバックを影収納から取り出すと荷物を漁りお目当ての物を見つけた。

 チョコレートだ。

 銀狼が以前食べたことがあるというチョコレート入りのカレーを作るつもりだった。

 隠し味って言うくらいだから俺は板チョコを一欠片鍋に投入する。

 味見をするが特にチョコレートが入っている感じがしない。

 俺はちょっとずつチョコレートの欠片を足していく。

 結局板チョコ1枚全部を投入してしまったが、おかげで味にコクが出た感じがする。

 そこまできたら後は仕上げだ。

 フライパンの肉と葉野菜がしんなりしてきたところで醤油と塩で味付けする。

 カレーの味が濃いので、肉炒めの方もそれなりに塩気を足す。

 そして出来上がったのがチョコレート入りカレーと肉と葉野菜の炒め物だ。

 米はすでに炊き上がったものが影収納に入っている。

 ホントにこの影収納は便利だ。

 沢山物が入るし、入れた物は時間による劣化を防いでくれる。

 炊き立ての米を鍋ごと仕舞っておけばいつでも炊き立てのご飯が食べられる。


 俺はカレーと肉と葉野菜の炒め物をそれぞれに配る。

 そして夕飯を皆で食べながら今後の事について話し出した。

「金獅子の言う通り魔法を放たなかった巨魔人は身体能力強化されてたな。」

 鬼王が言う。

「いかにも。巨人と言ってもただの人かと思っておったがあの皮膚の硬さは明らかに普通の人間のものではなかったのである。」

 紅猿も言う。

「だろ?やっぱり俺様の考えた通りよ。魔力の使い方が違うのであろうな。」

「これで魔将は4体目、魔法を放つタイプと魔法を放たない身体能力強化タイプの半々ですね。」

 金獅子が得意そうに言う横で白狐が言った。

「九大魔将ってんなら後5体魔将がいるって事だよな?」

 俺が誰にともなく問うと、

「うむ。そうだろうな。」

 蒼龍が反応してくれた。

「硬い奴等には何度でも攻撃を当ててけばそのうち削れる事が分かったけど、問題は魔法を放つタイプだね。どんな魔法を放ってくるかがわからないと対処のしようが無い。」

 灰虎が言う。

「ん。魔法使いには僕が対応するよ。僕は不死王だからね。王化すれば死なない体になる。」

 黄豹が言う。

『確かにこの前腹に大穴空けてたがいつの間にか塞がっておったな。』

 ヨルが気付く。

「ん。お腹に穴が空いても王化してれば塞がるし、手足がもげてもまた生えてくる。頭を無くした事はないけど、多分頭も生えてくるんじゃないかな。僕、不死だから。」

「頭も生えてくるってマジでか?凄いものだな。死神の加護は。」

 金獅子が驚く。

「ん。みんなが雷や氷、水や火の力が使える様になるのと一緒だよ。ただ僕には攻撃手段が増えるわけじゃなくて不死身になるってだけ。」

 黄豹が言う。

「ホントは僕も攻撃手段が増えたら良かったんだけどね。」

「いやいや。死ななくなるってだけで十分強い能力だろ?流石に腕や足が吹っ飛んだら聖術でも生やせないんだろ?」

 俺は緑鳥に問う。

「はい。あくまで自己治癒力を高めるだけですので、傷口は塞がってもまた生えてくるような事はございません。」

「ほら。手足が生えてくるってだけでも十分強いさ。」

 俺は黄豹に言う。

「だが頭も生えてくるかはわからないんだろ?それなら頭への攻撃は避けるか防御した方がいいだろう。」

 銀狼が灰虎に言う。

「ん。そうだね。頭は守るようにするよ。」

 と言うことで次に魔法を放ってくるタイプと遭遇した際には黄豹が先陣を切る事が決まった。


「それにしても両腕の鉤爪を失ってしまってこれからの戦いは大丈夫なのか?」

 銀狼が灰虎に問いかけた。

「あんたに心配されるとはね。大丈夫さ。闘技場でも元々は鉤爪なしの素手で戦ってたからね。アタイが闘神から加護を貰って爪王って名前つけられたのは両手の爪で相手を切り裂いてたからなのさ。」

「あれ?爪王の由来はあの鉤爪だって聞いた覚えがあるが?」

 俺は問う。

「あぁ。それは闘技場で爪王って、呼ばれる様になったきっかけが鉤爪付きの手甲をしてからだからね。鉤爪が無い時からアタイは爪王なのさ。」

 なるほど。

 そもそもの戦闘スタイルが自身の爪を使った攻撃になるのか。

 俺は納得した。

 他の皆もそれならばと灰虎への心配はなくなったのだった。


 その後も軽く話ながら食事は進み、皆一様にカレーを食べ終えて感想を言ってくる。

「前に食べたことがあるチョコレート入りカレーよりもコクがあったな。」

 とは銀狼の言葉。

「今までのやつより複雑な味になっておったな。」

 とは金獅子の言葉。

「クロさんの作る料理は全部美味しいですよ。」

 と白狐が言うと、

「確かに料理の腕だけは認めるわ。」

 と灰虎が言う。

 料理の腕だけってのには引っかかるが戦闘になるとヨルに代わっているので仕方ないか。

『儂はいつもの方が食べやすいな。』

 いつもの定位置となる俺の外套のフードに戻ったヨルが言う。

 そう言えば猫にチョコレートを食べさせると中毒を引き起こすと聞いた事がある。

 弱点は克服していても、やはりその辺りに影響が出てるのかもな。

「ん。美味しかった。」

 黄豹が言ってくれる。

「うむ。添え物の葉野菜の炒め物も塩気が抜群であった。上手いものだな。」

「親父と2人の時から料理担当は俺だったからな。」

 蒼龍に褒められた。

「いかにも。皆でとる食事はいいものであるな。」

 仙人になって食事を取る必要がなくなったという紅猿も言う。

「ワシはあのスープのやつが好きじゃな。次はあれで頼む。」

 紫鬼が言う。

「分かった。スープカレーな。」

 俺は答える。

「本当に料理がお上手ですね。今度はわたしにも料理を教えて下さい。」

 普段は聖王として公務をこなしていたと言う緑鳥だ。

 料理なんてしたこともないのだろう。

「あぁ。まずは包丁の使い方から教えるよ。」

 俺は答えながらみんなの食器を片付ける。

 食器を洗ってくれているのは白狐と灰虎に緑鳥だ。

 俺は洗い終わった食器を影収納に収めていく。

 一通り片付けが終わるといつもの通り2人ずつのペアになり見張り番をたてて就寝する事にした。

 俺は3番目で紅猿とペアだ。

 交代の時間になるまで俺は眠りにつくのであった。


「おい。起きろ。交代の時間だ。」

 銀狼に起こされた。

 紅猿も緑鳥に起こされている。

 俺達の見張り番の順番になったようだ。

「それじゃ頼んだ。」

「よろしくお願い致します。」

 銀狼と緑鳥はそう言って眠りについた。


 紅猿と2人きりと言うのは初めてだ。

 よくよく見ればぼさぼさに伸びきった赤毛に、同じく赤毛の胸元まで伸びる髭といい、いかにも仙人って感じがする。

 俺は紅猿に話しかける。

「なぁ。紅猿ってなんで仙人になったんだ?」

「む?拙者は80年前に武神様の加護を受けた。その時言われたのだ。武の道を極めろとな。」

 紅猿は長い顎髭を片手で撫でながら言う。

「80年前か。」

「いかにも。27歳の時に加護を授かったのだがその時思ったのだよ。武を極めるには普通の人間の寿命では足りないとな。そこで当時通っていた道場を辞めて山に籠り、仙人となるべく己の武を磨いてきたのである。」

「実際仙人に至ったのはどのくらい経ってからだったんだ?それまでは食事も必要だっただろ?」

「む?そうさな。拙者も最初のうちは魔獣の肉を喰らい、吹雪く雪を口に入れ水分を補給しておったが、年々その回数も減り、山に籠もって60年も経った頃にはなにも口にせずとも生きて行けるようになったな。」

「27歳で山に入って60年か。じゃあ87歳にして仙人に至ったってことか。」

「いかにも。拙者は仙人となり体の老化も止まった。不死ではないだろうが、不老は成れる事がわかったのだ。」

 紅猿は長い顎髭をもう片方の手で撫でながら言う。

「つっても60年もの月日を武を極める為だけに培ってきたんだろ?その辺の権力者が求める不老不死はもっとお手軽なもんだろうさ。」

「うむ。不老は1日にして成らずだな。まぁ元々は仙人に至る為に山に籠ったが、まだまだ己の武を高める為に修行の日々である。」

「武を極める為に80年以上か。凄いな。奥が深いんだな、武ってやつは。」

「うむ。棍を振るう度に思う。もっと素早く、もっと鋭く、もっと正確に振るえるようになりたいものだと。」

「もっともっと、か。」

「うむ。武を極めるとは最高の一振りを手にした時に成るのだと拙者は思うておる。」

 紅猿が棍を手にしながら言う。

「最高の一振り、か。」

 俺は今まで殺し屋をしながらももっと素早くスマートに仕事が出来ないものかと考える事はあった。

 今殺し屋を辞めて魔物討伐をするようになっても同じ事を思う。

 これも武を極めるってやつと同じなのかもしれない。

「最高の一撃って事だな。」

 紅猿が棍を片手に掲げて言う。

「いかにも。最高の一撃を求めて止まぬのが武芸者と言うものだ。」

 俺も武芸者なのかな。

 ちょっと違う気もするが言いたい事はわかった。


 その後は俺が殺し屋時代にもっとも手こずったのは何を使う敵だったかって質問されて、鞭使いが戦い辛かった事を話したり、もっとも困難な依頼は何だったか聞かれて、傭兵を警備に組み込んだお貴族様を殺しに行った時に傭兵20人対1人で戦う羽目になった時の話をしたり、まぁ色々話をした。

 そうこうしているうちに見張り番の交代の時間になったので、俺達は紫鬼と灰虎を起こして眠りについたのであった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 紫鬼と灰虎が見張り番の順番になった。

 この組み合わせも初めてのことであった。

「あ、あのさ。まだちゃんとお礼言ってなかったよね。」

 灰虎が話しかける。

「お礼?なんのじゃ?」

 紫鬼はなんの話かわかっていないように首を傾げる。

「今日の四腕戦の事だよ。増援に来てくれてありがと。」

「あぁ。その事か。なに。遠目から見てもまさしく手が足りない状況に見えたからな。」

 紫鬼は笑いながら言う。

「あの相手は完全にパワータイプに見えたからな。ワシが行ってあの4本の腕のうち2本だけでも封じる事が出来ればお前が勝つと思うてな。」

 紫鬼は何でも無いことのように付け足す。

「それにワシが1番近かったからな。お前に負けて貰っては困る。」

 灰虎が反応する。

「それってどういう意味?」

「あ、いや、その、あれだ!お前とは1度戦っているがまだ本当の意味での勝敗はついてないと思うんじゃ。だから、その、お前に負けて貰っては困ると。」

 若干慌て気味に早口で言う紫鬼。

 それを見て笑う灰虎。

「ふふっ。訳わかんない事言って。でもホントありがと。助かったよ。」

「おぉ。助けになれたなら良かった。」

 笑う灰虎を見てこちらも笑顔になる紫鬼。


 2人の夜はまだ始まったばかりだった。


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